シュテファン・シュミトは 来日前にはヨーロッパのデジタルエージェンシーネットワークのひとつでプロジェクトマネージャーとして働いていた。現在彼はハインツ・ニクスドルフ財団が主催する将来のドイツ人実業家養成のためのアジア太平洋プログラムに参加している。デジタル文化に興味があり、国連大学のOffice of Communicationsで知識を共有することを喜ばしく思っている。ドイツ ワイマールのバウハウス大学卒業。
我々Our World 2.0は、先日、横浜で開催された新エネルギー世界展示会を見学し、この部門における日本技術の進展状況を取材してきた。目的は、風力、太陽光、バイオマスなどのエネルギー分野における最先端の現状の把握だった。また新技術が市場に参入するまでにどの程度の時間を要することになるのかも知りたいと思った。
世界風力エネルギー協会(WWEA)の年間報告書(PDFファイル)によると、2009年末の時点で、世界全体の風力発電の設備容量(※風速、風向が各々の設備に適合した時に可能な最大発電量)は159.2ギガワットであり、実際の風力発電量は世界の電力消費量の2%に達した。今後、世界各地で再生可能エネルギーの生産が増大されるに当たり、風力発電が大きな役割を果たす可能性は高いが、そのためには洋上風力発電施設への投資を含む、かなりの額の投資が必要となる。
さまざまな社会状況、気象状況、地形状況への適合を目指し、風力技術は現在に至るまで発達を遂げている。中でも注目すべきステップは次の通りである。①ロータ(※風力タービンの回転する部分)の大型化。それによって大容量の発電が可能となった。②風速の強弱に応じて制御可能なロータを持つ可変速度タービンの搭載。それによって電源変動の低減と騒音公害の緩和がもたらされた。③沖合の定常的な強風を利用できる浮体式洋上風力発電設備の建設。それによって沖合に5.0メガワットの発電が可能な風力タービンも設置可能とされる。
横浜の展示会では、風力技術の進歩の中で今最も注目を集めている技術のひとつである「風レンズ」も発表されていた。この名前は虫眼鏡のレンズに由来する。虫眼鏡が太陽光線を焦点に集中させるように、風レンズは風力を集中して強めることができるからだ。風レンズは比較的単純な構造をしている。「つば付きディフューザ」と呼ばれる大きなリング状の構造体が風力を集め、中央にあるタービンを回す。
実証実験によると、風レンズを伴うタービンは、ディフューザなしの場合と比べて3倍もの発電量増加を達成できる。九州大学の大屋裕二教授によると、ごく微風であってもタービンの回転をかなり加速することができるそうだ。幅2.5メートルのタービン翼は、風速5メートルの風があれば、一般家庭の一世帯に十分な電力を供給可能だという。(デモンストレーション・ビデオ参照)
風レンズを用いると効率が高いので、風力タービンのサイズは小型ですみ、結果として建設費も削減される。また安全性が高まり、騒音公害も低減するので、都市環境において風力発電を利用しやすくなる。
付加的ループに必要な材料が高額なため、現在のところ、風レンズは製造コストが通常よりも高くつく。しかしながら、大屋教授によると「2~3倍の高出力が得られるというメリットは、コストパフォーマンスの高さをもたらす」。しかも教授はコストパフォーマンスのさらなる向上を確信している。
こうした数々のメリットをもつ技術であるが、たとえ日本市場に参入できたとしても、
他の国々で採用されるのは容易ではないかもしれない。風力や風向の様子が国によってまちまちだからだ。(日本では、沿岸部の風は年間を通して比較的弱い)
しかし日本では、洋上風力発電設備の建造技術とその構造デザインの開発が進み、日本の海岸線の地理的条件とうまく適合させることができるなら、吸収される風力エネルギーの増大が見込まれるであろう。
大屋教授によると、もし大型の浮体式洋上風力発電設備の建造が実現されたら(イラスト参照)、風力エネルギーは主流エネルギーになるだろうという。例えばヨーロッパでは欧州風力エネルギー協会(EWEA)が、今後想定される洋上風力発電設備の増加に伴う船の需要に対して、24億ポンド(約290億円もの投資の必要性を主張している。
「ご存知のように、風力タービンと太陽電力プラントは、大容量の電力供給のために広大な土地を必要とします」と大屋教授は言う。しかし教授は、日本の国土は狭いが、世界でも有数の広大な海上国境エリア(排他的経済水域)を持つことを指摘する。
