二酸化炭素削減の技術開発へ投資

気候変動問題への極めて重要な対応策の勢いが、現在の経済危機のために弱められつつある。これは非常に間が悪い。なぜなら、先進工業国による排出削減の協調行動に関する話し合いが、この問題のグローバル性や派生する利害関係の大きさにもかかわらず、一向に進んでいないからだ。

もっとも懸念される点は、二酸化炭素やその他の温室効果ガス(GHG)の濃度レベル上昇を最小限に食い止めるための長期政策の欠如である。この遅れは、温暖化を取り返しのつかないレベルまで加速させ制御不能にしてしまうかもしれない。

GHG濃度や気温には臨界値があるとされ、その値を超えると、自己増強型の推進力が生じると認識されている。その後、直接的かつ有害な影響を伴う大規模な事象が引き起こされるのだ。これにより必然的に、差し迫った環境被害を抑えるための資金が必要になり、反対に、温暖化を減速させ食い止めるための取り組みは休止することになるだろう。

つまり、進行中の地球温暖化に立ち向かうためには、この臨界値を超えないためのあらゆる努力をしなければならないということだ。理論上最善とされる一連の政策手段をもって安定したGHG濃度レベルを目指すことが、排出削減という見地から算出された流動目標値に満たない可能性があることが問題なのである。

最大の後悔の最小化

気候が安定した状態から不可逆的に変化が加速する流動的変化モードへと切り替わってしまった気候に適合するための莫大な費用を考えると、唯一賢明な行動計画は予防原則を採用することであり、いわゆるミニマックスリグレット策を推し進めることなのだ。ミニマックスリグレット策の狙いは、最大の後悔を招くような最悪の結末の可能性を最小限に抑えることである。

つまり、気候変動におけるミニマックスリグレット戦略とは、環境自体に昨今のGHG排出で進行している気温上昇を吸収する力がまだ残っていると期待しつつ、GHG濃度を可能な限り現在の水準に保つ努力をすることなのだ。

シベリアやカナダのツンドラ地帯の永久凍土の溶解や、グリーンランドや南極の氷床崩壊に関する報道は年々その頻度を増すように見え、排出制御、GHGレベル、温暖化が議題の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がかつて推定した状態より、環境が脆弱であることを示唆している。

政府が取れる“気候変動危機”への前向きな対応策が3つある。

1. “炭素税”や譲渡可能な排出権を導入する“キャップ・アンド・トレード”型制度を介して、GHG排出による環境被害に値付けをする。
2. 公的資金で運営され、新しい知識や既存技術の斬新な組み合わせの探求促進を目的とする研究開発プログラムを活用する。これにより、研究開発分野における広範なポートフォリオを作成し、直接的または間接的に大幅排出削減を実現できる技術を模索する。
3. これは違う意味の予防策だが、技術的かつ組織的な専門知識の開発を事業化し奨励することが、GHG濃度上昇が数十年後に引き起こす環境破壊や被害を抑制する費用の削減につながるだろう。

組織的投資が必要

科学、技術、革新分野における政策の国際合意には、GHG削減にかかる実費の抑制という公約が必須条件だ。GHG排出削減費用を低減させる基礎および応用研究に対し、組織的な大規模投資が必要になるだろう。

この研究開発は大規模で広範囲に渡り、かつ多様でなければならない。知識の創造段階での性急な結論付けを避け、間違った技術への投資を回避するため、研究開発において多様性は重要なのだ。

つまり、首尾よく整った探索的な研究開発制度は、GHG削減費を抑えるために必要な技術の創造を促進するのである。

さらに、より効果的な技術が開発されたときは、その技術を実現するという選択肢を維持するため、いびつで撤回不可能な資本形成公約を遅らせるだろう。しかし、探索的調査は著しく流動的なため、早期着手が求められる。そうすれば、多様な研究ポートフォリオの中からより見込みのある技術を選び、開発を進めることができるのだ。

つまり政府は、気候変動対策やエネルギー戦略として、探索的研究とより専門的な科学技術研究開発の双方への投資を行うべきなのだ。

気候変動研究開発制度への資金拠出や、技術的知識の進展の共有において、さまざまなレベルでの国際協調が必要だ。各国の科学力や工学的能力の多様性が国際的協調行動を伴い、相互に有利な国際連携の機会を生むのだ。

排出削減の技術革新において、国際競争力を上げる目的で自国の科学技術政策に戦略的に固執することは危険な強迫観念であり、その上、全人類を危険にさらすことなのである。

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翻訳:上杉 牧

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著者

1950年9月15日、ブリュッセル生まれ。2016年9月までマーストリヒト大学学長を務める。それ以前は、国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT、オランダ・マーストリヒト)の所長、マーストリヒト大学国際経済関係学の教授、Maastricht Graduate School of Governance(マーストリヒト大学院ガバナンス研究科)の学部長などを務めている。科学技術政策会議、オランダ王立芸術科学アカデミーのメンバーでもある。

ベルギーのゲント大学経済学部卒業。サセックス大学にて経済学博士号を取得し、1970年代後半から80年代にかけて、同サセックス大学科学政策研究ユニットでシニア・リサーチフェローとして研究を行う。1984年から1985年まで、米スタンフォード大学経済学部で客員准教授を務める。1986年、マーストリヒト大学で新設された経済学・経営学部(現School of Business and Economics(経済・経営学院))に国際経済関係学の教授として就任。1988年、研究機関であるマーストリヒト技術革新・経済社会研究所(MERIT)を設立し、後の2005年には国連大学新技術研究所(UNU-INTECH)との統合による、UNU-MERIT発足を主導。2010年に、マーストリヒト大学院ガバナンス研究科の学部長に就任。マーストリヒト大学院経営管理およびベルギーのメディア企業であるConcentra(コンセントラ)の委員会メンバーを務める。

過去30年間にわたり、著者(または共著者)、編者(または共編者)として、11冊の書籍、50本の査読論文、書籍中の合計約100にのぼる章に携わる。2002年にMSM Honorary Fellow Award(MSM名誉フェロー賞)、2007年にBelgian reward Commandeur in de Kroonorde(ベルギーコマンドル位勲章)をそれぞれ受章し、2010年には母校ゲント大学から名誉博士号を授与された。