バヴォ・スティーブンス氏は、国連大学グローバリゼーション・文化・モビリティ研究所(UNU-GCM)のジュニア・リサーチ・フェローである。キングス・カレッジ・ロンドンで戦争研究の修士号、シカゴ大学で政治学の学士号を取得した。研究対象は、移住および強制退去、政軍関係、紛争時の暴力のダイナミクスである。
「私たちは、子どもの最善の利益に常に主要な考慮を与えつつ……全ての難民と移民の子どもの人権と基本的自由を保護する」
世界の指導者たちは、昨年9月に難民と移民のためのニューヨーク宣言を採択し、こう誓った。この宣言では「子ども」について何度も言及されており、「移民の子どもの人権を保護する」必要性が繰り返し確認され、子どもの移民の「基本的な保健、教育および心理社会的サービス」へのアクセス向上が擁護されている。
しかし、難民と移民の子どもの数は世界全体で5,000万人近くに達しており、目的にかなう政策の策定は、競合する政治的、社会経済的利益のしがらみにとらわれた中での作業となる。宣言で子どもの移民について繰り返し言及された点には期待が持てるが、移民政策策定の過程で子どもの問題が往々にして見過ごされる原因については、これまでほとんど取り組まれてこなかった。
今月、国連加盟国は、安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクトの策定を開始する。これは、ニューヨーク宣言の公約実現を支援するための重要な枠組みとなる。しかし、この策定過程で子どもの問題について考える際、国連加盟国は難しい課題に直面する。
子どもの移住に関する従来の詳細分析は断片的であり、時代遅れの思い込みに基づくものだった。子どもの移民はこれまで、人身売買の被害者や、あるいは大人に連れ添う受け身として描かれてきた。今後、政策立案者はこうしたステレオタイプを排し、子どもの移民の脆弱性、権利、移住の誘因に総合的に対処する必要があるだろう。
こうした方向への第一歩として、子どもは移住の全過程における危険に対して固有の脆弱性を持つということをより認識する必要がある。一般的に子どもは大人に比べ、利用可能な手段を使って物理的に自らの身を守る能力が劣るため、暴力や搾取の標的となりやすい。とりわけ大人に付き添われていない子どもは、 性的搾取および兵士への徴用の危険性が高い。
移住には健康上のリスクも伴う。移動中(特に 非正規の移住の場合)に受ける、栄養不良、病気への暴露、暴力といった「打撃」は、子どもの健康と発育に永続的な影響を及ぼしかねない。こうした打撃は、成長に伴って教育や雇用レベルにマイナスの影響を及ぼすとの研究結果もある。
もうひとつの例が拘束である。拘束の経験は子どもの幸福度に深刻なマイナスの影響を及ぼすことが、多くの研究により立証されている 。拘留期間が短期であっても、認知発達を損なう深刻な心理的・身体的危害が引き起こされる。とはいえ、子どもの拘束問題はニューヨーク宣言起草に際して最大の争点のひとつとなったものの、最終的に子どもの拘束の禁止が宣言に盛り込まれることはなかった。
上にあげた各種のリスクが根強く残るのは、子どもの保護についての既存の枠組みに大きな欠落部分があるためである。児童の権利に関する条約(子どもの権利条約) のような枠組みでは、「すべての」子どもの取扱いについて基本的な基準を規定しているものの、子どもの移民は世界の多くの地域で日常的に虐待を受け続けている。
例えば、北アフリカでは、国連児童基金(UNICEF)が聞き取り調査を行った子どもの移民の約4分の3が、移動中に何らかの形の暴力や嫌がらせを経験していた。中央アメリカと北アメリカでは、母国での犯罪組織の暴力と、必要な保護を認識していない移住国での効果の薄い移民政策との間で、子どもが板挟みになるケースが多い。
こうした人権侵害が続く大きな要因は、子どもが政策議論の中心に置かれることはほとんどない点にあり、さらには移民の人権に関する特別報告官フランソワ・クレポー氏が主張する通り、移住は断ち切らなければならない「問題」と見られることが多い点にある。このため、子どもの移民を含め、移民の権利が考慮されないケースが多く見られる。
