リビアの洪水で露呈した脆弱国の防災力不足

9月上旬、リビアでは「ストーム・ダニエル」による季節外れの豪雨により北東部沿岸の開拓地が水没し、甚大な被害がもたらされた。デルナ市では二つのダムが決壊、四つの橋が崩壊し、洪水の被害がさらに拡大した。十月中旬になっても病院はいまだに機能せず、道路や橋などの重要なインフラは今も荒廃したままである。

10月時点の報道によると、この洪水によって4,000人超の命が奪われ、8,500人超がいまだに行方不明である。悲しみやトラウマを抱える生存者の心理的負担は依然として非常に高い。

しかし、最悪の悲劇はおそらく、この惨禍が異常ですらないことであろう。ダムなどの重要なインフラが老朽化の一途を辿る中、気候変動により洪水の深刻さや頻度が増すと予想されている。この二つが同時に進行することは、極めて警戒すべき事態である。リビアのように不安定な政治情勢が続く国では、インフラ整備が依然として固有の課題として残っている。これに対し、何ができるのだろうか。

私たちは、災害リスクの研究者として、個々の洪水災害からその根本的な要因に関する知識を深められると考えている。こうした過去の災害は、リスクを管理し、コミュニティーの復興支援に役立てるためのその他の対策とともに、早期警報システムの果たす役割をより一層強調している。

リビアの洪水は、気候変動がもたらす破壊的な影響を改めて実証した。しかし、今回の洪水が浮き彫りにしたのは気候変動の危険性だけではない。リビアのような国が異常気象に極めて脆弱なことも露呈したのである。

リビアの災害リスク管理は継続中の紛争により断片化され、ダムインフラは老朽化が進み、早期警報システムは不十分である。リビア国立気象センターは限られた資源と能力によって悩まされている。

「ストーム・ダニエル」がもたらしたリビアの豪雨は、ダムの決壊と大洪水を引き起こし、デルナ市街の近隣全体を押し流した。

防災力に乏しい脆弱国

政治が、このような災害リスクを引き起こす重要な要因として浮上しているが、この傾向は同様の脆弱な統治体制に取り組む多くの国で見られている。防災やリスク管理のための効果的な調整や統合的なガバナンスが存在しないため、リビアでは正確な予測、早期警報システム、有効な対応戦略を提供することができない。洪水を完全に防ぐことは不可能であったものの、国の政治的混乱によって深刻度が増し、影響が拡大したことは明らかである。

早期警報システムの不備は、リビアに限らず多くの脆弱国で喫緊の課題となっている。シリア、南スーダン、チャドで最近発生した洪水でも、事前の備えと正確な気候予測という二つの側面の欠如により深刻な影響を及ぼすことが浮き彫りになった。

私たちは、こうした洪水事象を個別に、そして総合的に考察することで将来の激甚災害の影響を緩和、管理するために講じることができる具体的な行動を知ることができる。リビアの事例は、リビアやその他の脆弱な環境に適用すべき包括的な洪水リスク管理対策の必要性を強調している。

まず、どのような環境においても、そして特にリビアのような紛争地帯では、さまざまな団体や機関が協力して情報を共有することが極めて重要である。どのような組織も単独で大災害に対処することはできない。あらゆる利害関係者が連携、協力してリスクと災害からの復興を評価、管理しなければならない。

国レベルでの最新のリスク評価報告書が何よりも重要である。リビアでの今回のダム決壊は、その他のダムや重要なインフラのストレステストを実施し、災害を未然に防いでリスクを緩和することが急務であることを示している。意識を高め、能力を強化し、コミュニティーを災害リスク削減と適応に巻き込むことは、市民が自らのレジリエンス(強靭性)の取り組みに責任を負う力を与える。

次に、多くの危険やリスクをカバーし、予測精度を改善し、AIのような先端テクノロジーを利用し、脆弱なコミュニティーをはじめ、誰もがタイムリーで的確かつすぐに使用可能な警報をさまざまなコミュニケーションチャネルから受信できるようにする、包摂的な影響に基づく早期警報システムが必要になる。こうしたシステムを創り出すには投資が必要である。

インフラの強化にも投資が必要である。水道、交通、エネルギー供給網のような重要なシステムを改善しなければならない。気候に配慮した土地利用の実践、リスク情報に基づく都市開発、水の安全保障計画も、災害リスク削減の形で大きな利益をもたらす可能性がある。

医療に加え、心理社会的、精神衛生的な支援も、影響を受けるコミュニティー、特に個人やコミュニティーの福祉の全体的な復興を支援する上での優先ニーズの一つとする必要がある。教育の問題もある。人々は、直面するリスク、そしてそれにどう備え、適応し、対応すべきかを知る必要がある。

意識を高め、能力を強化し、コミュニティーを災害リスク削減と適応に巻き込むことで、制度の負担は軽減される。それは、市民が自らのレジリエンス(強靭性)の取り組みに主体的に行う力を与えることになる。

リビアの事例は、持続可能な復興やより良い復興のための計画策定を含む災害リスク管理に、包括的かつ統合的な複合リスクアプローチを採用することが、特に脆弱な環境において不可欠であることを示している。これらの重要な要素の実現を支援する綿密な調査とアドボカシーの役割は、同様の課題に直面するその他多くの地域を支援する上で不可欠である。

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著者

岡本早苗国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)の研究員。心理学・行動科学者(心理学、認知神経科学、行動経済学)として、学界と産業界において人間の行動や心理をよりよく理解し、循環型経済、気候変動への取り組み、メンタルヘルスやウェルビーイングなど、さまざまな目的に向けて研究活動を続けている。