経済と資源のデカップリングを実現させよう

新しい報告書によると、資源価格は急速に上昇している。2000年以降、金属は176%、ゴムは350%、エネルギーは260%の価格上昇を記録している。現在の消費パターンは世界の非再生可能資源を急速に激減させており、資源価格の急速な上昇はコスト増加という潜在的に有害な傾向を警告している。

報告書『”Decoupling 2: Technologies, Opportunities and Policy Options(デカップリング2:技術、機会、政策の選択肢)』によると、上記の数字は天然資源の持続不可能な利用がもたらす負の影響がすでに体感されている証拠であり、また、その主張の根拠として食料価格の変動率の上昇を指摘している。食料価格の変動率は、1990年から1999年の間では7.7%の上昇だったが、2000年から2012年の間では22.4%上昇した。

「天然資源の世界規模での利用は加速しました。20世紀を通して、年間資源抽出量は8倍に増え、環境への深刻なダメージと天然資源の枯渇を引き起こしています」と国連事務次長で国連環境計画(UNEP)事務局長であるアヒム・シュタイナー氏がプレスリリースで述べた。「しかも、こうした需要の危険な爆発的増加は、人口増加と収入の増加の結果として加速する見込みです」

国連環境計画が主催する国際資源パネル(IRP)が作成した報告書は、すでに行われていた研究に基づいている。この研究は、経済成長と資源消費を切り離さない限り、先進諸国の消費パターンと人口や富の増加によって、鉱物、鉱石、化石燃料、バイオマスの年間消費量は2050年までに1400億トンになると警告した。この年間消費量は2000年の消費量の3倍であり、地球に存在する利用可能なすべての資源量や、その資源の抽出と利用の影響を地球が吸収できる限界量を超える可能性が高い。

例えば、世界の主要な金属の一部は、今後50年以内に不足するかもしれず、多くの産業に影響を及ぼす可能性がある。また、地球上の生物を支える生態系サービスのおよそ60%は、すでに深刻なほど劣化している。さらに、水の世界的需要は40%増加すると推測されており、その結果、20年後には、恐らく世界の需要の60%しか満たせなくなる。

デカップリングの技術を導入すれば、開発途上諸国は年間エネルギー需要の成長率を今後12年間で3.4%から1.4%に削減すると同時に、開発目標を達成することが可能だ。そうなると、エネルギー消費を22%ほど低く抑えることができる。こうして抑制された消費量は現在の中国の総エネルギー消費量に匹敵する量だ。

デカップリングがもたらす好ましい結果

効率性の改善によって、ほとんどの生産システムおよび公共サービスのシステムで、エネルギー需要は約50~80%削減可能だ。エネルギーと水の効率性をおよそ60~80%改善することが、建築業、農業、観光業、工業および交通部門などで採算の取れる形で実現できる。溶鉱炉の最新技術を活用すれば、亜鉛、スズ、銅、鉛の溶融や加工のエネルギー強度を最大40%削減することが可能だ。

報告書は、デカップリングを妨げる既存の障壁、特にエネルギーや水利用への助成金、時代後れの規制の枠組み、技術の偏向は取り除くことができると論じている。こうした政策転換は長期に渡って安定して成功した経済を創造できる。

「経済成長への欲求と、限られた資源でやりくりをする必要性を統合するという最も魅力的な戦略がうまくいくことを、デカップリングは実証することができます」と報告書の主要筆者で国際資源パネルの共同議長を務めるエルンスト・フォン・ワイツゼッカー氏は語った。彼は資源生産性の革新的な改善を目指す穏やかで着実な長期的戦略を支持しており、そのような戦略を先駆けて実行する国や民間企業は成功するだろうと主張した。

報告書の執筆者たちは、すでに多くの国がそうした技術を試行し、具体的な成果を生んでおり、その結果を他の国が模倣し、規模を拡大させることも可能だと主張している。下記は報告書からの事例である。

スリランカのThe Rathkerewwa Desiccated Coconut Industry(ラスケレッワ乾燥ココナツ産業、RDCI)は、操業方法を変えることによってエネルギー使用量の12%、原材料使用量の8%、水使用量の68%を削減すると同時に、生産量を8%増加させた。5000USドル未満の総投資額に対して、年間収益は約30万USドルだったと報告されている。

中国の産業用電動機は電力の総消費量の約60%を占めている。中国で第2の広さを持つ油田で行われた予備研究によると、1年当たり4億キロワット時(kWh)以上を削減でき、1.6年以内に初期投資を回収することが可能であることが明らかになった。効率性の高い電動機は、電動エネルギー使用量を28~50%削減可能で、典型的な投資回収期間は1~3年である。