現在日本では、家庭で発電した電力を送電網用に買い取るための法整備について議会で審議されている。(同様の試みの成功例として、ドイツのRenewable Energy Sources Act(再生エネルギー資源法)において定められたものが挙げられる)
その一方で、大阪府立大学の応用化学科のエンジニアたちは、より広範囲の波長の光を吸収できる太陽電池を作るための新しい「光増感色素」を設計開発している。開発者たちの話では、この技術は現在の太陽電池の効率を少なくとも15%上げることができるそうだ。
横浜の展示会では、太陽光発電技術の例が多数展示されていた。その中には、「スマートハウス」と呼ばれるものがあった。スマートハウスでは、家庭内で使われる製品が、台所用品、給湯器、エアコン、そして車に至るまで、太陽電気で動く。
エネルギー管理システムを組み込んだスマートホームによって削減可能なCO2は約56%だという。
オール電化の家に、エネルギー効率の良い電化製品をそろえ、コンピューター制御のエネルギー管理システムを備えると、 家庭のCO2排出量をかなり削減できる。さらにその電力が、太陽パネルやヒートポンプや家庭用風力タービンなど、家庭で発電した再生可能エネルギーであれば、なおさらのことだ。
東京電力(TEPCO)によると、エネルギー管理システムを組み込んだスマートホームによって削減可能なCO2は約56%だという。今回のフェアで展示されていたパナソニックの「ライフィニティ」でも、このようなシステムがみられた。ライフィニティでは、自分たちでエネルギー使用を調整できるように、家族みんなが発電量と消費電力との比率をモニターできる。
ありきたりの方法と思われるかもしれないが、家庭内のエネルギー消費の測定値をモニターできることの効果は大きい。測定できないものを管理することはできないからだ。毎日どれほどのエネルギーが消費され、毎日どこに無駄があるのか視覚化されていれば、我々は、各々の電化製品に対するエネルギー使用の習慣を変えていけるかもしれない。
横浜の展示会を目安としてよいならば、バイオ燃料の生成は、日本の多くの研究機関において、主要な研究分野のひとつと言えそうだ。
電力中央研究所(CRIEPI)は、アオコ(光合成によってエネルギーを得るバクテリアの一種)から”緑の原油“を抽出する興味深い研究を発表した。電力中央研究所は、水分含有量の高い藻類から有機化合物(油分)の抽出のために、脱水剤を工夫することによって、現存の藻類技術で使われている複雑な工程を単純化することに成功した。
この工程は、バイオマスの脱水、農作物の採取、毒性の有機溶剤の使用が不要になるというメリットある。その結果、環境やオゾン層への悪影響がないことも、この蒸留過程のメリットとなる。
微細藻類から緑の原油を抽出するこの新しい方法は、世界の地球温暖化とエネルギー危機を救う持続可能な第二世代のバイオ燃料のひとつとなり得るであろう。
微細藻類から緑の原油を抽出するこの新しい方法は、世界の地球温暖化とエネルギー危機を救う持続可能な第二世代のバイオ燃料のひとつとなり得るであろう。我々が話をした電力中央研究所の代表者たちは、この技術によって、食料資源と競合しないバイオマス抽出が可能になるという点を強調した。とうもろこしやサトウキビなどの農作物から製造された第一世代のバイオ燃料と異なり、緑の原油は食料格の上昇を招くことがないのだ。
一方、藻類を原料とする燃料製造は、大気中のCO2削減と直接は結びつかない。なぜならば、このバイオ燃料を燃やす時に、藻類によって大気中から吸収されたCO2が、大気中に再排出されるからだ。しかし石炭や石油などの枯渇しつつある化石燃料を燃やす場合と違って、少なくとも、新たなCO2の排出は避けられる。
この展示会では、再生可能エネルギーの分野全般において技術的進展が見られることが確認できた。しかしその一方で、学術的な研究成果や進展と、技術の応用を意図する企業との間に溝があると感じた。
最善のシナリオがうまくいった場合でも、この分野の発達には時間がかかる。たいていの技術開発者は、各自が開発中の技術の商品化を2030年までに達成したいと言っていた。2030年とは、日本の25%温室効果ガス排出削減目標――その詳細については、残念ながらわずかしか提供されていない――の達成期限から、さらに10年後のことである。
それにもかかわらず、新たに出現したこれらの技術は、総体として、我々を待ち受ける再生可能エネルギーの未来がどのようなものなのか、その一端を我々に見せてくれる。
翻訳:金関いな