ほころびつつある地球の生命の網を直視しよう

地球上の種が減少するスピードについて、夕方の報道番組やフェイスブックのニュースフィードで取り上げられることは多くない。なぜだろうか? あまりに多くの視聴者が現在進行中の生物多様性の喪失の規模に気づいていないか、興味がないためだろうか? 生活費を稼ぐためにつらい1日を終えた平均的な人物にとって、生物多様性の喪失がもたらす影響はあまりにも恐ろしすぎて受け入れられないために、報道機関が視聴者にテレビのチャンネルを変えられてしまうことを恐れているからだろうか? それとも、あなたが問題に無関心なのだと、情報の管理者たちが勝手に思い込んでいるからだろうか?

その答えが何であれ、結果的に人々が否認している状況は非常に心配である。なぜなら、このトピックに関するバイラルなソーシャルメディアにはまだ登場していないかもしれないが、新しい報告書は状況がいかに深刻かを詳細に記しているからだ。世界自然保護基金(WWF)が明らかにしたところによると、人間による負荷はわずか40年で地球の野生生物に驚くべき影響を与えてきた。

記録されている生物多様性への主な脅威は、生息地の喪失や劣化から生じる。しかし報告書は、漁業や狩猟も重大な脅威であり、気候変動が深刻化していることを示している。

「『生きている地球レポート』の最新版を読もうとするなら、気丈な人でなければならない」とWWFインターナショナル事務局長のマルコ・ランベルティーニ氏は報告書の序文で語っている。

「最も衝撃的な点は、哺乳類、鳥類、爬虫(はちゅう)類、両生類、魚類を代表する1万以上の個体群の調査から算出した『生きている地球指数』(LPI)が、1970年以降、52%低下したことである」

「別の言い方をするなら、人間の2世代にも満たない期間で、脊椎動物の個体群の規模が半減してしまったということです」

20年近くの間、WWFが2年ごとに発表する『生きている地球レポート』は、生きている地球指数を使って地球の健康を監視してきた。この指数はロンドン動物学会(ZSL)が管理するデータベースから集計される。ZSL、ウォーター・フットプリント・ネットワーク、グローバル・フットプリント・ネットワークとの共同で作成された報告書は、私たちの生活様式が地球上のすべての生物にどのような影響を与えるのかについても計測している。

憂うつな現状かもしれないが、問題は克服できないものではないと報告書は断言している。しかし私は、問題を克服するためには私たち全員が現実を直視し、地球の現況と、地球が私たちに与えてくれる生命維持機能について十分な情報を知る必要があると主張したい。

ですから、どうか本稿を読み進め、知識を深め、あなたに耳を傾ける人のために学んでいただきたいと思う(さらに、非常に包括的で読みやすい報告書もご覧いただきたい)。

種と空間、人々と場所

一部の種の減少は(時には種の絶滅さえ)、生命の網の一環として正常なことである。しかし、ここで明確にしておこう。現在の問題とは、次に示すように、疑いようもなく深刻な種の減少スピードなのだ。

2014年の報告書は、世界の種の状況が過去よりも悪化していることを明らかにしているが、調査結果は実行可能な対策にも注目している。

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著作権:生きている地球レポート/WWF

今年の報告書は、地球に対する私たちの需要は自然が再生できる量より50%以上多いことを示している。つまり、私たちの現在の「エコロジカル・フットプリント」を維持するのに必要な資源を生産するには、1.5個分の地球が必要なのだ。

このような地球のオーバーシュート状態とは、例えば木が再生するよりも速く木を伐採したり、地下水が再び貯留するよりも速く淡水をくみ上げたり、自然がCO2を隔離するよりも速いスピードでCO2を排出したりする状態である。

あなたはこうした事実を知って途方にくれるかもしれない。しかし報告書の筆者たちが強調しているように、私たちは現在の行動をやめることができるのだから、知識は力なのだ。

「生物多様性の喪失の規模や、私たちの生存に不可欠な生態系への損害は、警戒すべきレベルです」とロンドン動物学協会の科学部長のケン・ノリス氏は語った。

「こうした損害は避けられないのではなく、私たちが選んだ生活様式の結果です。報告書は状況が危機的であることを示していますが、まだ希望はあります。自然を守るためには、目的を明確にした保護活動、政治的意思、産業からの支援が必要です」

つまり報告書は、世界各地で生物多様性の喪失が危機的レベルにあると示す一方で、効果的に管理された保護地域が野生生物を支えられることも強調している。(生きている地球指標は、「生物多様性の喪失を食い止めるための効果的で早急な対策を講じる」という生物多様性条約の2011年~2020年の目標に向けた進展の指標として採用されている)。一例としては、ネパールは近年、トラの個体群を増やしたことで知られている。全体として、陸上の保護地域における個体群は、保護されていない地域の個体群と比べて、減少率が半分以下である。

