今回は、国連大学地熱エネルギー利用技術研修プログラムのPh.Dフェローで、ケニアの環境科学者パシフィカ・オゴラ氏によるシリーズの後半をお届けする。オゴラ氏は地熱エネルギーが母国で果たす役割について論じる。
すべての人のための持続可能エネルギーの国際年である今年、エネルギーは経済発展の主要な原動力であり、エネルギーへのアクセスがミレニアム開発目標(MDGs)の達成に直接的な影響を及ぼすのだという点を認識することが重要である。エネルギーへのアクセスが不十分な場合、社会はエネルギーサービスによって基本的ニーズを満たす機会や有給雇用の機会を逸してしまう。
私の母国であるケニアでは、国民の75パーセントが安定した電力の利用ができない状況にある。その対策として、ケニアは2030年までに工業化する構想を打ち出した。その実現のためには、様々な資源から大量のエネルギーを利用しなければならず、地熱エネルギーは「その先頭に立つ」可能性がある。国は水力発電を補うために地熱をベースとした発電量を増大させる戦略を導入した。水力発電は総発電量の50パーセント以上を担っているが、頻発する干ばつの影響に非常に左右されやすい。
ケニアを縦断する900キロメートルの大地溝帯には、約1万メガワット(MW)の地熱エネルギーが手つかずのまま埋蔵されていると考えられており、14カ所以上の開発候補地がある。開発候補地は主に行政上の目的により、サウスリフト、中部、ノースリフトという地熱地帯に分類される。
A. オルカリア・イースト(オルカリアⅠ発電所) | B. オルカリア・ノースイースト(オルカリアⅡ発電所) |
C. オルカリア・ウエスト(オルカリアⅢ発電所) | D. オルカリア・ドームズ(オルカリアⅣ発電所) |
こうした可能性を引き出すため、ケニアは能力開発、技術移転、資金調達の面で、アイスランドを拠点とする国際連合大学地熱エネルギー利用技術研修プログラム(UNU-GTP)の研究者のような、国内外の専門家たちと協力している。こうした取り組みによって、ケニアはアフリカにおける地熱資源開発のリーダーとなった。
地熱利用の最も優れた実例モデルを示すことによって、UNU-GTPとアイスランド・ジオサーベイ社は多くの途上国と工業国にとっての主要な照会先となった。
1979年のUNU-GTP開講以来、総勢62人のケニア出身の専門家たちが6カ月の特別トレーニングを経てプログラムを修了している。彼らはアフリカ全体の修了生145人の中で大きな割合を占めている。
ケニアの「地熱チーム」は現場において強い力となり、今ではケニアや、アフリカ地溝・地熱開発機構(ARGeo)の加盟諸国全体での地熱エネルギー開発をさらに高いレベルに推し進める責任を担っている。
すでにケニアは、アフリカで最大の地熱発電所(オルカリアⅡ発電所)を有している。さらに、140MWの地熱発電所を新たに2カ所、建設および拡張するように発注した。オルカリアⅣの建設と、オルカリアⅠの4号機および5号機の増設である。オルカリアⅣは2014年3月に、オルカリアⅠは同年6月に工事完了する予定だ。すでに開発されているオルカリア地熱地帯(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ)はヘルズゲート国立公園内に位置している。
地熱発電は一朝一夕に実現するものではない。しかし過去30年以上に渡り、UNU-GTPの修了生たちが絶え間なく、地熱資源の開発知識をしっかりと身につけ、基盤を強化してきたために、地熱発電は年月をかけて計画的に増えてきたのだ。
ケニアの大地溝帯の南部および中部は、電気の利用が限定され、利用できる場所が分散しており、国の送電線沿いにある大きな町でしか使えない地域だ。
それとは対照的に、北部は発電量が増えてもその恩恵に授かることができず、主送電線から離れたままだ。なぜなら、送電線を丘陵地に通して人口密度の低い地域まで延長するのが経済的に不可能だったからだ。その結果、電気が使える地域と使えない地域では、開発や福祉利益の点で大きな差が生じている。
しかし、険しく、干ばつに見舞われた北部の地下には、大量の地熱エネルギー資源が眠っている。地表に現れる地熱現象は、地元コミュニティーの文化や霊的信仰に影響を及ぼしてきた。長年に渡る地域の周縁化の結果、北部の部族に伝わる文化遺産は損なわれずに残った。何世紀にも渡り、地表に現れる地熱現象は幽霊や悪霊、あるいは一部の例では聖霊として捉えられてきた。幾つかの宗教的伝説では、地表に現れた異なる地熱現象の形成について語られている。
