気候変動の最前線で闘うマリ共和国

南アフリカのダーバンで行われている「COP17(気候変動枠組み条約第17回締約国会議)」が終盤を迎えているが、気候変動のリスクに対する科学的コンセンサスはこれまでになく明確だった。

COP17開催の数日前に、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は極限的事象と災害をテーマにした概略報告(詳細報告書は2012年前半に公表予定)を発表していたが、その結論は極めて厳しいものだった。例えば、IPCCの作業部会共同議長によると、現在の温室効果ガス排出が続けば、「現在は20年に一度の猛暑日が、2年に一度の頻度」で起こるようになるという。

同時に、経済協力開発機構(OECD)の富裕国諸国に指針を示している国際エネルギー機関(IEA)は、その代表的な報告書の最新版「世界エネルギー展望2011年版)」で異例の厳しい警告を発表した。IEAによると、現状の生活様式を変え、大災害と取り返しのつかない気候変動を避けるために私たちに残されている時間はたった5年しかないという。

IEAによると、現状の生活様式を変え、大災害と取り返しのつかない気候変動を避けるために私たちに残されている時間はたった5年しかないという。写真: マット ラッジ

IEAによると、現状の生活様式を変え、大災害と取り返しのつかない気候変動を避けるために私たちに残されている時間はたった5年しかないという。写真: マット ラッジ

しかし、世界のリーダーたちは温室効果ガス排出削減のための土台作りが出来てない、または、やる気がないようだ。強大な既得権益を獲得する近い立場にある「気候変動懐疑論者」は、科学を歪曲して先進国の変化を遅らせており、急成長中の途上国側も達成が困難なガス排出削減に向けた真剣な国際合意を設けるための努力をしていない。 「排出大国」による望ましくない協力体制により、地球の気候に対する賭けが行われているかのようだ。

その一方でますます多くの国々にとって、気候変動ははるか遠い出来事などではなくなってきている。赤十字・赤新月気候センターの「Young Scholor(若き研究者)」 として、私は今年始めに世界で最も脆弱な国の1つ、マリ共和国で気候変動への適応についての研究を行った。

活気にあふれた文化、ユネスコの世界遺産に登録された数々の史跡、ダイナミックな市民社会を持つマリ人は、当然ながら自国とその文化に誇りを持っている。

ところがマリは国連の人間開発指数ランキングでは187カ国中175位で、アフガニスタンやエチオピアより低い。人口の80%は気候変動に左右されやすい昔ながらの農業と漁業に依存している。人口の約半数が15歳以下で、今後20年の間に人口は今の2倍になると予測される。人口構成の傾向と農業の生産性は一致しないため、食の確保という点では大きな問題がある。

2030年までには、エネルギー、水、食料不足にを争点とする国家間の緊張関係により、世界は 「パーフェクトスト-ム(最悪の状況)」に直面するとされている。そんな中、世界の食料市場への参入は、マリやその他似たような弱小国には重過ぎる費用負担が生じることになるだろう。マリは食の確保に関しては「深刻」な状況にあるとみなされており、既に大量の米と小麦を輸入している。

さらに、この国の地理的条件も開発の機会を奪っているかもしれない。世界銀行リサーチ部門の元部長ポール・コリア教授によると、国の資源が少なく、内陸部にあり、「機会がない、または機会をつかむ気のない」国々に囲まれている場合は、その国は「低速車線」を走る以外にないという。マリはこの定義にぴったり合う。

さらにひどいのは西洋人が誘拐されるケースが増え、治安が悪化していることだ。これまで気候変動に弱い農家に代替的収入源を供給していた観光業が現在は崩壊寸前にある。さらにコレラの発生と度重なる食料危機が加わり、状況の深刻さは明白になりつつある。 さらにひどいのは西洋人が誘拐されるケースが増え、治安が悪化していることだ。これまで気候変動に弱い農家に代替的収入源を供給していた観光業が現在は崩壊寸前にある。さらにコレラの発生と度重なる食料危機が加わり、状況の深刻さは明白になりつつある。

気候より不安定

このように脆弱性が重なる中、気候変動の影響は、それが慢性的なものであれ、頻度も強度も増した干ばつや洪水のように壊滅的なものであれ、国家の機関を不安定化させるおそれがある。

行動が伴わなければ、気候変動は大災害に結びつく2つの要因となる。気候そのものによる危険と社会の脆弱性だ。気候変動は「脅威の乗算器」とみなされるべきだ。マリの首都バマコにあるスウェーデン大使館で気候変動について研究しているマリ人、マンビー・フォファナ氏は、何の対策も行わなければ「開発は全て無効になる」と話した。

マリでは飢餓、伝染病、紛争という悪循環が起こり、ますます状況が悪化するかもしれない。このような望ましくないシナリオは行き過ぎだと思う人もいるだろうが、コレラの発生、度重なる食料危機、北部での治安の悪化はどれも現実問題だ。

マリ共和国のBouwéré村 写真: P.カジエ (CGIAR)

マリ共和国のBouwéré村 写真: P.カジエ (CGIAR)

確かに、マリでは飢餓、伝染病、紛争という悪循環が起こり、ますます状況が悪化するかもしれない。このような望ましくないシナリオは行き過ぎだと思う人もいるだろうが、コレラの発生、度重なる食料危機、北部での治安の悪化はどれも現実問題だ。マリの政治家や国際社会は、これらのシグナルに反応し真剣に取り組むべきである。

