グローバル政治の未来は共謀か?結託か?

2017年12月22日

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最近報じられているロシアの組織犯罪と米国の政治家による共謀疑惑には驚かされる。しかし、おそらくこれは驚くべきことではないのだろう。

世界的に見ても、政治と組織犯罪の線引きはかなり曖昧で分かりにくい。

南米では、汚職スキャンダルの捜査「洗車作戦」によって、南米大陸全土に広がる不正な選挙資金調達ネットワークの存在が明らかとなった。北朝鮮政府は、世界的な通貨偽造、麻薬密売、人身取引などの活動に関与しているとして非難を浴びている。さらに国連大学の最近の調査結果からは、武力紛争のあるところには通常、組織犯罪が絡んでいるということが示された。

米政府が2011年に発表した「国際組織犯罪に対する戦略」は、「犯罪ネットワークが中央政府内の腐敗分子と手を結び、米国の国益を脅かしている」と指摘し、上記のような問題が発生するリスクがあると予測していた。

そして、米政府が認識しておくべきことがここにもある。つい数日前にジョン・F・ケネディ米大統領暗殺に関する米政府の機密文書の一部が公開され、米中央情報局(CIA)が米国マフィアと組んでキューバのフィデル・カストロ議長の暗殺を謀っていたことが裏付けられる形となった。

組織犯罪グループは長年にわたり、政府の範疇では(堂々と)成しえない行為を代行し、国家機関に対する補完的役割を果たしてきた。その役割の範囲は、薬物や武器の密輸、国内での暗殺、強奪、マネーロンダリング、海外政治家への投資などを含む戦略的オフショア投資にまで及んでいる。

英国国防省のために国連大学が最近実施した調査では、政治家と犯罪組織の共謀行為は、今後30年にわたり国家およびグローバルガバナンスにおいてその影響力をさらに高めるとともに、増加していくものと予測されている。

政府が踏み入れるのを恐れる場所

この増加予測の理由はいたって簡単である。脆弱者への対応や保護など、政府が対処しきれない、あるいは対処しようとしないあらゆる不履行を組織犯罪グループが代わりに行っていくためである。したがい、各国政府が人々の保護に当たろうとしない、または当たることができないといった状況は増え続ける一方である。

その結果、グローバルガバナンスから犯罪ガバナンスへ、さらには、不安定で機能不全に陥った国家政府が不正な手段を使う政府へという変遷が生じかねない。

例えば、移住について考えてみる。中米では、各国政府が移民に対する措置として、持続可能な生活の構築やギャングの暴力からの保護といった支援を行うことができない、または行おうとしないことから、移民は目的地までの移動やその道中の「保護」においては、組織犯罪グループに頼るしかない状況を強いられている

同様に、サハラ砂漠以南のアフリカ地域からサヘル、リビア、地中海を経て移動する移民もまた、保護を得るには密輸業者を頼るしかなく、奴隷や拷問の被害に遭うリスクを負わざるを得ない。

この状況は、目的地に到着してからもさほど良くはならない。イタリアの一部地域では、移民収容センターの多くをマフィアが取り仕切り、移民に最低限のサービスを提供するだけで、政府からの援助金を着服している。

2050年までに、この市場はさらに拡大するだろう。

欧州、東アジア、北米、湾岸諸国の高齢化に加え、サハラ砂漠以南のアフリカと南アジアでは若者が急増していることからも、非正規移民の問題は今後もなくなることはない。組織犯罪グループが財政支援や権力と引き換えに、非正規移民の問題に対処しこれを抑制してくれることを、政治家は期待している。こうした状況を背景として、密入国斡旋や人身取引は、腐敗政治家の庇護のもとに存在し続けることになる。

変化する都市、労働・資源市場

自動化と人工知能の台頭により、特に若者を始めとする多くの人々が生活手段と生き抜くための策を探し求めなければならない状況に取り残され、国にとっては対応の難しい新たな脆弱者が生みだされる可能性がある。そうなれば、組織犯罪グループという選択肢への依存度は増し、中米のような一部地域では、実質的に組織犯罪グループ以外には何ら選択肢がない状況となってしまうだろう。

西アフリカでは、貧困と失業率の高さからすでにギャングの関与を促す状況が生み出されており、さらに国と国民の仲介者としてギャングの果たす役割も大きくなっている。気候変動と環境悪化による資源不足の進行を背景に、今後、脆弱な世帯の拡大が進むものと思われる。こうした脆弱者の増加に伴い、組織犯罪グループや、さらには腐敗政治家が、食料や水といった不足物資の配給管理に介入する新たな機会を得ることになる。

犯罪組織と政治家のネットワークはすでに、アフリカでの野生動物違法取引や南アジアの水マフィアにおける中核的存在となっている。急激に都市化すれば、資源不足が進み、ガバナンスに関する問題が深刻化していく。政府に顧みられない地域では、安全確保や公共サービスの提供を現地の犯罪グループが担うことになる。例えば、リオデジャネイロのファベーラと呼ばれる貧困地区では、補助金を受けられる電気供給や道路補修工事などの公共サービスをギャングが手がけており、その数は政府を上回ることもある。

Dark Web(ダーク・ウェブ)

ネットにアクセスする人はもとより、日常生活の中でネット接続される機器が増えていることから、サイバー空間における新たな脆弱者も急激に増えている。最近のサイバー攻撃では、医療システムが一時停止に陥り、国際銀行のシステムから巨額の金が盗みとられ、選挙結果が操作されるなどの被害がでており、ネットの脆弱性が高まりつつあることを痛感させられた。

中国が行っているグレート・ファイアウォールと呼ばれる検閲システムのような、ある特定のサイバー空間へのアクセスを制御する排他的なサイバー保護策を講じようとする国もあるかもしれない。あるいは、犯罪に関する専門知識を有する者たちの力を借り、彼らと非公式な協力関係を結ぶか、最近シンガポールで提出された法案のように「公認」ハッカーを正式に認定するといった方法によって、自国の対応力を向上させようとするであろう。

正当な結託

今後30年間を概観したとき、気候変動をはじめ、ビッグデータや人工知能による経済的混乱、サイバー脅威、その他危機的状況をもたらす要因の影響を強く受ける一部の国では、政府による国民の保護が困難になる可能性がある。そうなれば、別の組織がそれら問題対処を代行するようになり、その代償として、財源、さらには人々の信頼をも奪っていくことになる。

国民は自らの忠義の対象を、国ではなく、想像もしなかった地域共同体、例えば、ウンマ(イスラム共同体)やその指導者カリフ、マラス(ギャング)やマフィア、あるいは新たに生まれた共同体といったものに向ける可能性がある。そうなれば、政府は独力で行うことのできない国民の保護や公共サービスの提供において犯罪グループと共謀していくことになり、無理やり合法性を持たせた形で行うため、腐敗したガバナンスがさらに拡大していくことになるだろう。

ただ、この結果は必ずしも回避できないものではない。

リスクや脆弱者の問題への対応において、産業界や市民社会といった、犯罪グループ以外の主体との連携という選択肢も政府にはある。この選択肢には別の形の結託が必要となってくる。環境や、安全で開かれた民主的なサイバー空間、グローバルな金融・安全保障システムなどの公益を保護していくために行う結託である。

では、どのようにこの結託を図っていくのか。これは公平で規則に基づいた国際秩序を維持していくために解決しなければならない重要な課題である。

これに失敗すれば、国だけでなく、私たちの未来も奪われることになるのである。

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この記事の初出はThe Hillに掲載されたものである。