国際保健医療を向上させる斬新奇抜なアイデア

国際保健医療の向上を目指して動き出した102件の独創的なアイデアの中には、世界を変える大躍進になるものが1つか2つ、あるいはもっとあるかもしれない。

例えば、舌をつけるだけで、死に至る病にかかっているかどうかがわかる試験紙を作ろうという誰かのアイデアかもしれない。あるいは、HIVを予防する携帯電話ゲームかもしれない。または、スラム街で暮らす人々の未処理の排泄物を市場価値のある製品に変えるアイデアかもしれない。

グランド・チャレンジズ・カナダのCEO、ピーター・シンガー博士は「非凡なアイデアとそれが実際に役に立つかどうかを試す機会がなければ、大躍進は起こりません」と述べた。

彼はIPSに次のように語った。「保健医療は世界的な課題ですが、慣例にとらわれないアイデアを追求しようという試みは世界的ではありません」

グランド・チャレンジズ・カナダは、資源の乏しい国々における保健医療問題の解決に向けて、想像力に富んだ新しい102件のアイデアに10万ドルの助成金を提供すると発表したばかりである。その中の59件は、世界でも低所得国あるいは中所得国に入る13ヵ国の研究者が発案したものだ。

シンガー博士は言う。「私は最近、タンザニアで、型破りながらとても素晴らしいアイデアを持っている若い研究者たちに出会いました。しかし、実現の可能性を追求するチャンスがあるとは誰も思っていませんでした」

グランド・チャレンジズ・カナダは資金を提供するだけでなく、しばしばメンターの役割も果たし、カナダ国内の研究者とパートナーシップを築く手助けもする。シンガー博士は「自らのアイデアに自信を持ってもらうだけで十分な場合もあります」と言う。

102件のアイデアは査読を通して選ばれるが、この時点ではアイデアはひらめきの域を出ていない。公的機関も民間組織も、そのような確証のない初期段階のアイデアに投資をしようとは思わない。

シンガー博士はこれを「先駆けギャップ」と呼び、「イノベーションのパイプライン」を設けることによって、いつの日か、それぞれの国の人々の保健医療を向上させることにつなげたいと考えている。

「これらの中で少なくともいくつかは、いずれ家庭用の保健医療製品になるでしょう」と彼は語った。

最初は具体的でなくても、これらのアイデアが役に立つことが証明されれば、提案者はグランド・チャレンジズ・カナダに最高100万ドルの展開資金を追加で申し込める。カナダ政府がグランド・チャレンジズ・カナダのスターズ・イン・グローバル・ヘルス・プログラムに約1090万ドルの支援を提供して、新興国における医療のあり方を変えうる一連のプロジェクトを支援している。

カナダのジョン・ベアード外相は次のように語った。「私たちは、世界中で志を共にするパートナーと力を合わせて、世界中の人々の未来をより良く、明るくするのに役立つグローバルなイノベーションと起業家精神を支援できることを喜ばしく思っています」

ウガンダでは、人間の排泄物はほとんどすべて河川や湖に流され、重大な健康問題を引き起こしている。人間の排泄物などをバイオガスに変えられれば、エネルギーとして収益を生み出すことができるのではないか?

カナダに拠点を置く国連大学水・環境・保健研究所のコリーヌ・シュスター・ウォレス氏はカナダの2企業と協力して、人間の排泄物と魚市場の廃棄物、その他、有機性の廃棄物を大型の地下タンクに集めている。そしてタンクからメタンを取り出して、経済的な新しい燃料源にしようとしている。

最近の調査によると、カンパラの都市部のスラムに暮らす40万人の人々のために衛生施設を整備すれば、バイオガスの販売で利益を上げることができる。

ここで、シュスター氏がプロジェクトについて語るビデオを紹介しよう。

他にウガンダでは、稀ではあるが死に至る病をもたらすエボラウイルスおよびマールブルグウイルスを調べる試験紙の開発が進められている。これらの病気は非常に感染性が高く、世界的に大きな脅威になる。マケレレ大学健康科学部のミサキ・ウェインゲラ博士は「それらは初期段階での発見が非常に困難なのです」と語った。(自らのプロジェクトについてウェインゲラ博士が語るビデオクリップはこちらからご覧ください)

「骨が折れるほど強い痛みを伴うことから『骨折熱』とも呼ばれるデング熱は、熱帯性気候下で暮らす1億人もの人々を苦しめている病気ですが、その検査にも、同様の試験紙の開発が進められています。早期の発見と治療が結果的には大きな違いをもたらします」とグランド・チャレンジ・カナダのプログラム・オフィサーであるケン・シミュ氏は述べた。

シミュ氏はIPSに次のように語った。「プラスチックでコーティングした金ナノ粒子の10セントの試験紙と、10ドルの携帯型の装置を組み合わせて用いると、デング熱を早期発見できます」

この試験紙を開発したのは、ブラジル出身でカナダのビクトリア大学に籍を置くアレキサンドレ・ブローロ博士で、彼は自国でそのテストを行うつもりだ。(自らのイノベーションについてブローロ博士が語るビデオクリップはこちらからご覧ください)

世界の保健医療を向上させるための提案の中には、高度な科学技術を必要としないものもある。そのようなアプローチの1つが携帯電話ゲームの「シュガーダディ」(甘い言葉や贈り物で若い女性を誘う中年男を意味する)だ。シミュ氏は次のように説明した。「このロールプレイングゲームの目的は、若い女性にHIVの危険性をもっとよく知ってもらうこと、また『シュガーダディ』のよからぬ誘いを察知できるようにすることです」

ケニヤッタ・ナショナル病院のジャンビ・ジュグナ博士が推進するこのプログラムは、HIVに関連するテキストメッセージを携帯電話で若い女性に送るというものだ。彼女たちの多くは、自分たちがリスクにさらされていることを認識しておらず、したがって検査を受けていない。ケニアでは、HIV感染者の84%は自分が感染していることに気づいておらず、33%が自らのリスクを認識していないので検査を受けていない。(自らの大胆なアイデアについてジュグナ博士が語るビデオクリップはこちらからご覧ください)

携帯電話を活用すれば、遠く離れた地域から公衆衛生に関するデータをリアルタイムで送ることもできる。これはたとえば、ネパールのカトマンズからは北西方向にある、山間のアチャム郡からでも可能だ。ハーバード大学の研究者で医師資格と学術博士号の両方を持っているダンカン・マル博士と地方医師のチームは、遠く離れた地方コミュニティの保健医療従事者が、携帯電話を使って病気および地域の公衆衛生ケアの提供能力について、データをアップロードし、公開する手助けをしようと計画している(この初のリアルタイム調査システムに関してマル博士が語るビデオクリップはこちらからご覧ください)

シンガー博士は「予防と効果的な公衆衛生プログラムの計画のいずれにとっても、このようなリアルタイムのデータを得ることは非常に重要です」と述べた。

シンガー博士は次のように語った。「飲料会社は、今日一日で製品が何本売れたかを正確に把握しています。しかし、世界のほとんどの地域において、私たちは今日一日で何人の子どもたちが死んだかを把握していません。測定しなければ、行動はできないのです」

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翻訳:ユニカルインターナショナル

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著者

スティーブン・リーヒー氏は、カナダ人のフリーランスジャーナリストとして、インタープレス・サービス(IPS)通信社での記者として寄稿した5年間を含め、通算12年にわたり活動してきた。リーヒー氏は、科学、環境、農業分野を専門としていて、数カ国で主要な雑誌・新聞で執筆している。カナダのトロント均衡のブルックリンに拠点を置き、Society of Environmental Journalistsのプロフェッショナルメンバーでもある。