福島復興に向けた教訓

2011年3月、地震と津波、そしてそれに続く原発事故という恐ろしい経験によって、日本全体が一つに結束した。あれから3年が経過した今、より複雑で不均等な現実が表面化するなか、この結束は次第に崩れつつある。

直接に被害を被っていない大多数の国民にとって、あの悲劇的な出来事の記憶は、他の関心事(とくに経済問題)に押されて徐々に薄れ始めている。その一方で三重災害の被災者たちは、いまだに再出発や生活再建のめどを立てられずにいる。

多くの人々が今も仮設住宅で暮らしている。その中には故郷の町が復興されることに希望を持っている人もいるが、大半の人々は、戻っても大丈夫だと思えるレベルにまで放射線量が下がるのは(そのような日が来るとして)一体いつになるのかという不安を抱えて、ただひたすら待ち続けている。

また、福島に未来を見いだせず、他の場所で新たな生活を始めることを決めた人も多い。3.11という共通の悲劇から、さまざまな異なる経験と現実が生まれている。今後の大きな課題の一つは、被災者の多様な経験や期待を考慮した、より柔軟な復興アプローチを策定することである。

除染を始めとする技術的問題に対処するだけでは復興はなし得ないということは明らかである。科学的に安全なレベルにまで放射線量が下がったとしても、人々がそこで安全に暮らせると信じることができなければ意味がない。自分たちの受けた説明が真実であると、人々が確信できなければならない。だが多くの人々は、当然のことながら、政府や東京電力の関係者からもたらされる情報に今も深い疑念を抱いている。

こうした信頼を取り戻すことは、インフラの再建よりもはるかに困難な仕事であり、安易な解決策はない。信頼構築を下請けに出すことはできないのである。これは、時間はもちろん、努力と真摯な取り組みを要する仕事であり、政府、原子力規制委員会、東京電力の側の透明性が求められる。安倍首相はオリンピック招致スピーチの中で、大胆にも原発事故は「コントロール下にある」と世界に向けて宣言したが、これは、信頼回復のために必要とされる思慮深く、誠実なアプローチとはまさに相反する姿勢である。

日本が直面している課題は、自然災害と科学技術災害がかつて例を見ないかたちで結びついているという点で確かに特殊なものではあるが、それでも日本が学ぶことのできる経験はたくさんある。

チェルノブイリとスリーマイル島の原発事故から得られた最も基本的な教訓は、社会的・心理的な影響が最も大きかったということである。これを踏まえて、福島原発事故の精神的・社会的影響に対処するための取り組みを大幅に拡大するべきである。

除染に巨額の資金と多大な労力が注ぎ込まれたにもかかわらず、多くの住民が故郷に戻っても大丈夫と確信できずにいるという事実を考えると、社会的インフラへの投資のさらなる拡大と、被災者支援ネットワークの構築を始めるべきではないだろうか。

ウクライナでは、情報を共有し、放射線に関する認識を高め、コミュニティの絆を強めることにより、住民を支援するコミュニティセンターがいくつも設立された。これは日本が学ぶことのできる非常に良い事例であり、東北での実施を検討するべきである。こうしたイニシアチブは、故郷に戻るよう被災者を説得するのではなく、彼らにより多くの情報を提供し、信頼回復に努め、被災者が自分たちの将来について自ら決断を下すための手助けをすることを目指すものでなければならない。

こうした中、注目を集めているのが「エネルギー革命(Energiewende)」に着手することを決めたドイツである。反原発運動の支持者たちにとって、ドイツは日本が見習うべき手本である。しかし、ドイツから学ぶべき教訓はそうした決定そのものではなく、決定に至るまでのプロセスである。ドイツのメルケル首相は、政界、産業界、学界、宗教界の代表者で構成され、ドイツ社会の縮図的組織ともいえる「Ethics Commission on Safe Energy Supply(安全なエネルギー供給に関する倫理委員会)」を設立した。同委員会は国とその未来のために何が最善かを集団で検討し、全会一致で一連の勧告を行った。ドイツは原子力を放棄するべきであるという結論は、同国の歴史と政治に合致したものであり、社会の広範な支持を得ている。

しかし、日本にとっての最善策はおそらくドイツとは異なるものになるだろう。日本では現在、原発反対派と賛成派の二極化が進んでおり、対立する立場にある人々の間で本当の対話を築く必要がある。日本は、その歴史、自然災害への脆弱性、経済情勢、資源の少なさ、および気候変動適応の必要性をめぐって、考慮すべき一連の重要かつ困難な問題を抱えている。日本のエネルギー問題に安易な解決策はない。さまざまな選択肢についてオープンかつ慎重に話し合い、手遅れになる前により広範なコンセンサスを形成する必要がある。これがドイツから学ぶべき教訓である。

3.11から3年が経過して、いまだ残る最も深刻な問題の多くは、廃棄物の除去やインフラの再建といった技術的課題ではく、信頼を再構築し、被災者の安心と幸福な暮らしを取り戻すという社会的課題である。

やるべき仕事はまだたくさんある。まず必要なことは、人々の懸念に向き合い、多様な現実を認識し、故郷に戻るか、他の場所で新生活を始めるかにかかわらず、彼らの人生の選択をサポートする、より柔軟で対応力に富んだ透明性のある復興アプローチを策定することである。これは、東北の人々が望む未来、ふさわしい未来を再び手にするための唯一の方法なのである。

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この記事は2014年2月7日に ジャパンタイムズ で最初に公表されたものであり、許可を得て転載しています。

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著者

クリストファー・ホブソン博士 Christopher Hobson は、早稲田大学政治経済学部の講師で、国連大学の客員リサーチフェロー。それ以前は、国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の「平和と安全保障」部門のリサーチ・アソシエイト。オーストラリア国立大学国際関係学部で博士号を取得し、過去にはアベリストウィス大学国際政治学部の博士研究員を務めていました。

 

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