3.11後の「日本のプランB」

地球は有限、資源は質がすべてである。経済成長願望の日本、そして世界もそうだが、この現代石油文明は終りつつある。いわゆる石油ピーク、これは食料ピークでもある。現代農業は肥料、農薬、機械化と石油漬けである。運輸システムの内燃機関には流体燃料が不可欠、そして化学合成も石油だ。つまり石油ピークは文明ピークなのである。

加えて日本は3.11の自然大災害を経験し、人類史上最悪の原発事故が発生、放射能汚染、健康被害は長期にわたる。原発廃炉は数十年の課題であり、それを招いたのは心無い安全神話だった。幻想が招いた人災、日本社会には根本的な欠陥があったのだ。

そしてエネルギー危機が叫ばれるが、これは原発か石油かという単純なことではない。原点に石油文明の終焉がある。それに重畳するのが原発危機である。あまり日本社会が認知しないが、石油の生産ピークは2005年ころ、景気に左右され凸凹のプラトーとなっているが、いずれ目に見えて減退しよう。それは数年以内と見られるが、これによって経済の減退、縮小は避けられないと思われる。

だが異論もある。非在来型がまだまだあるという考えで、例えばカナダのオイルサンドだが、これは一種の鉱山である。

期待のシェールガスは新技術の水平ボーリンクによる、水、化学物質の圧入で地下の頁岩層に破砕し天然ガス生産するものだが、エネルギーコスト大で、深刻な環境破壊を伴う。

このアメリカでのシェールガス楽観論だが、その比率は数%程度と低く、初期の生産の減退は顕しい。とても在来型油ガス田を代替できそうにない。そのエネルギー収支比:EPR(Rnergy Profit Ratio、出力と入力エネルギーの比)は在来型の油ガス田に比してとても低い。

3.11後、原発推進あるいは反対の議論が絶えないが、ここで語られない重要な問題がある。ウラン資源は有限だ。そこで核燃料サイクルと言う主張だが、技術は未解決である。海水ウランと楽観論もあとを絶たない。しかしその濃縮に膨大なエネルギーが要ることを忘れている。夢のメタンハイドレート、と期待するメディア、関係者人も多いが、未だにEPRの計算すらできない。

エネルギーはEPR、質で評価すべき

在来型の代表、自噴する石油のEPRは100ととても大きい。それも生産につれ減退はするが、今でもアメリカの油田のEPRは10~20もある。

有名になった、カナダのオイルサンドだが、そのEPRは1.5程度しかない。自然破壊は激甚だが今は放置されている。それを修復すればEPRは1.0以下となるのは確実だが、それではエネルギー損失となる。

その他、バイオ燃料、コーンエタノール、先のシェールガスなどの非在来型は従来の在来型化石燃料に比してEPRがかなり低い。コーンエタノールはエネルギー損失であることが分かっているが、政府の助成金で維持されているのが実態だ。

一般に文明を支えるには、EPRはせめて10が必要とされている。

本命の太陽エネルギーはどうだろう、人間が1年間に使う量の1万倍という量を語る専門家が多いが、その質は低いのである。エネルギー密度が低いからだが、夜や曇の日は発電できないという問題がある。風力エネルギーも量は膨大だが、風が不安定なのが悩みだ。

つまり自然エネルギーのEPRの低いこと、間歇的で不安定であることを理解する必要がある。
一般的には「資源は質が全て」、自然が濃縮した恵みが資源なのである。今世界的に資源の質が劣化、減耗が進んでいるが、その象徴が石油である。

原発論議に加えることがある。原子力の一次エネルギー比率は日本でも10%以下と低く、世界的には6%でしかない。つまり原子力で全エネルギーを賄うには、今の10倍は必要なのである。しかもウラン鉱山、発電所、廃棄物処理の全過程で、石油インフラに依存している。これも理解すべき重要なことだ。

3.11後の「日本のプランB」

日本の海岸線の長さは世界6番目、もちろん大陸でない、山岳ほぼ70%の列島である。気候帯は多雨、アジアモンスーン地帯にある。このような日本の地勢、自然を理解することが大事である。

アメリカ大陸育ちの、石油漬けの大規模農業を手本してはならない。石油依存型の効率優先でない地域分散型社会を目指すのだ。食料、エネルギー基盤も再構築する必要がある。地産地消、人の絆を大事にする脱浪費、低エネルギー社会を目指すことが重要だ。

食料供給の形も変わるしかない。これからは食物連鎖の上位に依存せず、輸入飼料で育てる牛肉は避け、養殖マグロでなく、その餌となるイワシなどを食べることが望ましい。

3.11後の緊急の政策課題とはこのようなことであろう。それが結果的に科学合理的な温暖化対策となる。自然と共存の分散社会の構築は、地域産業の構築に役立つ。自然エネルギーの利用には分散型は有利だからである。

自然エネルギー利用もメガシステム指向でなく、分散型の方が有利であり、それは新しいコミュニティーの形成を促し、人の絆をとり戻す契機となるであろう。

もう石油文明は終わる。石油漬け浪費型GDP成長至上、経済成長主義は持続できなくなる。年率%とは、幾何級数的成長のこと、この文明モデルは有限地球では不可能となろう。

そのため、石油文明の終焉に備え、3.11後を構想するプランBが、もったいない思想が中核、その道程を列記する。

1)脱石油、原発依存社会の構想、自然エネルギーもEPRで評価、リアリズムの重視
2)有限地球観、自然共存の地方分散社会、世界6位の海岸線、山岳75%、立体農業
3)脱欧入亜、脱グローバリズム、GDPからGPI、マネー主義の終焉
4)低エネルギー社会、少子化ほど有利、年長者も働ける社会の構築
5)石油ピークは流体燃料危機、脱車社会で鉄路、公共運輸の重視、自転車の利用
6)先ず減量、循環社会のReduce(減量) Reuse(再利用)Recycle(リサイクル)最初のR
7)効率優先主義の見直し集中から地域分散、自然と共存、地産地消で60倍の雇用創出
8)GDP成長より心豊かに、もったいない、ほどほどに、人の絆を重ずる社会の構築

これには経済の指標から改める必要がある。GDPでなくGPI:Genuine Progress Indicator(真の進歩指標)、これは国民のための指標と言えよう。

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3.11後の「日本のプランB」 by 石井 吉徳 is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.

著者

東京大学名誉教授、「もったいない学会」会長、工学博士。1955年、東京大学理学部物理学科(地球物理学)卒業、帝国石油、石油開発公団などに16年間、東京大学工学部23年間(資源開発工学科助教授、教授)。93年退官、名誉教授。国立環境研究所副所長を経て96年から98年まで所長。その後、富山国際学園特命参事・同大学教授。2006年もったいない学会設立、会長。2007年秋、瑞宝中綬賞。
著書に[リモートセンシング読本」1981、オーム社、[地殻の物理工学」1988、東大出版会、「エネルギーと地球環境問題」1995、「国民のための環境学」2001、共に愛智新書、「豊かな石油時代が終わる」2004、石井吉徳編著、丸善、「石油最終争奪戦」、『石油ピークが来た―崩壊を回避する「日本のプランB」』、「知らなきゃヤバイ! 石油ピークで食糧危機が訪れる」、いずれも日刊工業新聞社、など。