他国民は水死させておけ:EU自らが招いた移民のドラマ

ここ数カ月の間に、地中海を渡ろうとして水死した難民や移民の数が史上最多を記録している。最近の国連の推計によれば、2014年には約220,000人の移民が地中海を渡り、航海中に命を落とした人々の数は少なくとも3,500人を超えた。今年に入ってから現在までで、すでに30,000人以上が地中海を渡り、死者または行方不明者の数は約1,500人と伝えられており、史上最多を記録した昨年2014年の同時期に比べて50倍以上の数に達している。

そして再び聞こえてくるのは、欧州国境での移民の苦難をなくすために、密航請負(および不正取引)との「戦い」またはその「撲滅」によってこの悲劇を終わらせようという、聞きなれた欧州政治家たちの声である。こうした主張はすべて非常に高尚に響くかもしれないが、密航請負業者を責めるのは、この人道的悲劇に対する政治家自身の責任を覆い隠すための都合のよい責任転嫁策にすぎない。

密航請負は国境警備に対する反応であって、移民が原因ではない。密航請負業者は、移民が閉鎖された国境を渡るのを助けるサービス業者である。…犯罪者かもしれず、移民を騙しているかもしれないが、密航請負業者は基本的に事業を営んでいるのだ。

政治家(および政治家の説明をそっくりそのままコピーしているメディア)は、国境警備のレベルと移民の死者数との間に直接的な関係があることを無視している。私が以前に論じたように、密航請負は国境警備に対する反応であって、移民が原因ではない。密航請負業者は、閉鎖された国境を移民が越えられるよう支援するサービス業者である。不法行為に手を染めているかもしれず、犯罪者かもしれず、移民を騙しているかもしれないが、密航請負業者は基本的に事業を営んでいるのだ。そしてこの事業に唯一の市場が存在するのは、職を探すために合法的に移住したり、亡命を申請したりするのが困難なためである。つまり、政府が軍隊による国境警備を強化すればするほど、亡命の申請を難しくすればするほど、移民が国境を渡るために密航請負業者に依存する度合いはますます高くなるのである。

逆効果を招く政策

地中海を渡る不法移民船は決して新しい現象ではない。1990年代初頭からずっと続いており、これは1991~1992年にEU加盟国が北アフリカ諸国に対してビザ制度を導入した結果であった。この制度は、それまで続いていたモロッコ、アルジェリア、チュニジアなどの国々からやってくる労働者の自由な季節移民および循環(行き来する)移民の流れを遮断し、不法移民を余儀なくされる人々の数を増やしていった。

2000年代以降、ますます多くの労働者とサハラ以南アフリカからの難民がこのボート移民に加わった。国境を渡る人々の数は年間30,000人から80,000人までの間で増減を繰り返しており(年間およそ250万人にのぼるEUへの合法移民総数の約1~3%)、この増減は主に欧州内での労働需要に沿っている。2013年以降に発見された越境者数が著しく増加しているのは主に難民の増加によるもので、とくにシリアからであるが、エリトリアやソマリアなどの国からの難民も増加している。

25年間にわたる欧州の国境制限は、移民の食い止めに完全に失敗してきたばかりか、実際には逆効果の結果を生み、不法移民が増加するとともに彼らが国境を越える際の密航請負業者への依存が高まっている。また、それは以前にあった循環移動を妨げ、移民に永住を強いる一方で、国境警備にはつねに検問所の多様化、移動、地理的拡大を求めることになった。さらに国境警備の強化と「密航撲滅との闘い」により、密航請負業者が移民の脆弱な立場を利用し、これまで以上に高額な報酬を強要したり、海上に置き去りにしたりする可能性が高まってもいる。

国境警備の強化と合法移民ルートの閉鎖によって「不法移民を撲滅」しようという提案は繰り返されているものの、失敗する運命を避けられない。なぜなら、これらの制約こそ、彼らが撲滅すると装っている現象の根本的原因の一部でもあるからである。政策決定は、制約の強化―不法行為の増加―制約の強化という悪循環に陥っている。

なぜ「マーレ・ノストルム(われらの海)」を中止するのか?

死者数の増加に対して欧州の政治家が直接的責任を負っている第二の理由として、2014年11月に、捜索・救助を行う「マーレ・ノストルム」作戦を打ち切ると決定したことがある。EU加盟国政府の多くは、捜索・救助活動をなくすことで移民を食い止められると論じた — まるで難民には祖国を逃げ出す理由がないかのようである。(たとえば2014年10月にはテレサ・メイ英国内務大臣が、(それまでに150,000人以上の移民の命を救ってきた)地中海で水死の危険に直面した移民を捜索・救助する活動は、不法移民の「プル要因」(入移民国の受け入れ要因)となっているとして、この活動への英国の援助打ち切り決定を擁護した。)

この移民の流れを止めるという意味での「解決策」はない。移民は、シリアなどの国々で紛争が続く限り現在と同じレベルの数で推移すると思われ、合法的入国が禁止されている限り不法に地中海を横断せざるを得ないだろう。

