歩いて献電しよう!

速水浩平氏は、将来に向けた大きなビジョンを持っている。発電する街を作ろうというのだ。道路、橋、歩道を通る人や車の振動を電気に変える仕組みを発明した。

まずは、1平方メートルのスペースで発電するという、ささやかな試みから始めたが、その設置場所の選択は最適だった。平日1日で90万人もの人々が行き来する渋谷駅ハチ公前広場は、世界でもっとも通行量の多い歩行者エリア。そこに4枚の発電床を設置した。

この発電システムは、速水氏が慶応義塾大学大学院、政策・メディア研究科で開発した技術に基づいており、振動を電気に変換する特定の床材が有する「振動力発電」を用いている。

渋谷に設置したのは、人々の通行を「献電」という形で募り、より多くの電力を作り出すためだ。速水氏は、20日間の実験期間中、1,422台のテレビを1時間稼働させるに十分な電力を得られるとし、このような建設的かつ遊び心ある方法を通じて、新クリーンエネルギー発電を模索しなければならないという我々の差し迫ったニーズを指摘している。

速水氏は、同様のシステムを携帯電話のような小型機器に搭載したり、高速道路に設置して、自動車や大型トラックの通行を利用した振動力発電にも応用できると考えている。

渋谷駅ハチ公前広場での実験は、12月5日から25日まで行われている。近くを通りかかったら、黄色いパネルの上を歩いて、クリーンエネルギーに献電してみよう。

発明家や先見性のある人材が必要な理由は?

速水氏の発明を支える考え方には、エネルギー問題の段階的な解決と、技術革新の躍進との関係がある。これは、トヨタがプリウスを開発するに至った技術革新の経緯と似通っている。

プリウスの設計者たちは、「ドライバーがブレーキを踏み、車が坂を下る度に、エネルギーを生み出す」という仕組みを考え出した。その結果、燃料消費の大幅削減に成功したのだ。

トーマス・フリードマンは新しい著書「Hot, Flat and Crowded」(仮訳:環境革命が必要な理由)の中で、温暖化やエネルギー問題に直面した新時代を迎えた今、我々が必要なのは、小規模な変革や修正ではなく、エネルギーシステムの根本的見直しだと指摘している。単なる再生可能なエネルギーではなく、再生可能なエネルギーを生み出す仕組みそのものが求められている。

「発電する街をつくること」、それは新エネルギーシステム創出方の一例だ。速水氏のような人材や同様のプロジェクトへの需要が、今後ますます高まってくるであろう。

速水氏のウェブサイト(音力発電)

振動力発電(ウィキペディア)

Creative Commons License
歩いて献電しよう! by ルイス・パトロン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

2002年より国連大学メディアスタジオに勤務。環境問題に関するビデオドキュメンタリーやオンラインメディアの制作を担当している。