カーボン・ファーミング・イニシアチブの改善点

2012年3月、オーストラリアのケアンズで、国連大学共催により、ワークショップ「地域コミュニティおよび先住民族と共に進める気候変動緩和:慣習、教訓、展望」が行われた。冒頭に取り上げたインタビューはそのワークショップの一部である。

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先住民土地所有者とカーボン・ファーミング・イニシアチブ

ダニエル・パウエル著

オーストラリアで最近始められたカーボン・ファーミング・イニシアチブ (CFI)には大きな期待が寄せられている。このプロジェクトは、農業従事者や土地所有者に再植林、持続可能な農業、家畜管理、ランドスケープ再生といったさまざまなイニシアチブに関わることを求め、それらを通じて行った二酸化炭素の貯留や温室効果ガスの削減に対して炭素クレジットを提供するというものだ。

このプログラムが潜在的に持つ影響力が大きくふくらんだのは、8月にヨーロッパとオーストラリアが相互の炭素市場を結びつけることを発表し、CFIが世界最大となる炭素市場に取り込まれたからだ。

では、オーストラリアの土地の25%近くを所有する先住民族にとって、CFIは恩恵をもたらすだろうか?あるいは、CFIに参加するには土地保有形態や所有権による前提条件があり、彼らの中でも利用できる人は限定されてしまうのだろうか?

冒頭に取り上げたビデオで、オーストラリアの気候変動・エネルギー効率省のジェレミー・ドーレ氏は、CFIがオーストラリアの先住民族にもたらす機会と課題の一部を紹介している。

ドーレ氏は最初に次のように述べている。「CFIにおいて私たちは、可能な限り、アボリジニとトレス海峡島しょ民のすべての人々が直接利用できるようにしました。CFIは土地所有権制度に基づいて自由保有権を持つ人々と、先住権原法に基づいて土地の占有権を持つ人々の両方を対象にしています。これで、この機会はずっと容易に利用できるものになるはずです」

先住民による利用を促進する施策のひとつに、先住民カーボン・ファーミング・ファンドがある。これは Land Sector Package(総合土地政策)の一環で、5年間にわたり、2230万豪ドルがあてられている。具体的には、アボリジニとトレス海峡島しょ民がCFIに参加するために必要な情報と知識の提供、ビジネスの発展の支援、アボリジニの土地に適したCFI方法論の調査などを行う。

しかし、オーストラリアの土地保有形態の仕組みは文面上では整然と分類されているとはいえ、それと矛盾なく土地所有者の炭素権を確定するのは容易ではない。先住権原法によって土地の権利を持っていても占有ではない場合が議論になっている地域もある。ドーレ氏によると、オーストラリアの二酸化炭素法は州によって差があり、先住民土地所有者が炭素権を利用できる場所もあれば、できない場所もある。

ほかに、アボリジニおよびトレス海峡島しょ民がCFIを利用する際の潜在的な障害になっている事情としては、彼らの所有する土地は大抵の場合、へき地にあり、農業や再植林といった典型的なプロジェクトの重点分野に関しては、炭素市場における潜在的価値が低いことが挙げられる。

この対策として、CFIでは、先住民族が所有する割合が高い土地に合わせた方法も掲げられている。たとえば、サバンナの火災管理は、火災を減らすことによって二酸化炭素の排出量を抑えるというもので、このような手法で炭素市場を利用できるのは先住民土地所有者だけであろう。

しかし、CFIは初期段階にあり、ドーレ氏がまずやらなければならないこととして強調するのは、将来のプロジェクトに向けて教訓を引き出せるような、持続可能な前例を打ち立てることである。

「私たちの目標は、成果が上がる持続可能なプロジェクトをいくつか立ち上げ、早々に軌道に乗せ、それらを前例として、他のグループが、そこで得られた教訓を活かしながら後に続くのを容易にすることだと思います」

冒頭で取り上げたビデオでジェレミー・ドール氏のインタビュー全編をご覧ください。

ヌーシン・トラビ氏による以下の記事をお読みください。同氏は、オーストラリア政府のLand Sector Package(総合土地政策)に追加された施策、生物多様性ファンドを絡めてCFIをより幅広く考察しています。

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カーボン・ファーミング・イニシアチブを農業従事者にとってより魅力あるものに

ヌーシン・トラビ著

カーボン・ファーミング・イニシアチブ(CFI)と生物多様性ファンドは、オーストラリア政府による2つの新しいイニシアチブで、個人の土地所有者が収益を生み出しつつ、気候変動緩和と生物多様性管理の両方に貢献するのを支援しようというものである。しかし、これらのイニシアチブを推進する計画を策定するにあたっては、考慮すべき重要な問題がある。

6割の土地が個人によって所有および管理されているオーストラリアでは、土地所有者の慣習が、ランドスケープ管理の持続可能性を左右するほどの重大な意味を持つ。土地管理活動を成功させるには、まず農業従事者と土地所有者を変革推進者として位置づける必要がある。なぜなら、彼らこそが自らの所有する土地で保全の慣習を打ち立て、「従来通り」を超えられる人たちだからだ。

土地所有者の道徳観と価値観を考慮する

どのような社会的・文化的価値に突き動かされれば、農業従事者が本来、農業目的に使える個人の土地にわざわざ植林をしようという気持ちになるのかについて、私たちはよく知っているわけではない。一般的に、社会的・文化的価値とは金銭的な動機によるものではなく、保全に対する道徳観や美意識である。つまり、土地所有者は、収入の増加につながるという市場のシグナルだけに反応するのではない。道徳的および自然主義的な自らの価値観を追求することを目標にするのである。