彼らはどれだけ間違えればすむのだろうか。「マーレ・ノストルム」作戦の一時停止による直接的結果として、国境での死者数が大幅に増加するとともに、移民の数、なかでも難民の数はさらに増加した。つまり政治家たちは、人々が海を渡るのを思いとどまるようになるだろうという乱暴な議論により、水死者を放置する自分たちの自発的決定を擁護したのである。これは政治家たちが、移民の悲劇的運命について人前では偽善的怒りと偽りの涙を見せながら、事実上は人権を無視しているということを示している。こうして表面上悲しんで見せるのは、人道的であるかのように装う皮肉な試みにすぎず、事実上は移民に対して「最も強硬」な立場で臨む政治的生存競争に奔走している。そのような悲惨な決定を擁護しなければならないどんな理由が政治家にあるにせよ、そうすることによって、彼らは道徳的怒りを明らかにすることへの信頼性を失った。

欧州の政治家たちの信頼性の欠如は、窮地にある移民を救って相当数の難民を受け入れるという意志が見られないことに表れている。シリアなどの戦争で荒廃した国々からやってくる難民を受け入れるための資源がEU(50億人を超える人々が暮らす世界で最も豊かな経済圏)には不足していると示唆することは理不尽のように思われる。ここで取り組んでいるのは、貧しく絶望した人々の大集団による、アフリカや中東から欧州への制御不能な移動ではない。私たちが取り組んでいるのは欧州周辺で発生している人道的悲劇と強制退去による危機であり、かなりの数にのぼるが、まだ比較的小さい割合の難民が欧州の保護を求めているという混乱した状況なのである。

優先順位の問題

誰もが「地域的解決策」を口にするが、難民の大部分はそれぞれの地域にとどまっていることを忘れがちである。たとえば300万人にのぼるシリア難民の大部分は、トルコ、ヨルダン、レバノンなどの比較的貧しい近隣諸国で暮らしている。それに比べれば、欧州にやってくるシリア人の数(これまでに数十万人)は非常に限られている。欧州が現在受け入れているシリア難民は、全体の4%である(図を参照)。スウェーデンやドイツなどのいくつかの国を除いて、欧州諸国のほとんどは、わずかな数のシリア難民しか受け入れていない。アレクサンダー・ベッツ氏がその卓越した論文「Forget the ‘war on smuggling’, we need to be helping refugees in need(『密航との戦い』を忘れ、困窮する難民を助ける必要がある)」で論じたように、ブリュッセルで開かれた先週の会議において明らかにされた難民5,000人に対する「自主的」再定住化計画の提案は、「300万人というシリア難民の背景を考えれば、ばかげている」。

Syrian infograph

<隣国および欧州におけるシリア難民の数>およそ2800万人のシリア難民がレバノン、トルコ、ヨルダン、イラクおよびエジプトにいる。欧州には、およそ12万3671人。紛争から逃れ欧州(トルコを除く)へ安全を求めてやってきたシリア人は4%以下。データはUNHCR Field Information and Coordination Support Sectionが集計。

本当のところ、この移民の流れを止めるという意味での「解決策」はない。移民は、シリアなどの国々で紛争が続く限り現在と同じレベルの数で推移すると思われ、合法的入国が禁止されている限り不法に地中海を横断せざるを得ないだろう。移民制限と国境警備が、密航請負業者と不正取引業者にとって金になる市場を生み出すのである。

困窮する難民を助ける短期的または中期的「解決策」のみに重点を置くべきであり、その手法としては以下の通りである。(1)捜索・救助活動の本格的拡大、(2)EU諸国およびその他の裕福な国々による難民再定住割り当て数の大幅な増加、(3)地域で難民を受け入れるレバノン、トルコ、ヨルダンなどの国々への支援強化。

国境警備をさらに強化して移民の合法ルートを閉じるという観点で「解決策」を考えても、移民は止まらず、移民の密航請負業者への依存と死者数を増やすだけだろう。本格的な捜索・救助活動への支援の欠如と、相当数の難民受け入れを嫌う姿勢は、EU諸国の現在の対応が「他国民は水死させておけ」と言っているのに等しいことを表している。EUの政治家たちは、自ら引き起こしたドラマに大げさに非難の声を上げ、そのドラマの悲劇俳優になった。

この論評は最初、2015年4月27日付で、ハイン・デ・ハース教授の個人ブログおよびUNU-MERITのブログに、「Let their people drown: How EU politicians have become tragic actors in a self-inflicted migration drama(他国民は水死させておけ:EU政治家が自ら引き起こした移民のドラマでどのように悲劇俳優になったか)」のタイトルで投稿された。

翻訳:日本コンベンションサービス

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著者

ハイン・デ・ハース博士は、UNU-MERITで移民と開発分野の教授職を務め、マーストリヒト大学で数年にわたり移民理論を教えている。また、オックスフォード大学国際開発学部で国際移民研究所の共同ディレクターおよび移民研究講師を務めている。

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