地中海で命を落とす移民:身元確認という現実的な課題

2018年、地中海を横断中に命を落とした移民の数は2,000人を超えた。この数は、その他の全世界における移民死亡者の2倍に上る。この問題をさらに複雑化させているのは、危険を伴う移民の移動方法により、数限りない小型船の難破事故による死者数が把握できていないという事実だ。多数の溺死者が出る悲劇は報道の対象となり、一般市民の動揺や、予防と救助に関する激しい論争を呼び続けている。しかし、死者の集計と身元確認という極めて現実的な課題が脚光を浴びることはない。

地中海における死者の事後処理は、辛くとも必要な仕事だ。しかし、官僚的な曖昧さや行政の怠慢により、現状、取り組みは進んでいない。クルーズ船の災害や航空機墜落事故が起きた場合、広範な科学捜査や国際的な動員、補償が行われるのとは、正反対の状況である。その根底にあるのは、国際水域を横断する旅行者や留学生、ビジネスマンなど「正規」の移住者に比べて、移民の命には、協調的な取り組みによって死後の身元を確認する価値がないという考えだ。

死後に身元確認を受けるという人権は、1949年のジュネーヴ諸条約をはじめ、幅広い国際的な枠組みによって確立されている。各国が不法移民の人権をどのように認めるかは、死亡の際の状況や、それぞれの対応能力など、さまざまな要素が絡み合って決まる。特に、資源や人材の不足、DNAサンプルや生前データの欠如、遺体の発見状況、移民の親族からの物理的な隔たりなど、身元確認プロセスには多くの実際的障壁があると考えれば、対応能力の問題は重要だ。

身元確認プロセスには道徳的、社会的ハードルが存在するが、4つの重要な現実的ステップを踏めば、調整の取れた地域的対応を促進できる可能性がある。

第1に、移民の遺体の管理と本人確認に関する常設の地域委員会を設ける必要がある。この委員会は、各国の制度を詳しく評価し、現地当局の研修や証言の収集、身元確認プロセスへの市民社会の参加など、改善の余地がある分野を判定できるだろう。

また、一部の国々では「視覚的識別要素」と呼ばれる二次的な本人確認方法(傷、刺青、ピアスなど)が法律的に有効とされていなかったり、DNAデータ、引き揚げられた移民の遺体に付けられたコード番号、埋葬された集合墓地の間の組織的な連携がなかったりする。これに対し、委員会は法律面、行政面の障害にも取り組めるだろう。

第2に、本人確認に役立つ生前と死後のデータ収集を目的とする集中型の地域的データベースを設ける必要がある。イタリアでは、検査官事務所や国家治安警察隊科学捜査部隊、科学捜査局とその地域支部など、調査を主導した機関にDNAや組織サンプルなどの一次的識別要素が保存されている。

このようなデータの分散により、余分な調整部署や官僚的手続きが生じ、深刻な人材不足と重なって、移民の身元確認への取り組みの進展を妨げている。データを効果的に集約するためには、遺体の管理と身元確認の手順を標準化する必要があるが、これは国際刑事警察機構の災害犠牲者身元確認など、この目的で策定済みの国際協約の履行を通して、簡単に達成できる。

第3に、各国は科学捜査官の活動に投資し、推進するための取り組みを強化する必要がある。大学はこれまで、2013年と2015年のランペドゥーサ島沖海難事故の調査でイタリア国家行方不明者委員会を援助するなど、身元確認の取り組みへの支援に欠かせない役割を果たしてきた。しかし、科学捜査チームは、海中における化石化や法歯学をはじめ、犠牲者の生物学的特徴(年齢、人種、食生活など)を構築できる重要分野の専門家を起用し、犠牲者の情報がない中、身元確認プロセスで重要な資産として活用するできていない

最後に、長期的なDNAサンプルの保存を可能にするFTAカード(DNAなどの核酸を採取、保存するなどの目的で使われる)や、水中の遺体回収プロセスで利用できる遠隔作業機、損傷が激しい遺体や切断された身体部分を取り扱えるデジタル検視技術など、身元確認を容易にするテクノロジーも推進すべきだ。

最も広く普及し、アクセスも可能なテクノロジーであるスマートフォンには、身元確認プロセスを改善できる最大のポテンシャルが備わっているといっても過言ではない。WhatsappやFacebookのグループを通じて恒常的に形成される移民コミュニティの仮想ネットワークのほか、現地の市民社会や移民コミュニティとの連携は、こうした困難な状況で身元確認を行うための最も効果的なアプローチとなりうる。

結局、移民の犠牲者に対し、十分な対応が行われていないことは明らかだ。上述の現実的な解決策は、欠かせない点であるが、援助を提供できる住民の心理社会的意識を根本的に変化させる必要もある。現在、我々は集団として、移民の名前や人間性、そしてその家族を忘れ去るプロセスに加担するだけでなく、地中海の「正しい」側に生まれたという思いがけない幸運を忘れてしまっている。さらなる取り組みは可能であり、また、義務でもあるのだ。

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本稿は当初、Modern Diplomacyに掲載されたものである。

このテーマについてさらに詳しくは、国連大学グローバリゼーション・文化・モビリティ研究所(UNU-GCM)により発行されたオッタビア・アンプエロ・ビリャグラン氏の政策報告書:地中海で死亡した移民の身元確認を参照。

本稿で表明された意見は著者のものであり、必ずしも国連大学の見解を反映しない。

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