インフラを疑ってみる

この記事は、「国連大学と知るSDGs」キャンペーンの一環として取り上げられた記事の一つです。17の目標すべてが互いにつながっている持続可能な開発目標(SDGs)。国連大学の研究分野は、他に類を見ないほど幅広く、SDGsのすべての範囲を網羅しています。世界中から集まった400人以上の研究者が、180を超える数のプロジェクトに従事し、SDGsに関連する研究を進めています。

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ここ数週間、カリブ海でハリケーンの活動が勢いを増している。多くの人は洪水や被災後の映像を決して忘れないだろう。しかし、被災地の住民にとって最も辛いことの1つは、重要インフラの損壊である。たとえば、プエルトリコでは送電塔の55%が破損したと推計されたが、これにより、停電はほぼ全島に及んだ。

重要インフラが損なわれると、地域社会の機能に大きなダメージが生じる。嵐や洪水、その他の天災後に生じる水道、電気、医療へのアクセスといった生活に欠かせない要素の欠如は、時と共に深刻化する場合がある。そして、気候変動により、そうした天災の頻度と強度は高まっていく恐れがある。さらに、停電によってたちまち水道の供給が停止するなど、インフラ網の一部停止が他の部分の不具合へと波及するケースもある。

先週、10月13日に国際防災の日を迎えたタイミングで、いくつかの重要な問いを投げかけてみたい。私たちは備えができているだろうか?予防策を講じているのか、それとも単にインフラ業者頼みという現状なのだろうか?

確かに、重要インフラが影響を受ける度合いは地域によって異なるが、その発生は一様にどこででもありうる問題である。また同時に、比較的安全だと感じている地域の住民は重要インフラを当然のものとして受け入れがちであり、それゆえにいずれのインフラのダウンに対しても準備態勢が整っていない場合が往々にして見られる。

皆同じニーズを持っている

私の母国ドイツのようにインフラダウンの少ない国でも、国民保護の観点から、5日分の水と10日分の食料のストックなど、各自で予防策を講じるようにとの呼びかけがなされている。こうした勧告は最近始まったものではないが、これによって買い占めや政府のシステムへの注目が集まり、議論が促された。またこうした議論は、自然災害を考慮されてではなく、ほぼテロのみに結びついた形で行われている。

実際、ドイツの停電時間は年間わずか約15分間にとどまっている。これは素晴らしい数字であり、ドイツのインフラはさほど脆弱ではないことを示している。しかし、こうした印象ゆえに私たちはあまりにも安全だと感じ、すべての責任を自分以外のものに委ねてしまいかねない。私個人に関して言えば、インフラにあまり信頼の置けない地域へ行く際は、停電に備えて懐中電灯や、水が入手できない場合に備えて飲料水を持参したりする。しかし、ドイツにいるとつい気が緩み、普段は同様の備えはしない。結局、インフラは常時供給されるものという信頼感ゆえに、自分自身の対策がおろそかになっているのである。

こうした自主対策の欠如と供給業者への依存については、社会・人口動態的変化の観点から考慮しなくてはならない。ドイツでは高齢化と都市化が進んでおり、一部の農村地域は過疎となっている。また単身世帯の増加に伴い、世帯の規模は縮小傾向にある。

人口過密と人口過疎という極端の両地域に対し、すべての場所で迅速にサービスを復旧させるという包括的な約束を確実に実現しなくてはならない。しかし、両地域が抱える課題は大きく異なり、単一の標準的なアプローチでは対処しきれない。

国民の平均年齢上昇による影響の1つは、医療施設及び医療機器用エネルギーへの依存度が高まることである。同時に、世帯規模の縮小と都市化は、地域社会のつながりの脆弱化と、自助能力の低下につながりうる。とはいえ、保護と準備態勢の適正レベルを維持するには、エンドユーザーの視点から見た最低限の供給量の算定が不可欠である。私が勧めたいのは、少なくともある程度の食料と水をストックし、懐中電灯や電池式ラジオなどの基本的機器を使える状態で準備しておくことである。

常に備えよ

結局のところ、数日以上にわたるインフラダウンを見据えた社会の準備態勢について見直す必要があるということである。さまざまな社会集団の実際の需要とニーズを知ることが最重要であるにも関わらず、科学的出版物や政策文書においてこの点はほとんど議論されていない。このような議論は、復旧能力や管理能力の高さへのニーズに関する技術的視点の範疇をはるかに超えるものであり、その議論には社会的、文化的側面を含める必要がある。

以上のことは、まさに国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)がケルン工科大学主導の学際的コンソーシアムの一部である研究プロジェクト「CIRMin – Critical Infrastructure Resilience as a Minimum Supply Concept(最小供給量コンセプトとしての重要インフラレジリエンス)」のもとで取り組んでいる研究内容である。CIRMinでは、重要インフラの管理という枠にとどまらず、極端な自然現象によるインフラ供給停止の際に影響を受けうる住民への必要最低限の供給量について、とりわけ重点的に取り組んでいる。その際、本プロジェクトでは、さまざまな社会空間人口集団、および病院や消防署といったその他のインフラ要素における最低需要量の差異の把握に特に注目している。

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この記事の初出はドイチェ・ヴェレに掲載されたものである。

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著者

国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)脆弱性評価・危機管理・適応計画部門のリサーチ・アソシエイトである。オーストリア・インスブルック大学で地理学の博士号を取得。