ジェイコブ・パーク氏はアメリカ・バーモント州のグリーンマウンテン・カレッジでビジネス戦略・持続可能性を専門とする准教授である。
先日ダーバンで開催された国際連合気候変動会議について、ニューヨーク・タイムズ紙は「参加諸国が1992年にリオデジャネイロで顔を合わせて以来、常に意見の衝突ばかりでほとんど生産性のないまま綿々と続く会議の第17回目」と称した。そして予想どおり、多くの結果は得られなかった。今回の会議での重要な議題の1つに、2009年のコペンハーゲン・サミットで合意されたグリーン気候基金があった。同基金は、気候変動による環境の脅威へ対応するための最貧困諸国の緩和策および適応策を支援するため、2020年までに公的および民間の資金で年間1000億USドルを提供することを目的としている。
同基金の法的地位や国連気候変動枠組条約(UNFCCC)との関係など、未解決の重要な問題が数々残っているものの、同基金に関するダーバンでの決定は明るい第一歩として見なすことができる。
もちろん、国連主催の国際環境会議が、開発途上諸国に対する将来的な資金や技術の約束と共に閉幕したのは今回が初めてではない。
20年以上前の1989年、国連総会は「環境を配慮した健全な開発プログラムのために、特に開発途上諸国に対し新たな追加資金を提供する手段」を見いだす重要性を宣言した。その3年後、国連はアジェンダ21行動計画を開発途上諸国で実行するための総コストを「約6000億ドル」と推計し、「そのうち約1250億ドルは国際社会からの助成金や優遇条件による借款」とした。
約束された6000億ドルのうち、どのくらいが開発途上諸国に送金されたのかは不明だ。しかし経済協力開発機構(OECD)の豊かな加盟諸国に、開発支援としてGDPの0.7パーセントの提供を求めた国連の要請が無視され続けていることは特筆に値する。
悲しいことに、過去の国際環境会議と比較すると、必要かつ約束されたグリーン気候基金の資金を調達する可能性は、急速に悪化する地政学的現状によって大きく狭められている。そうした現状に巻き込まれているのは、アジェンダ21を含む大がかりな世界的イニシアティブを擁護し通常なら率先して持続可能性を追求する欧州連合(EU)を含む国々であり、常に消極的なアメリカへのロビー活動を期待されているのだが、国内や周辺地域でのなかなか解決できない問題が足かせとなって身動きができないでいる。
EUが今後も現在の形態で存続するか否かという根本的疑問を、多くの観測筋が口にし始めている。それはほんの数カ月前までは考えもつかないシナリオだった。
UNFCCCの未来を楽観視することは難しい。しかしグリーン気候基金は、世界的な気候ガバナンスを前進させる現実的な機会となり、開発途上諸国への本当の経済支援や技術提供を実現させる可能性がある。それが実現するかどうかは、4つの重要な問題や疑問にかかっている。
第1に、開発途上諸国の最も脆弱な人々が気候変動に伴う多様なリスクに適応し、それを管理するために、グリーン気候基金は役立つだろうか?
貧困を迅速に削減できるほど経済を急速に拡大している開発途上国は24カ国以上ある一方で、総勢10億人近く(オックスフォード大学のポール・コリアー氏が「最底辺の10億人」と称した人々)を抱える35カ国の開発途上諸国は、国連が毎年発表する人間開発報告書での国別指標では一貫して最下位の一群に入っている。
第2に、グリーン気候基金に関与する多くの利益団体やステークホルダーの利害を超えて、基金を組織として機能させることは可能だろうか? 投資資本が少ない中で何十億ドルの使途がどうなるかが懸かった状況では、同基金の「成功」を左右する観点から立場を固めようとするステークホルダーには事欠かないだろう。
ワシントンDCを拠点とする政策シンクタンクのセンター・フォー・アメリカン・プログレスは、「資金提供に関して最も費用効果の高い決断を下すためにはUNFCCCの官僚体制から独立すること」が同基金の運営に必要であり、「実績に基づき、数字を重視した手法」が必要だと主張した。
確かにこうした提案は重要だが、そのような運営が具体的にどう実現できるかという問題の方がより意味がある。基金の運営は、プロの資産運用マネージャーやアナリストのいる典型的な投資ファンドのように行うべきだろうか?