とはいえ、全く希望がないというわけではない。リスクを軽減する解決策は存在するからだ。サヘル地域の気候予測は特に「困難」だが、IPCCによる新しい概略報告書はいくつかの危険な状況に対する脆弱性を低減するための様々な「low-regrets options(後悔の少ない選択肢)」を示している。費用効率の良い解決策としては、雨水を集め保存するシステム、灌漑の改善、干ばつに強い種の入手、初期警告システムの設置などがある。地域密着型の気候変動適応策は脆弱性を低減し地域社会と協力する大きな機会を提供する。

マリ赤十字社の元社長アダマ・ディアラ氏は、伝統的狩猟を行う人々、薬草を集める人々、女性(木材を集める担当)など、気候に左右されやすい人々と協力することが最優先されるべきだと私に話した。このような人々は環境に依存して生計を立てており信頼できる上、農村部の気候について知るための媒体ともなってくれる。

しかし気候変動適応策はボトムアップとトップダウンの両方が機能しなければならない。特に農村地帯の地位社会の支援と参加が不可欠な一方、政治家は効果的な国家戦略を立てるべき必要性についても理解しなければならない。ディアラ氏は、気候変動は政治家が常に真剣に目を向けてきた問題ではないとしながらも、非常にゆっくりではあるが進歩はあると話す。気候問題の専門家マンビー・フォファナ氏は、マリの政治家は「気候変動について話すことが多くなり」、「気候変動について話し合うフォーラムには参加している」ものの、さらに具体的な対策が必要だと言う。

スウェーデン、ノルウェー、世界銀行など国際社会からの様々な財政的、金銭的サポートによって、マリは待望の気候変動対策国家行動計画を立てたところだ。問題はこれが実際に導入されるかどうかである。適応策の成功は不可欠だ。

適応と緩和策

人口の半分が15歳未満のマリでは、若者は気候変動対策の最前線にいる。教育、通信ネットワークが改善され、特に携帯電話や、限りがあるとはいえインターネット利用者も増加しているおかげで彼らの発言力は増している。他のアフリカ諸国と異なり、マリは活発な市民社会であり自由な報道がなされているため、政治家は気候変動の課題に応える必要性にせまられている。

IPCCの調整役代表執筆者マーク・ぺリング教授は最新の著作『Adaptation to Climate Change: From Resilience to Transformation(気候変動への適応:回復から転換へ)』で、いかに災害がポジティブな社会的転換点となりうるかについて述べている。災害は不公平を暴き現状に挑む。ぺリング教授はその研究において、バングラデシュ、ニカラグア、メキシコなどの国々で災害が民主的改革に導いたことを示している。さらに最近の例で言えば、2008年に中国で起こった地震により、公立の小学校が複数倒壊し、重度の腐敗が明らかとなった。それらの学校は建築基準に則って建てられていなかったのである。そのためデモが起こった。

それでも、温室効果ガス排出を削減する国際的な尽力がなければ、適応策はすぐに限界に達する。私は先日IPCC代表執筆者クレア・ゴッデス博士に適応策の限界について話を聞く機会を得たが、その際、博士は次のように話した。「軽減策が不十分であれば、適応策はより困難に、あるいは不可能になります」 同様に潘基文(パン・ギムン)国連事務総長もフィナンシャルタイムズに「我々の適応能力には限界があり、有効な軽減策が用いられて初めて実行可能となる」との意見を最近書いている

現段階では、もはや公平な気候変動対策は無視することは出来ない。皮肉なことに、気候変動の原因を作ったわけでない国々が、その影響に最も苦しんでいる。2009年、マリの1400万の国民が排出した二酸化炭素は74万トンに過ぎない。だが例えばルクセンブルグの50万人は1000万トン以上の二酸化炭素を排出している。先進国には排出量を削減し、マリのような後発開発途上国への支援を行う人道的義務がある。グリーン気候基金の早急な設立は優先課題だ。

道徳的議論には動じない皮肉屋には、気候変動がもたらす安全保障問題になら納得するかもしれない。EU報告書はリスクを十分認識した上で、「問題の核心は、気候変動はもともと弱い立場にあり紛争が起こりやすい国家や地域を脅かすことである」と結論づけている。

加えてOECD報告書はこう述べる。「最近のサヘル地域で起こっていることにより、国際的テロ活動の進展、違法な取引においてこの地域が果たしている役割や際立つ脆弱性についての注目が集まり、アフリカのこの地域は国際的安全保障問題の中心にすえられることとなった」

気候変動に特効薬はないが解決策はある。マリの若者、学者、政治家など様々な社会的立場からの努力が集結し、国際社会からの金融、技術的支援がなされれば、この国を変貌させることは可能なのだ。

Creative Commons License
Mali in the frontlines of climate change by Lionel Badal is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.

著者

赤十字・赤新月気候センターの元「若き研究者」であるバダル氏はロンドンのキングズ・カレッジで災害・適応・開発に関する修士号を取得し、最近卒業した。彼の関心は気候変動とエネルギーの安全性についてであり、これまでに「ガーディアン」、「オブザーバー」、「エコロジスト」に寄稿している。