ブレンダン・バレット
ロイヤルメルボルン工科大学ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。
日本もそろそろピークオイルの現実に目覚める時がきているのではないか?
端的に言うと、ピークオイルとは世界の石油産出量が頂点に達するタイミングである。ピーク後は、産出量は末期的な減少に入る。これは、この魔法のような物質である石油に大きく依存している我々の近代文明にとって、先行きが困難なことを意味する。(ピークオイル:それが我々に意味するものは?をご参照)
日本は、一次エネルギー供給の49%を石油に頼っており、化石燃料(石油、天然ガス、石炭を含む)への依存率は80%に上る。エネルギー安全保障の観点からも、世界第2位の経済を誇る日本経済は、ピークオイルが近づくにつれ、より不安定になっている。
そんな中、日本政府はピークオイルの到来に向け、どのような準備をしているのだろうか。
私たちは、経済産業省資源・燃料部政策課、課長の寺村英信氏にこの疑問を投げかけてみた。同省内の職員が忙しく行き来する廊下を抜け、やっと空室の会議室を見つけることができた。
寺村氏の仕事は、石油価格の監視だ。予測される石油不足について話しをふると、寺村氏は「価格安定性」の重要性を強調した。「真に必要なのは、長期計画やエネルギー投資を後押しする、より安定した価格です」 しかし、それは本当に可能なのだろうか?
昨年7月の石油価格高騰は、世界経済を揺るがし、消費者に多大な影響を与えた。そして、人々が口ぐちに「安価な石油の時代は終った」と断言するのを耳にした。しかし、12月になると石油価格が暴落し、生産者に痛手を与えることとなった。さらには、金融危機の影響で、石油産業への新規投資も失敗に終わった。
しかし、不確実性は常に残る。最悪のシナリオに基づけば、近い将来に石油価格がより高値となって世界経済を再び襲うことも考えられるのだ。
ガーディアン紙のジョージ・モンビオット氏による最近のインタビューで、国際エネルギー機関(IEA)のチーフエコノミストであるファティ・ビロル氏は、通常原油の産出量は2020年に頭打ちになると指摘している。
2020年は遠い未来ではない。すなわち、日本がポスト・ピークオイルへの移行に向けて大きく進展するための時間は11年しかない。
無論、もっと切迫感があってしかるべきだろう。2005年2月にロバート・R・ハーシュ氏が米国エネルギー省のために作成した報告書『世界の石油生産がピークを迎える』により、我々も早期行動の必要性に気づかせられる。
ハーシュ氏は結論として、ポスト・ピークオイルへの移行で3つのシナリオをあげている。
再生可能エネルギーは、世界の発電電力量の18%を占めるのみだ。2009年2月にIEA事務局長の田中伸男氏は、この事実を念頭に置き、2050年までに50%に引き上げるよう呼びかけた。この課題に真剣に取り組むスウェーデンでは、2020年までにエネルギーの50%を再生可能エネルギーでまかなう試みが始まっている。
また、EU全体とインドも2020年までに20%、中国は16%を再生可能エネルギーにする事を目標としている。米国でも、2025年までにエネルギーの25%を再生可能なものにしようとする法案が議会に提出された。
数日後、私たちは経済産業省の省エネルギー・新エネルギー部の政策課長である増山壽一氏と再生可能エネルギーについて話し合った。
書類が山積みになったデスクで、忙しく働く人々で込み合った部屋の小さなテーブルについた。仕事熱心な増山氏と彼の同僚たちは、残業が常となっており、しばしば夜中の12時まで及ぶこともある。
増山氏の課題は再生可能エネルギーの普及促進で、意欲的に取り組んでいる。このポストに就いてからまだ10か月だが、彼の元には次々と訪問者が訪れ、先月はNHKの日本版グリーン・ニューディール政策についての番組にも出演した。
太陽光発電において、日本は世界第二位である。(数年前にドイツに追い越される)2007年のドイツの太陽光発電量3,862 MWに対し、日本は1,919MWであった。さらに、新たな景気対策の中で、太陽光発電の盛り返しを図る計画もあると同氏は語った。(詳細は後述)
2007年の風力発電量は1,538MW。日本は風力発電容量(「風に接続」をご参照)の比較一覧表でも、次第に後退しており、現在は13位にとどまっている。
増山氏によると、日本の地形や人口分布は風力発電の幅広い導入に適さないという。彼は地図を描いて、風力発電に適するのは人口集中地域外だという、自らの意見の論拠を説明してくれた。
単刀直入に話そう。日本はピークオイルに関して公式な見解は出していない。しかし最近、化石燃料の依存削減と代替エネルギーの促進を目指す2つの議案を国会に提出している。
2008年5月の経済産業省の予測によると、日本は2030年までに石油依存を35%削減できるという(最大限の努力をした場合)。しかし、増山氏や寺村氏のような公務員にとっての主な課題は、エネルギー供給の制限克服とこれらの目標達成、そして同時に日本経済の競争力を維持することにある。これは、非常に難しい舵取りだ。
もっともリスクの低いアプローチは、原子力発電と太陽光発電の普及促進、そしてエネルギー効率の向上を図ることだ。しかし、ソーラーパネル生産競争は次第に過熱しており、特に中国は2007年に日本を追い抜き、現在世界第二位の生産国となっている。
風力発電は、先に挙げた理由から、日本政府にとって魅力的な選択肢ではない。しかし、ピークオイルの到来が近づくにつれ、従来の前提をすべて再検討し、あらゆるエネルギーの選択肢を残しておくのも無駄にはならないだろう。
経済産業省が想定した「最大限の努力をした場合」では、日本は2030年までに12%の総エネルギー消費量を削減することができるという。このシナリオでは、再生可能エネルギーが一次エネルギー供給の11.1%に拡大する一方で、原子力も49%近くに増大している。
これらの対策はある程度、日本をピークオイルの初期影響の衝撃から和らげてくれるかもしれない。しかし、より意欲的で勇気ある政策が必要になるだろう。刻一刻と迫るピークオイルだが、日本は対応が遅れている国の1つだ。
ポスト・ピークオイルへの移行に向け、日本の公務員たちは、答えを探して幾日も残業をすることになるだろう。特に、IEAが予測しているように、ピークオイルの到来まで残り僅か11年間となってからはなおのことだ。仮に悲観論者が正しいならば、我々は間もなくピークオイルを迎え、大きな損害を受けるだろう。
これは時間と運との闘いである。
ピークオイルに目覚める日本? by ブレンダン・バレット is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.
Based on a work at http://ourworld.unu.edu/en/japan-and-peak-oil/.