「今年の『生きている地球レポート』の調査結果は、現状に満足している余裕はないことをかつてないほど明白に伝えています。持続可能な方法で発展し、自然と調和しながら生き、繁栄できる未来を築く機会を、まだ可能なうちにつかみ取ることが極めて重要なのです」とWWFインターナショナル事務局長のマルコ・ランベルティーニ氏は述べた。

地球の全体像

気候変動に関する政府間パネルの調査が増大する気候変動の影響を警告してからわずか6カ月後に発表された今回の報告書は、気候がすでに地球の健康に影響を及ぼしているという結果をさらに裏付けた。

「化石燃料の燃焼から生じる炭素は、半世紀以上もの間、人類のエコロジカル・フットプリントの最も大きな割合を占めており、引き続き増加傾向にある。1961年、炭素は私たちのフットプリントの36%を占めていたが、2010年には53%になった」と報告書は記している。

より大きな全体像を捉えて(そして点と点をつなげて)、2014年版の『生きている地球レポート』は次のように記している。「地球の境界の3要素 はすでに越えられているようである。3要素とは、生物多様性の喪失、気候の変化および窒素循環の変化であり、人間の健康の健全な状態と、食料、水、エネルギーへの私たちの需要に対して、すでに目に見える影響をもたらしている」

報告書によると、25億人以上が暮らす200以上の河川流域は毎年少なくとも1カ月間、深刻な水不足を経験している。10億人近くの人々がすでに飢餓に苦しんでおり、気候が土地利用の変化と相まって生物多様性を脅かし、さらなる食料不足につながりかねない状況を報告書は示している。

国際的な気候協定をめぐる建設的な交渉はこうした傾向を抑制するために存在する機会の1つであると、報告書は論じる。次に、低炭素経済の実現を整備する世界的合意の達成は、現在、化石燃料の使用がエコロジカル・フットプリントの主要な要因であることを考慮すれば、不可欠である。

希望を見いだすために事実を直視する

この報告書の結果に読者は少々恐ろしさを感じるかもしれないが、生態系の貴重な理解を促す、分かりやすく優れた資料であることを、もう一度強調しておきたい。私たちの社会と繁栄は限りある自然資本の上に築かれているという事実、また、有限な自然資本をより賢明に利用し、より公平に共有する必要があるという事実を、私たちは自ら直視しなくてはならないし、他の人々にもそうすることを促さなくてはならないのだ。

「自然は人間の生存にとって生命線であると同時に、繁栄への飛躍台でもあります。重要なことは、私たちの誰もがこの状況に共に身を置いているということです。私たちは誰でも食料や、清潔な水や、きれいな空気を必要としています。世界のどこで暮らしていても同じです」とランベルティーニ氏は私たちに語る。

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地球1個分という観点。著作権:図4、生きている地球レポート/WWF

報告書はWWFの「地球1個分という観点」を掲載している。保護、生産、消費のより賢明な戦略が提示され、フットプリントおよび生物多様性の喪失を低減するためのよりよい選択を行ったコミュニティの事例を紹介している。

報告書には、アジアの都市が炭素排出を削減し、再生可能エネルギーを統合し、持続可能な消費を促進する方法を導入している事例が示されている。またアフリカでは政府が産業と協力し、自然地域を保護する事例が紹介されている。報告書はそのほかの地域の事例の中で、汚染を規制し、市場を改革し、生活を向上させる計画を強調している。

地球1個分の暮らしを目指すプログラムに従えば、国際社会は2014年版『生きている地球レポート』に示された傾向を逆転させ始めることが可能だと、WWFは主張する。

今後数十年間で世界人口は95億人を超えると予測されている現在、ポスト2015国連開発アジェンダの目標に関する一連の補足的な交渉によって、各国が自然システムの保護に取り組む機会を創出できる。

この方針には他にも、次の2つの対策がある。1つは、投資を環境問題の原因から遠ざけ、問題解決に近づけることであり、もう1つは、資源管理に関して「生態学的に十分な情報を知った上で」選択を行う方向へ転換することだ。

こうした方法は私たちに実行できるものである。そして皆さん一人一人の心構えの中に取り入れることができ、またそうすべきである。あなたのお金(その金額に関係なく)を意識的に使うことによって、政治家が適切な決断を下すことを求めよう。

翻訳:髙﨑文子

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著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。