相互に関連する世界における災害リスク管理

記録的な猛暑や洪水から歴史に残るほどの干ばつや山火事まで、世界はかつてないレベルの災害に直面している。多くの場合、災害発生直後は悲惨な被害が大きく報道されるものの、そのうち人々の話題に上らなくなり、被害を引き起こす一因となった社会的要因に対処するまでには至らない。その災害が、不幸ではあるが単発の自然事象であるとの印象を与えてしまうのだ。

報告書『相互に関連する災害リスク』の2021/2022年版では、「自然な災害」などというものは存在しないと説明している。「私たちがニュースで目にする災害は、脆弱性をもたらした判断や行動の結果である。そうした判断や行動は表面下に隠れ、実際の災害自体は氷山の一角として表れているに過ぎない。」

自然な災害などない

災害は、猛暑や山火事などのハザード事象そのものと、そのハザード事象の影響に対する人や場所の脆弱性や、その影響にさらされている度合いとの相互関係として特徴付けることができる。この脆弱性は、インフラの状態、政府の政策、ランドスケープ・ダイナミクス(景観動態)、リスク認識の文化など、既存の社会的要因や社会構造に左右される。このように、ハザード事象は、脆弱性の存在のせいでいつ起きてもおかしくない災害の引き金に過ぎないと、報告書は説明している。世界のあちこちで起きているさまざまな種類の災害に当てはまることである。

災害リスクを有効に管理するには、脆弱性が存在する原因に目を向け、次に災害が起きる時までに、それらを解消する必要がある。

災害には、共通する根本原因が存在する

過去1年間に起きた10件の災害を詳細に分析したところ、私たちの行動や選択に根差し、事案ごとに災害の影響を深刻化させていた共通の根本原因など、災害同士の相互関連性が明らかになった。例えば、森林伐採は土壌侵食をもたらし得る。風雨から保護してくれていた樹木や根が無くなることで、土壌が流出しやすく、風で飛ばされやすくなる。これによって複合的災害が発生しやすくなり、2021年のハイチ地震では地滑りが起き、マダガスカル南部では砂嵐によって食料危機が悪化し、台湾では貯水池に堆積した土砂が重要な水インフラを詰まらせ、干ばつが深刻化した。

世界中で広がる森林破壊は、災害リスクを上昇させるばかりではない。炭素蓄積を減少させ、気候変動の軽減をより難しくするとともに、生息地の人為的破壊が加速されることで、生物多様性の危機をもたらす主要な要因にもなっている。ある土地で森林伐採を行うという選択は、環境への影響を無視した経済的利益の優先に起因する。都市化を進め、大型インフラ・プロジェクトを進めるため、自然な生息環境が犠牲にされているのは、まさにこの経済的利益の優先の一例であり、報告書『相互に関連する災害リスク2021/2022年』が「環境コストの過小評価」と定義する災害の根本原因の一つである。例えば、報告書では、ナイジェリアのラゴスにおける急激な都市化により自然な沿岸生態系が失われ、同地域の洪水がいかに深刻化したかを明らかにしている。

体系的問題には統合的ソリューションが必要だ

私たちの集団的行動や選択にかかわる体系的問題を解決するには、相互関連性を念頭に設計され、さまざまなハザードに対する強靭性を構築し得るソリューション(解決策)を目指して、集団的マインドセットを変化させる必要がある。報告書『相互に関連する災害リスク2021/2022年』が提示するソリューションの顕著な一例が、「自然を活かす」だ。、私たちの総合的利益のために、自然の作用を利用するという考え方である。過去に埋め立てられた河川を掘り返して洪水リスクを軽減したり、野焼きを行って山火事のリスクを軽減したりする手法が含まれる。つまり、私たちと自然との関係を見直し、長期的かつ体系的な視点から、ランドスケープの次元で災害リスクを検討するのである。

環境的、社会的脆弱性を減らすことで、さまざまなハザード・リスクにまたがって適用できるもう一つのソリューションは、「持続可能な消費」である。これは、私たちが商品や原材料を利用する方法を見直し、商品や原材料のライフサイクル全体を考慮することを意味する。

このようなソリューションは、さまざまな災害、立地に幅広く共通して適用できるが、実施にあたっては、その土地のニーズを念頭に設計することが重要である。ハイチの植林戦略をそのままマダガスカル南部に適用することはできない。同様に、ブリティッシュコロンビア州でうまく機能する山焼き計画でも、地中海地域で効果を発揮させるには調整が必要かもしれない。そのため、ソリューションを成功させるには、地域社会の関与を得て、地域の状況を理解することが極めて重要である。

報告書で言及されたソリューションの多くは、これまでにも存在していたが、十分な規模で採用されていないか、あるいは、災害の相互関連性や体系的な性質を念頭において実施されていなかった。例えば、ハイチの森林破壊には、森林再生や農林プロジェクトで対処できるかもしれないが、2021年の地震災害を目にした人は誰でも、単に木を植えるだけでは解決策にならないと言うだろう。災害は多面的であり、よって、同時に複数の角度から問題に取り組める一連のソリューションが必要になる。例えばマダガスカルでは、森林再生イニシアチブによって砂嵐の深刻さを軽減し、土壌を再生できるが、地域のガバナンスの強化、生活の支援や向上、農業革新の推進など、他のソリューションと統合的に組み合わせない限り、食料安全保障上のリスクが問題として残る。そのためには、市民と政府との間の新たなパートナーシップが求められる。報告書『相互に関連する災害リスク2021/2022年』では、何を行うかだけでなく、どのように行うかが重要であると説明している。

災害リスクに取り組むための相互関連性という視点

災害を深刻化させる持続不可能な開発慣行の根本原因を見ていくと、細分化された視野の狭い思考では、もはや対処できないことが分かる。こうした考え方はSDGsなどの枠組みにも反映されている。SDGsはまさに、社会的課題の広がりを捉えることで、持続可能な開発を実現しようとしており、例えば「飢餓をゼロに(目標2)」に向けた進捗は、目標6(安全な水とトイレを世界中に)や目標13(気候変動に具体的な対策を)の進捗に左右される。

持続可能な開発は、災害に対する社会の強靭性を構築し得るが、災害リスクについてはっきりと言及しているSDGsのターゲットは一つしかない。しかしながら、過去数年間に私たちが学んだことは、相互に関連する災害が、多くのSDGsの達成に向けた進捗を大きく左右するということだ。災害リスク削減を目指す多角的アプローチを採用しない限り、ソリューションは功を奏しないままだろう。したがって、地域社会やエコシステムの強靭性を長期的に構築し、災害に襲われた時の備えや対応、対処を向上させるには、相互関連性という視点が必要になる。

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この記事は最初にIISD SDG Knowledge Hubに掲載されました。原文はこちらからご覧ください。

著者

ジャック・オコナー博士は国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)の環境脆弱性・生態系サービス(EVES: Environmental Vulnerability and Ecosystem Services)の上級科学者を務めています。