資金を提供する国の中には、そうした典型的モデルを好む国があることは間違いない。しかし、特に開発途上国を含む多くの国々は、富裕諸国(必要な投資資金を提供する上で主導権を握ることになる国々)が資金の支払いをするにあたり、不必要とは言わないまでも不合理な条件を付与したがっている証拠と見なすだろう。
アメリカの場合、グリーン気候基金と国連の官僚体制が強いつながりを持てば、基金への経済的支援を行うのに必要な国内の政治的支持を集めることが困難になるだろう。国連への同様の反感はEUにも存在するが、アメリカほど強烈な国は他にない。
第3の疑問は、開発途上諸国のおける地域的な気候対策に民間部門が投資するために必要かつ有効な状況をグリーン気候基金が作り出せるかどうかだ。世界の気候ガバナンスにおける過去20年間での最大の変化はほぼ間違いなく、民間部門が草の根的かつ地域的な気候対策に対して、反対する立場から参加する立場へ転換したことである。
キーストーン・パイプライン事業のようなプロジェクトの正当性については、今後も議論を続けるべきだ。その一方で、既存の国家的開発への支援プログラムや、地球環境ファシリティのような環境対策への国際的な資金メカニズムを補完するために、民間部門による何らかの資金提供が必要であることは間違いない。
世界経済および開発を研究するブルッキングス研究所のシニアフェローで、世界銀行の持続可能な開発部門の元副総裁であるキャサリン・シエラ氏は、最近の研究報告書で、民間部門からの投資を促すように市場環境を変え、開発途上諸国における気候変動対策に民間部門の投資家を引きつける革新的メカニズムを見いだすことに公的資金を使う重要性を強調している。公的資金の利用方法としては、例えば、開発途上諸国にクリーン・テクノロジーを導入する総経費を減らしたり、環境に配慮したインフラ整備プロジェクトにより多くの民間資金を集めるための取引コストを削減したりするために活用できるだろう。
つまり、もはや問題は、グリーン気候基金の大きな目標実現のために民間部門が投資家やパートナーとして参加できるか否かではなく、いかに参加できるかということなのだ。
検討すべき4つ目の問題は、制度的透明性と説明責任と影響という点において同基金を効果的に運営できるかどうかだ。
1960年以来、豊かな西ヨーロッパ諸国と北アメリカと日本は、政府開発援助(ODA)として3.2兆米ドルを拠出してきた。ODAは今や2000億ドルの産業である。そのうち1220億ドルは従来の豊かなOECD加盟諸国から提供されている。530億ドルから750億ドルは民間の資金提供者(基金や民間企業など)から提供されている。さらに年に140億ドルは、中国、インド、ブラジル、トルコ、大韓民国など新興経済諸国によって拠出されている。
ODAが今、直面している最大の課題であり、グリーン気候基金にとっても重要な意味を持つのは、資金提供諸国と被援助諸国の双方に各自の責任を果たさせることだ。資金を提供する国や組織は一定の透明性の基準を守らなくてはならず、一方、援助を受ける国や組織は一定の説明責任を全うすべきである。
国際環境開発研究所は、コペンハーゲン会議で合意された2010~2012年の「短期資金」プログラムの一環として新たな追加資金を拠出している国々を検討し、どの国がリーダーで、どの国が遅れを取っているか、スコアカードを提供している。同研究所の最近の報告書によると、最も高くランクづけされた国々(日本とノルウェー)でさえ、気候関連資金の透明性についてはもっと努力が必要だという。
トランスペアレンシー・インターナショナルも最新の年次報告書で、気候変動ガバナンスにおける非常に重要な要因として、透明性と制度的腐敗を強調している。
グリーン気候基金がいずれ1000億ドル、あるいはその一部を拠出する力を持つかどうかはともかくとして、より重要なのは、同基金が制度的透明性や説明責任や影響という点で効率よく運営できるかどうか、そして、それはどのように実現できるのかということだ。
翻訳:髙﨑文子
気候変動対策への投資 by ジェイコブ・パーク is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.