北部には大量の地熱エネルギー資源が存在するにもかかわらず、多くの遊牧民の世帯は照明に薪を使っている。エネルギー供給サービスを利用できないために、こうした世帯は貧困の悪循環から抜け出せない。例えば非識字率は、イースト・ポコットでは90パーセントを超えているが、もし家庭で電気を使えるなら、子供たちは夜でも本を読むことができるのだ。もちろん電気の普及は、貧困のわなから脱する方法の1つでしかない。しかし地熱を利用する技術のおかげで、かつて周縁化されていた地域に発展をもたらすことが可能かもしれない。
しかし、より多くの地熱地帯を開発することは容易ではない。こうした地域のインフラストラクチャーは貧弱で、気温は高く、水資源は不足しており、険しい傾斜地や火山が存在する。そこで必要となるのは、この新たなフロンティアを見事に征服し、「送電網に数メガワット多く送り込む」ことを願う、地熱の専門家たちの不屈の精神と強い意志だ。
「偉大さという高みに至る道は険しい」とは、1世紀のローマの哲学者、セネカの言葉だが、そのとおりである。
過去数十年間、ケニアでは干ばつと洪水が連続して生じ、食料安全保障だけでなく水力発電にも壊滅的な影響を及ぼした。ほとんどのARGeo加盟国は、(大量の沈泥を伴った)洪水の被害に何年も遭っており、その結果、水貯蔵量が減った。その後、深刻な干ばつに見舞われたために水力発電量はさらに減少した。
しかし、アフリカ地溝地帯の国々は地熱エネルギーを利用して気候変動の影響への適応策と緩和策を講じるチャンスを得ている。温室効果ガスの排出を削減するためには、低炭素で気候に優しい再生可能エネルギー資源を大量に活用しなくてはならない。
地熱エネルギーは現在、気候政策の波に乗っている。アフリカ地溝地帯の国々は、この新たな波の恩恵を最大限に活用しようと力を入れている。中でもケニアは、クリーン開発メカニズムの2つの地熱プロジェクトを開始したことで(コミュニティーへの恩恵も伴って)、今後も先導的な活躍が期待されている。
気候変動の緩和策における主要な要素は、エネルギーの使用が最も増加すると推測される開発途上国での再生可能エネルギー技術分野の能力開発である。アイスランドに拠点を置くUNU-GTPで開発された、地熱エネルギー専門家のための革新的な訓練プログラムは、そうした能力開発の実例だ。
ヴァイキングだったアイスランド人の先祖は、厳しい気候条件に適応するために地熱を利用していた。それと同じ地熱利用の特性を状況に合わせて調整し、東アフリカの大地溝帯の遊牧民のコミュニティーが気候変動への適応力を高めるために役立てることができる。彼らは頻発する干ばつの影響に時折さらされている。
私はオルカリア地域の状況をよく知っていたのだが、博士課程での研究を進めるにつれ、ケニアの北部にある地熱地帯のユニークな環境が秘める可能性に関心を持つようになった。
私の博士課程での研究は、北部のボゴリア・シラリ地域における気候変動への適応策の中でも干ばつに関連する側面で地熱エネルギーを利用する可能性に注目している。また、気候変動の緩和や適応戦略を地熱プロジェクトに取り入れるための初期概念的フレームワーク、例えばコベネフィット(相乗便益)、代償、限界なども示している。
マリガットは開発の進んでいない農村部の小さな商業中心地であり、北部の地熱地帯への玄関口である。この商業中心地はケニアの開発地と未開発地の違いをよく表している。マリガット周辺のコミュニティーは、オルカリア地熱地帯近くのコミュニティーのように、計画された地熱プロジェクトからの恩恵に浴することができるだろうか? あらゆるエネルギー基幹施設プロジェクトが直面する課題とは、その地域の環境に与える影響を考慮し、地域コミュニティーに恩恵を与えながら、全国的なエネルギー需要にどのように応えるかだ。
全体としてケニアで計画されている地熱エネルギー開発は、地域レベルと国レベルの両方において、ミレニアム開発目標の実現に役立つだろう。
次のステップは、私たちが本腰を入れて地熱エネルギー資源の開発に乗り出すことだ。そのためには、アイスランドのUNU-GTPやアイスランド政府(そしてその他の組織)のような戦略的開発パートナーとの緊密な連携が不可欠である。非常に複雑で技術的な分野での能力開発や技術移転に対し投資する勇気を持っていただいた諸組織に、私たちは感謝している。その投資は、地熱エネルギー資源を有する多くの開発途上国で人々の生活と経済的繁栄に間違いなく変化をもたらしてくれた。
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本稿で述べられた意見は筆者のものであり、筆者の勤務先の見解を表すものではありません。本ページに掲載されたドキュメンタリー映像は、国際連合大学が調査、立案、制作したものであり、本稿の筆者およびその勤務先の見解を示すものではありません。
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