11月11日よりポーランドのワルシャワで気候変動会議COP19のハイレベル会合が開催されるのを受け、国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)は、気候変動によりすでに生じている損失や被害に焦点を絞ったレポートを発表した。同レポートによると、さまざまな適応策がとられてきたにもかかわらず、人類にとって最も基本的なニーズである生計と食料安全保障を脅かす損失や被害に、脆弱なコミュニティはさらされているのである。
「我々の調査結果は、現行レベルの適応策や緩和策では、さまざまな気候ストレスからの負の影響を回避するには十分ではない、ということを明確に示しています。今すぐに政策的対応が必要とされています」と、「損失と被害イニシアティブ」の科学ディレクターを務める国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)のココ・ワーナー博士は解説するとともに、次のように指摘している。「食料安全保障や生活を損なうことになる気候変動の影響を、たった今も人々は感じています。そうした負の影響は、私たちが行動を起こさなければますます深刻化していくだけです。現状維持はもはや選択肢とはなり得ません」
同レポートで紹介されている科学的ケーススタディは、ブルキナファソ、エチオピア、モザンビークまたネパールで発生した洪水や干ばつの影響について調査するとともに、先にケニヤ、ガンビア、バングラデシュ、ブータン、ミクロネシアにおいて実施された調査を踏まえている。全9件のケーススタディで、3,269世帯との面談および200を超えるフォーカスグループ討議が実施された。
気候変動による被害を緩和するためにさまざまな対応策や適応措置が採られてきたにもかかわらず、エチオピアの対象地域において調査した世帯の96パーセントが、またネパールでは78パーセントが、ブルキナファソでは72パーセントが、そしてモザンビークでは69パーセントが、今なお家計に深刻な悪影響を受けている。対象地域全体で見て調査世帯の4世帯のうち3世帯が、食事の回数や量を減らさざるを得なくなったと答えており、これは明らかに対応が十分でないことの表れである。ケーススタディ対象地域の世帯はほとんどが小規模農家であることから、降雨パターンの変化、洪水や干ばつの頻発といった気候変動の影響は、食料安全保障だけでなくそうした世帯の生計安全保障にも、直接、深刻な影響を及ぼしている。
「2007年にエチオピアで発生した大規模な洪水によって、回答者の94パーセントが、作物の深刻な被害あるいは全滅を報告しています。農作物の大規模な被害はまた、食料価格の高騰につながり、それによってトウモロコシなどの主食が手の届かないものになっているのです」と、アフリカにおけるケーススタディのパートナーで、アフリカ気候政策センター(ACPC)でコーディネーターを務めるファティマ・デントン博士は述べるとともに、次のように指摘する。「調査では、すでに苦しい生活状態にある世帯が、気候変動の影響により、いっそう深刻な貧困に追いやられるという事実に何度もとなく遭遇しました。適応策が不十分で気候ストレスを押さえ込むことができないのであれば、それによってもたらされる損失や被害は、人類の福祉と持続可能な開発を大きく損なうことになるでしょう」
気候変動の影響による損失や被害は金銭的価値で表されることが多いが、実際には、文化やアイデンティティの喪失といった非経済的損失や被害が最も広範囲に深刻な影響を及ぼす可能性がある。ブルキナファソでは放牧民達は、水や干し草の不足によって家畜の数を間引いている。このことは、物理的資産の損失というだけでなく、文化的アイデンティティや生活の深刻な損失を意味している。
本UNU-EHSレポートに示されている損失と被害の証拠は、気候変動に関連する損失と被害に対処するための制度的取り決めの設定が最重要課題である気候変動会議が、ポーランドのワルシャワで開催されるというきわめて重要な時期に発表された。
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国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)の脆弱な国家における損失と被害イニシアティブの研究についての詳細は、 下記のファイルをダウンロードするか、UNU-EHS websiteをご覧ください。