具体的な事例として、最近のEUの動きがあげられる。EUは加盟国に対し、迅速に移民を帰国させる政策の立案を奨励しており、国連ではこの動きが子どもの「保護の縮小」につながると異論を唱えている。むしろ移民「問題」に対しては、「第一に子どもを危険にさらしているEUの移民アプローチの 根本的欠陥 」に取り組む政策で応じる必要がある。そのうえで、国家が子どもの移民や難民のニーズに無関心なことで彼らが欧州で日常的に直面している暴力は、ようやく法的枠組みによって減少するはずである。さらにそのうえで初めて、教育や保健といった不可欠なサービスへのアクセスを妨げる障壁が、法的枠組みによって削減されることになる。
実際に多くの国で、子どもの非正規移民は拘束や本国送還を恐れ、教育や保健サービスにアクセスできずにいる。情報の欠如、費用、拘束への恐怖、差別もまた、子どもが自らの権利を行使する妨げとなっている。加えて、サービスに年齢要件が設けられている場合、こうした課題はさらに深刻となる。
子どもの移民が政策議論で取り上げられる場合にも、人身売買の観点から議論されたり、大人の体験に包含されたりするケースが多い。人身売買撲滅の取り組みが不可欠であることは確かであるが、そのことによって、安全な状況のもとでは子どもにとってプラスとなる事例があることを含め、子どもの移民のその他の事例が見えにくいものとなっている。
貧困、政治的暴力、人道危機から逃れるためなど、子どもの移住の背景には大人同様のさまざまな理由が存在する。しかし、より良い教育を受けるためや、家庭内暴力から逃れるため、あるいは大人への儀式として移住する子どもも多い 。
また、子ども自身が主な意思決定者となり、自ら積極的に新たな機会を求めるケースもある。具体的には、妥当な農業の職がないことから、若者が故郷の村を離れて都会で仕事を探さざるをえないインドネシアのケースなどがこれに当たる。
こうした移住の複雑さゆえに、各組織は子どものモビリティに対してより全体的なアプローチをとるようになってきた。Terre des Hommes(テル・デ・ゾム)とセーブ・ザ・チルドレンは、再び介入に焦点を絞り、移住過程にある子どもが重複した社会的スペースに置かれる事実を浮かび上がらせるため、「Children on the Move(移動する子どもたち)」という枠組みを採択した。
子どもの移住はかじ取りの難しい法律分野であるが、その理由は、各国政府の欲望や利益と、子どもにとって最善の利益とみなされるものとのバランスを取ることが非常に困難であるためである。
結局のところ、子どもの移住の完全な終結を目指す対応は、子どもの保護にはつながらない可能性が高く、逆に子どもをさらに危険な移住の道へと進ませることになる。そうではなく、各国政府は、子どもが移民問題の核心であることを認識すべきである。求められるのは、子どもが目的を持った一人の人間であり、固有の願望と脆弱性を有しているということを認識した動的なアプローチなのである。
移民問題において子どもの権利に基づくアプローチを主流化することは、政策議論の場で常に子どもの存在を顕在化させるために不可欠であるとともに、子どもにマイナスの影響を及ぼすことのない重要な人身売買禁止政策の策定を促すことにもつながる。
ニューヨーク宣言で子どもについての認識が示されたことは、幸先の良いスタートと言える。しかし、移民問題の専門家、実務者、政策立案者が 5月、会合を開き、すべての移民の人権について議論を展開する場では、子どもの権利とリスクに特段の焦点を置かなくてはならない。そうすることでようやくグローバル・コンパクトの策定が可能となり、すべての人にとっての安全で秩序ある正規移住を真の意味で生み出すことができるであろう。
移住に関するグローバル・コンパクトに子どものための余地を by バヴォ・スティーブンス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.