クルス報告書により、日本の平和維持活動は終わりをむかえるのか

過去5年間にわたり平和維持要員への攻撃が増加の一途をたどる中、2017年は国連が主導する平和維持ミッションにとって、この四半世紀で最も危険な年となった。これを受け、アントニオ・グレーテス国連事務総長は、元部隊司令官のドス・サントス・クルス氏に、現代の紛争において平和維持要員のリスクを抑える方法について調査を依頼した。その調査結果を取りまとめた報告書「国連平和維持要員の安全性の向上」(通称「クルス報告書」)は、平和維持活動をより「積極的な姿勢」へと根本的にシフトさせ、平和維持要員に敵対的な人々や組織に対する「圧倒的な武力」行使が必要であるとまとめている。

これは、国連にとっては有意義な後押しになるかもしれないが、昨年、南スーダンからブルーヘルメット(国連平和維持活動を、従事者がかぶる青色のヘルメットで表す言い方)を引き揚げた日本の復帰が困難になることはほぼ間違いない。世界で最も危険な紛争で、より積極的に武力を行使するという方向に平和維持が進んだ場合、歴史的に見てリスクを回避する傾向の強い日本が果たせる役割はあるのだろうか。役割はあっても、日本が平和維持に再び参加すべきか否か、そうであればいかに参加すべきかに関し、日本政府にはクリエーティブな思考が必要となるだろう。

平和維持活動における日本の役割

日本は、1992年に国連平和維持ミッションへの自衛隊の参加を可能にする法律を制定して以来、26年間にわたり平和維持活動を続けてきた歴史を誇りとしている。しかし日本の参加は、戦争を放棄している憲法、平和維持活動に制限を加えている法律(停戦が成立し、武力行使が自衛に限られている状況に展開を限定)、そして海外の紛争で自衛隊員を危険にさらすことを極度に嫌う日本国民の考え方など、厳しい制約の下で実現してきた。カンボジアへの初の展開以来、日本は約1万人の要員を平和維持ミッションに派遣してきたが、こうした制約は、日本の部隊を最前線の活動から遠ざけ、工兵(直接の戦闘は行わず、技術的な任務に従事する兵)や後方支援(共同で対処する国の軍隊へ物品や役務を提供する)など、非戦闘活動に限定する傾向にある。

そのような中で、2015年には大きな動きがあった。議論を呼んだ安全保障関連法案の成立により、武力行使の可能な範囲が拡大した。これにより、自衛目的のみの武器の使用から「ミッションの遂行を目的とする武器の使用」へと変化し、自衛隊の平和維持活動に対する制限が緩和された。翌年、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)へ派遣している自衛隊員のマンデート(展開期間や権限内容など平和維持の機能全般)に、他の国連部隊、NGOスタッフ、民間人が危険にさらされた場合、「駆けつけ警護」を可能にするという新たな任務が加えられた。

こうした責任の拡大により、激化する一方の南スーダン内戦への対応に、自衛隊はより積極的に関与できるはずだった。しかし、数カ月後に政府が撤退を決めたため、この新たな役割を果たす機会は訪れなかった。

日本は、アフリカの兵員提供国の能力開発に対する4,000万ドルを超える資金供与を含め、平和維持活動に多額の資金を提供しているにもかかわらず、南スーダン以後、その他の国連ミッションに兵員を展開する手だてを見つけられないままでいる。

扉はほとんど閉じられてしまったのか

クルス報告書の発表前から、日本は平和維持活動への復帰点を見つけられず苦労していた。ダルフール(スーダン西部の地域)や南スーダン、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、マリをはじめ、現時点で大規模な平和維持ミッションを受け入れている国々は、激しい紛争から抜け出せていないため、大きなリスクを背負いながらも機動的で強靭な役割を果たす兵力を圧倒的に必要としている。南レバノンの国連レバノン暫定駐留軍(UNIFIL)、さらにはゴラン高原の国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)など、安全とみなされてきた国連ミッションも存在していたが、中東問題の行方と幅広い地域リスクに対する強い不透明感により、政府はこの地域への展開をためらう可能性が高い。また、キプロス(地中海に位置するキプロス島南部の国)のような安全なミッションでは、日本が提供できる範囲の能力は必要とされていない。