二酸化炭素排出量削減と生物多様性管理を目標とするこれらの市場アプローチに、社会的・文化的要因は影響を及ぼす可能性があるが、計画の策定において、それらは見落とされがちだ

私は、このような促進要因を調査することにより、バイオ炭素隔離プロジェクトおよび生物多様性保全プログラムは、より大きな成功を収められると考えている。個人の土地を利用するバイオ炭素隔離プロジェクトについては、土地所有者の姿勢が成功にも影響するので、その背後にある社会的・文化的促進要因を詳細に調査することは絶対に必要だ。CFIに対して研究予算が割り当てられることにより、このような調査を行い、有意義な結果を示せるだろう。

生物多様性ファンドがさらにインセンティブを提供する

新たに人工林を造成し、維持するには、時間も費用もかかる。炭素固定林の造成にかかる費用については、水資源の利用可能性およびコスト、苗木代、人件費、フェンス代などを考えなければならない。 7段階から成るCFIプロセスを実行するのは時間を要することだ。土地所有者は本来なら、その時間を使って自らの農業ビジネスの将来に集中できるはずである。

費用便益の面から考えた場合、CFIに基づいて発行された炭素クレジットが取引されない時に常に懸念されるのは、林木が生物多様性保全や二酸化炭素削減を目指す市場よりもさらに魅力的な市場で売られてしまうことだ。農業従事者がこのような方法で出費を埋め合わせせずにすむように、費用を相殺するのはCFIのためになることだ。

生物多様性ファンドは、農業従事者に対して、炭素固定林を造成する費用の一部を補償するものだ。さらに、炭素固定林を恒久的な二酸化炭素吸収源として確実に維持することもできる。生物多様性ファンドは、個人の土地所有者が生物多様性に富む炭素固定林を造成するのを促進するインセンティブとして、二酸化炭素吸収源に価値を付加し、ランドスケープを回復させるのに役立つ。

私が個人的に気候研究所のコリー・ワッツ氏と連絡をとったところでは、 約1500人が生物多様性ファンドに申し込んだ。3分の1がCFIに参加することにも関心を示していた。つまり、生物多様性ファンドがすでに提供している機会についてさらに情報が提供されれば、環境保護のための植林に興味を持つ人が増える見込みがある。農業従事者には、炭素固定林造成に申し込んでも、生物多様性ファンドの承認には影響がないことを確実に伝える必要がある。

土地所有者の不安を軽減する手助けする

炭素固定林造成の潜在リスクとして、不安を免れない事柄がいくつかある。たとえば、ビクトリアは世界で最も山火事が起きやすい地域の1つだ。炭素固定林の造成を行っても山火事にあうのではないか、制度そのものが危うくなるのではないかという不安は常につきまとう。一度、火事が起こって造成林に被害が及ぶと、林木が再生するまでには再び時間がかかる。これでは、土地所有者にとって状況はさらに見えにくくなる。

火災に適応した土着の樹木を植林するほか、炭素固定林造成の保険を購入するのも役に立つだろう。今ではその分野で積極的に商品を販売している保険会社が何社かある。保障の範囲はさまざまで、火事にまつわる不安は軽減される。保険をかけるとさらに出費が増えるが、生物多様性ファンドの追加インセンティブとして費用の一部は補填される。

土地所有者には、生物多様性に富む土着の樹木の造成林は、単一種の樹木を植えた造成林より火事への耐性があることを十分に知らせる必要がある。さらに、火災の起こり方によく適応した土着の植物は、火事にあっても被害が抑えられる可能性が高い。これは、植林する樹種を選ぶにあたって考慮する必要がある。これらのイニシアチブで成果を上げるためには、土地所有者が情報を簡単に入手できるようにしておくことも絶対に必要である。

今日まで、カーボン・ファーミング・イニシアチブに農業従事者を関与させる計画のほとんどは、炭素クレジットによる金銭的インセンティブに頼っていた。しかし、農業従事者が自らの土地で何をするかを決める時は、金銭以外にも多くの事柄を考える。彼らの価値観を考慮し、不安を軽減する方法を示せば、CFIは飛躍的な拡大を見せるだろう。

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ヌーシン・トラビ氏の記事はで発表されたものです。

ヌーシン・トラビ氏の記事はクリエイティブ・コモンズBY-ND 2.0ライセンスに基づいて転載されています。

翻訳:ユニカルインターナショナル

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カーボン・ファーミング・イニシアチブの改善点 by ダニエル・パウエル is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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Making the Carbon Farming Initiative More Appealing to Farmers by ヌーシン・トラビ is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.
Based on a work published by The Conversation

著者

ヌーシン・トラビ氏は、ロイヤルメルボルン工科大学の博士課程に在籍中の学生で、研究のテーマは、炭素隔離に役立ち、かつ生物多様性が豊富な植林を促進するために、生態学的・社会経済学的に統合されたモデルを構築することである。研究においては、社会経済システムの統合、農村地域におけるレジリエンスの構築、ベイジアン・ネットワーク、生態学的な事象の背景にある社会的ルーツの探索、生態系サービスの市場の統合などにも関心を抱いている。

ダニエル・パウエルは国連大学メディアセンターのエディター兼ライターであり、Our World 2.0担当エディターに名を連ねている。東京の国連大学に加わる前は8年間、東南アジアを拠点に過ごし、農業、生物多様性、水、市民社会、移住など、幅広いトピックを網羅する開発・研究プロジェクトに携わっていた。最近では、USAID(米国国際開発庁)がカンボジア、ラオス、ベトナムの田園地帯で行った水と衛生に関するプログラムにおいて、コミュニケーション・マネジャーを務めた。アジアで活動する前は、米国林野局に生物学者として勤務、森林の菌類学および地衣学の研究を行っていた。