2月20日は特別な日です。世界社会正義の日は、貧困の根絶、完全雇用やディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)、ジェンダーの平等、社会的ウェルビーイングおよび正義を全ての人に促進するためのあらゆる努力に敬意を示す日です。
世界の全人口の約15%は障害をもっていると推定されている。世界保健機関によると、これらの約10億人のうち、約80%は開発途上国に暮らしている(2011年)。国連障害者の権利に関する条約(CRPD) は、障害者の権利の保護および促進を目的として2006年の国連総会において採択され、現在、141カ国が批准してる。CRPDは障害者の権利を、 「障害者には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な障害を有する者であって、様々な障壁との相互作用により他の者と平等に社会に完全かつ効果的に参加することを妨げられることのあるものを含む」と記している。
2013年9月、ニューヨークにおいて、障害と開発に関するハイレベル会合が第68回国連総会の会期中に開催された。同会合の主な目的は、ミレニアム開発目標(MDGs)は世界の貧困に対する重要な取り組みである一方で、ミレニアム開発を達成するに必要な「障害のインクルーシブ開発の視点が欠けている」ことを認識することであった。ことをというのは、障害を持つ人々はあらゆる資源の利用が限られており、そのため貧困に陥る人の割合が高く、さらに「障害は、ほとんどの主流な開発過程に おいて、無視されたままである」。
こうした課題への対応として、ハイレベル会合では「The way forward, a disability-inclusive development agenda towards 2015 and beyond(これからの道のり:2015年以降に向けた障害インクルーシブ開発アジェンダ)」と題する成果文書を採択した。この文書は、関係政府や機関に対し、速やかな積極的な障害インクルーシブ開発戦略の採択および実施、さらに貧困の根絶、普遍的初等教育、保健医療サービスへのアクセス、社会的保護、雇用とディーセント・ワークといった国際的な優先課題に障害を統合する努力の必要性を謳っている。従って 同文書は国連機関や国連加盟国に対し、障害インクルーシブ開発に対するコミットメントをあらためて求めている。
世界の4人に1人は生涯に何らかの精神障害を経験する。また年間約100万人が自殺で命を落としている。この数字は、戦争と殺人に関連する死者数の合計よりも多い。さらに、自殺は若者の死因2位でもある。
世界的に見て、うつは障害をもたらす最大かつ単一の原因である。しかしながら、深刻な精神障害を持つ者の多くは、適切な治療を受けていない。その割合は先進国では35~50%、開発途上国では76~85%にものぼる(世界保健機関、2011年)。 加えて、精神障害や知的障害者に対するスティグマ、差別、人権侵害は広く認識されているにもかかわらず、多くの国では重要視されておらず、未解決のままである。特に、災害や紛争の状況下において、精神的ウェルビーイングの側面は平和構築や復興過程および精神障害者や知的障害者の保護において重要な役割を担うにもかかわらず、周辺化されている。
障害と開発に関するハイレベル会合の開催にむけた過程の中で、重要でありながらも無視されていた精神的ウェルビーイングと障害を開発の主要指標として取り上げてきた。国連経済社会局(UNDESA)とWHOによる2010年の政策分析文書が強調したのは、、精神的ウェルビーイングはMDGsや国際的に合意された目標の達成において重要でありながらも無視されてきた優先課題であるとういことである。この政策分析文書に基づき、国連大学グローバルヘルス研究所とUNDESAは、2013年4月、UN Expert Group Meeting on Mental Well-being, Disability and Development(精神的ウェルビーイング、障害、開発に関する国連専門家会議)を開催した。この専門家会議の成果文書は、精神的ウェルビーイングを持続可能な開発を評価する重要な指標 として位置づけること、また障害に関する政策とプログラムにおける不可欠な優先課題として精神障害者や知的障害者の権利の保護と促進をすべての開発努力に包括することを提言した。
これらは極めて重要な新しい開発課題であり、MDGsの達成、障害と開発に関するハイレベル会合の成果、そしてポスト2015 年の新たな開発アジェンダにおいて中心的な課題となる。それらはすべて、社会正義を大きく推し進め、真人間開発を可能にするものである。
精神的ウェルビーイングおよび障害はインクルーシブ開発の優先課題 by 堤 敦朗、 井筒 節 and サイード・エムダドゥル・ハック is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.