クルス報告書により、日本の自衛隊が平和維持に参加できる可能性はさらに低下している。「より積極的かつ先制的な」措置が公然と求められており、武力行使に対する日本の法的限界と衝突してしまう。しかも、クルス報告書は「死傷者が引き続き発生し、しかも増加しかねない」とまとめているため、リスクの高い地域へのブルーヘルメットの展開に気乗りしない国民からの支持を考慮し、日本の政治家が慎重になることはほぼ間違いない(南スーダンにおける自衛隊の限定的な役割を支持したのは、日本国民のわずか32%だった)。

さらに具体的に見ると、クルス報告書は日本をはじめとする多くの国に、引き受ける活動内容を限定するために兵力提供に厄介な制約を加えるという慣行に終止符を打つよう、直接に求めている。ここにも明らかなメッセージがある。国連は、地球上で最も危険ないくつかの状況に制限なく対応する用意と意志のある兵員を求めているのだ。

平和維持活動に復帰する意義

このような状況における日本の行動は、当面の間、国連平和維持活動への積極的な参加を中断し、より魅力的な環境の中で展開できる将来のミッションの機会を待つという方針になるだろう。しかし、この選択肢は国連だけでなく、日本にとっても損失となり、また、平和維持活動の環境がますます危険になる傾向から見て、その待ち時間は長期化するだろう。

実のところ、国連平和維持活動への積極的な参加は、3つの意味で日本の国益にかなう。第1に、平和維持活動への自衛隊派遣は、安全保障理事会の常任理事国入りという日本の長年の主張を助ける手立てとなる。

第2に、自衛隊にとって平和維持活動は、マリやその他のミッションで中心的な役割を果たしているNATO加盟国をはじめ、他国の軍隊と連携する経験を積む機会となる。

第3に、日本は越境的犯罪集団やテロリストの起因となりかねない国々を安定化させるための支援に関心を示している。国連の平和維持が日本の国益に資するという認識は、安倍晋三首相が2015年の国連平和維持サミットで共同議長を務める要因となっただけでなく、日本はこの会議で具体的な公約も掲げた。

しかし、日本は「クルス報告書時代」に、いかにしてこの公約を復活させることができるだろうか。重要なのは、平和維持活動に有効な能力を提供することだ。自衛隊を危険にさらさなくても、大きな変化はもたらせるだろう。

例えば、平和維持には現在、航空機材やドローンを含む移動に必要な資産や諜報能力(情報を合法または非合法の手段によって収集する能力)が大幅に欠けている。重量物の運搬やメディカルエバキュエーション(略して「メディバック」。救急車やドクターヘリによる医療機関への負傷者の搬送)とともに、日本がこれらの分野でも貢献できれば、当面は平和維持における日本の必要性を効果的かつ具体的に満たせるだろう。

また、華やかではないが、日本にとって同じく重要な貢献として、国連事務総長の「平和維持のための行動」アジェンダにおいて目に見える主導的役割を果たすことも挙げられる。そこでは、平和維持要員の装備と訓練の改善(日本が大いに得意とする分野)が大きな重点項目となっているためだ。

クルス報告書は、日本が平和維持に参加する可能性を狭めたように見えるが、重要なのは、その可能性はまだ存在するという点である。しかも、平和維持に復帰したいという日本の希望は明らかだ。そのためには、政治家のビジョンとリーダーシップに加え、平和の実現に向けた新たな方法を模索するという意志も必要になるだろう。

著者

アダム・デイは、国連大学政策研究センター(UNU-CPR)のプログラム・ディレクターとして、進行中の研究プロジェクトおよび新しいプログラムの開発を監督しています。

国連大学で職務に従事する以前は、10年間にわたり国連にて、平和活動、紛争問題への政治関与、仲介、民間人の保護などを中心に活動していました。国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(コンゴ共和国)、国連レバノン特別調整官事務所、そして国連南スーダンミッション(UNMIS、ハルツーム)と国連アフリカ連合ダフール合同ミッション(UNAMID、ダフール)の各本部において政治アドバイザーを務め、国連本部(ニューヨーク)の政治局および平和維持活動局において政務官を歴任。

また、カンボジアのオープン・ソサエティー・ジャスティス・イニシアティブやヒューマン・ライツ・ウォッチのジャスティス・プログラムなど、市民団体での活動にも従事しました。