南アフリカのケープタウンは、10年間におよぶ信号機の改良プログラムを実施中で、年間120の交差点の信号機をLEDランプに取り替えている。LEDランプは旧式のランプに比べ電力消費が約90%少なくて済むが、照明効果は同じである。このプログラムによって、290万USドルの経費と3万9000トンの二酸化炭素排出量を削減できると推測されている。

世界最大の鉄鋼会社であるアルセロールミッタル社は、強度の高い鋼鉄を利用することで、鉄骨柱なら32%、鉄骨材なら19%の軽量化を達成できると概算している。中国や開発途上諸国では強度の低い鋼鉄が使われる傾向がある。つまり、一部の国だけでも強度の高い鋼鉄を使うようになれば、年間で1億50万トンの鋼鉄を節約でき、また鋼鉄の利用のコストは20%抑制できるということだ。

シートメタルから金属部品を型抜きする工程は、多くの廃棄物を排出する。しかし型の形状を上手に組み合わせれば、廃棄物の大幅な削減が実現できる。ドイツで操業しているDeutsche Mechatronics GmbH(ドイチェ・メヒャトロニクス有限責任会社)は、金属使用を12%削減可能なコンピューター制御によるシャフリングと生産計画システムを利用している。

アメリカでは、国内の埋め立て地の約27%に当たるおよそ480の埋め立て地で、有機廃棄物の腐敗から生じるメタンガスを回収している。埋め立て地のメタンガスの60~90%は、回収して燃焼できると推測されており、その結果、アメリカの温室効果ガス総排出量の約1.8%を占めると推測されるメタンガスを削減できる。

淡水取水量の70%は農業に利用されている。多くの国で、かんがい地の90%は、無駄の多い開放型水路や、意図的に水を氾濫させる手法を使って取水している。インド、イスラエル、ヨルダン、スペイン、アメリカの農家は、地下点滴かんがいシステムを利用して水使用量を30~70%削減し、作物生産量を20~90%増加させることができた。こうした技術は開発途上諸国で手頃な価格で利用でき、1年未満で投資を回収できる。

報告書はさらに化石燃料、紙、セメント、廃棄物の流通や化学物質における削減例を紹介しており、こうした技術を世界中で本格的に展開し、コストを3兆7000億USドル削減できる可能性を指摘している。

政策の準備

現在、多くの経済諸国が現行の資源利用パターンを固定化させる問題に悩まされている。例えば、年間1兆1000億USドルに上る資源消費への助成金が、資源の無駄遣いを促進している。資源利用税よりも労働税が徴収されている。長期的な資源管理を妨害する規制の枠組みが存在する。既存の技術に頼る傾向がある。リスクが高くなるとの認識から新しい技術への投資を避ける金融機関のように、組織的なバイアスもある。

デカップリングを進めるためには、こうした障害を取り除き、資源生産性への広範囲な投資を可能にする状況を創造することが必要となる。報告書は特に2つの選択肢に言及しており、必要とされている混合型政策の種類を例示している。

1つの提案は、課税や助成金削減を利用して、エネルギーや資源の生産性の向上に合わせて資源価格を引き上げることだ。例えば、車両の平均効率性が1年に1%上昇した場合、ガソリン価格も1%上昇させることが公平かつ許容できる状況だろう。このスキームを活用すれば、自動車メーカーや消費者がガソリン消費を減らしたり、自動車での不要な移動を避けたりする努力が加速されるだろう。

もう1つの政策は、税収を増やす方向への転換を目指す。資源利用税を利用者に課したり、製品の輸入に関連して課税したりすることで、資源価格を上昇させ、税収を経済へ再循環させる。

このようなデカップリングを促進する混合型政策は、多くの国ですでに実施されている。例えば、欧州連合レベルでは、第7次環境行動計画、ヨーロッパの資源効率化へのロードマップ、2012年のエネルギー効率性に関する指令は、エネルギー、気候変動、研究と革新、産業、交通、農業、漁業、環境政策などすべてをデカップリングに向かわせる長期的戦略である。このロードマップは、労働税から資源利用税への転換を支持しており、環境に有害な助成金の段階的廃止について論じている。

IRPの報告書は、強いリーダーシップが全般的に発揮される必要性を訴えている。それが実現されれば、より少ない資源で経済的利益を生み出し、廃棄物を削減し、コストを抑制し、その結果、今後何年にも渡って世界経済をさらに拡大させることができる。

というのも、なぜ私たちはいまだに、資源生産性を向上する既存の技術や適切な政策を広く活用していないのだろうか? そのような技術や政策は世界で年間3兆7000億USドルものコストを削減でき、資源不足や価格変動や環境への負荷といった有害な影響から経済成長を切り離すことが可能なのだ。

翻訳:髙﨑文子

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著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。