ブルック・ジャーヴィス氏はYES! Magazineのウェブエディターである。
大統領選挙のキャンペーンでは、候補者は必死に石炭業界に取り入ろうとしていたが、直接的に関係のない人にとっては、米国アパラチア地域では、石炭は今なお経済的にも政治的にも最も大きな力を持っているという程度の認識でいいのかもしれない。
しかし、真実はまったく異なる。アパラチアの経済に石炭産業はかつて大きく貢献していたが、今はその名残をとどめるだけだ。めぼしい石炭層は尽き果て、採掘コストはますます高くなり、同地域の将来の見通しはこれまでになく薄ら寒い(石炭業界の経営状況について詳しくは、デビッド・ロバーツ氏が最近書いた記事をお読みいただきたい)。
もちろん、石炭産業の衰退は、気候や地域の環境、そしてアパラチアの人々の健康に関して言えば良い知らせだ。しかし、すでに厳しくなっている地域の経済にとっては、近いうちに新たな打撃が加わるという意味になる。
では、アパラチアが石炭に頼れなくなったら、どうなるだろうか?この地域はこれまで、持続不可能な方法で自然資源(石炭に加えて天然ガスと管理不十分な山林の木材も含まれる)を搾り取ることで成り立っていた。ここに新しい経済の仕組みを築くには、何が必要になるだろうか?
アパラチアでは、地域および草の根グループが地域をあげてこれらの問題に熱心に取り組んでいる。外部の人が見れば驚くほど多くの組織がひしめきあうようにして、古い産業を改革すること、より持続可能な産業を推進すること、地元の企業家を育成すること、住民が長期的に地域資源の恩恵を享受できるようにすることなどに力を尽くしている。これらの組織は密接に結びついていることも多く、力を強めながら、地域全体でネットワークを形成し、新たなものを生み出そうとする住民の支援を行っている。
新しいことが肝心である。繰り返し強調されているのは、アパラチアの過去の問題を回避する経済の仕組みを築くことだ。これらのグループは経済の移行の必要性をチャンスと捉えている。彼らはこれを機会に、かつてよりも多様で、レジリエンスに優れ、はるかに環境にやさしい経済の仕組みを作り上げようとしている。
これらのグループが肝に銘じている「教訓」のひとつは、資源に依存する単独商品の輸出に過度に頼らないことだ。これは「資源の呪い」として知られている。つまり、均衡のとれた経済においては多様な企業が存在し、互いにネットワークで結ばれているものだが、1つの産業を重視しすぎると、そのような健全な発展が阻害されるのである。この地域が学んだのは、タバコや木材から石炭まで、何であっても一産業に頼るアプローチはコミュニティを脆弱にするということだ。脆弱なコミュニティは市場の些細な変動にも影響を受け、景気変動の波をまともにかぶる。不景気に際しては好景気における利益が帳消しになることも少なくない。
それを踏まえてアパラチア地域のグループは、よりレジリエンスに優れた経済の仕組みを築く方法に注力している。そのような仕組みにおいては、様々な小規模企業が互いに支え合って繁栄する。The Mountain Association for Community Economic Development (コミュニティ経済発展を目指す山脈連合:MACED)は小規模企業や非営利団体に融資や技術協力を提供している。また、Appalachian Center for Economic Networks (経済ネットワークを目指すアパラチアセンター)は2つのビジネスインキュベーターを運営しており、新設企業はそこで相談したり、事務所や軽作業スペースを借りたり、資源の共有や共同調達を行ったりということができる。
多くの組織は、アパラチアにおけるブロードバンドインターネットへのアクセスを米国の他の地域なみにすることに取り組んでいる。Southern Grassroots Economy Project (南部グラスルーツ経済プロジェクト)は共同事業会社を設立するためのトレーニングを行っている。Central Appalachian Network (中央アパラチアネットワーク)は地元で食品を製造する企業に補助金を提供している。
石炭時代の最大の悲劇のひとつは、アパラチアの人々が払ったあらゆる犠牲にもかかわらず、その産業によって創出された富がほとんど手元に残っていないことだ。人々は露天掘りによる山地破壊、水質汚濁、大気汚染、高い罹患率および先天性異常発生率、10万人以上にのぼる鉱山労働者の死などに耐えてきた。石炭を産出する郡は、国内でも有数の最貧困地帯だ。
そこで考えられているのは、石炭によって生み出される資本がまだ手近にあるうちに、それを用いて、より持続可能な富の源を確立することだ。
それゆえに、多くのアパラチアのグループは、同じことが二度と起きないように細心の注意を払っている。彼らは、アパラチアの各州は、石炭が生み出す資本が減りつつある中でも、それをより良く使うことができると言う。ケンタッキー州やウェストバージニア州のグループは石炭採掘税の一部を、アラスカ、モンタナ、ワイオミングの各州で設立されたのと同じような常設基金に振り分けようとしている。
つまり、石炭によって生み出される資本がまだ手近にあるうちに、それを用いて、より持続可能性の富の源(職業訓練計画、インフラストラクチャー等の形で)を確立しようというのである。ウェストバージニア州では同様に、町の新たなブームである天然ガスを利用することにも期待が寄せられている。結局、その産業を除外して考えられないのなら、再生不可能な資源を持続可能な資産に変える方法を見つけるべきなのだ。
この地域が学んだ教訓は他にもある。かけがえのない天然資源を地域外に送り出し続けた長い年月を経て、多くのグループは今、経済的に実現可能な保全策を模索している。
Appalachian Voices(アパラチアン・ボイシズ)、Coal River Mountain Watch(コール・リバー・マウンテン・ウォッチ)などのグループは、地域全体で露天掘りから山を守るために奮闘している。山頂部を爆破する露天掘りは、手早く利益を得るために山地を大規模に破壊する採掘方法だ。彼らは、観光や風力発電などの他の用途の方が長期的に見て、はるかに地域の経済のためになると指摘する。Appalachian Carbon Partnership(アパラチアン・カーボン・パートナーシップ)は土地所有者に対して、自らの森林に隔離した炭素を計算し、貢献分を売るように手助けをしている。Green Forests Work(グリーン・フォレスツ・ワーク)は、採掘でむき出しになった土地の再植林を進めている。MACEDは企業および土地所有者に対して、持続可能な林業を行っている証明になる資格取得の支援をしている。
2012年の大統領選挙キャンペーンでは、石炭産業を舞台に、ロムニー氏は石炭の危険性について主張を一転させ、選挙の翌日、ユタ州の炭鉱経営者はオバマ大統領の責任だとして、数十人もの鉱山労働者を解雇し、EPAの「石炭戦争」をめぐっては異議申し立てが繰り返された。だが、このような茶番劇は、繰り広げられている時点で、すでに古い話だったのだ。石炭がアパラチアの未来を拓くと言われたのは昔のことだ。アパラチアではわかっている人が増えている。だからこそ、もっとよい何かを確立しようと懸命になっているのだ。
本記事は 、強力なアイデアと実際の行動を融合させる全国規模の非営利メディア組織、 YES! Magazineのご厚意により転載させていただいています。
翻訳:ユニカルインターナショナル
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