モンサント社の綿花事業における失態

靴下の指から首周りの縫い目に至るまで、アメリカだけで、世界の綿の25%が主に衣服や家財道具に消費されている。綿花の種を世界で最も多く供給している会社が (いくつかの綿生産国で綿花市場シェアの8割~9割を占有) 、主に食料関連の会社だと知って驚く人は多い。朝パンツをはく時に、モンサント社(以下、モンサント)のことを考える人はほとんどいないだろう。

1996年に紹介されて以来、モンサントの遺伝子組み換え(GE)綿は、まるで夢のような話に思われた。それは遺伝子に組み込まれた殺虫成分によって、害虫であるオオタバコガの幼虫から自らを守り、農家は殺虫剤の費用を削減することができ、強力な化学物質を何トンも散布する必要もなく環境にやさしいという宣伝文句だった。それまで危険な殺虫剤を使用し、除草のため土を耕していた農民たちは、土壌の侵食や肥料の流出を減らす化学除草剤「ラウンドアップ」による不耕起栽培に移行した。

しかし、モンサントのGE綿を初めて収穫した後、怒ったアメリカの農民たちがモンサントは自社製品の効果を誤って伝えているとして次々と裁判を起こした。彼らによるとGE綿は150万エーカー(約6000平方キロメートル)以上の土地でオオタバコガの害虫を抑えることはできなかった。さらに綿花(綿の繊維を含む白いふわふわの部分。それなしでは収穫とはいえない)が地面に落ちてしまうという苦情が、ルイジアナ、テネシー、アーカンソー、ミシシッピの各州から次々に寄せられた。

非遺伝子組み換えのアプローチ

しかしモンサントはひるまなかった。彼らはGE種の開発を続け、質は徐々に改良されていった。しかし、厄介な雑草も進化していった。2009年には、合衆国の南半分の農場ではモンサントの「ラウンドアップ」は特に拡散力の強いアカザ(パルマー・アマランス)への耐性がそれまでで最低となっていた。成長すると2メートル以上にもなるアカザはその陰で成長しようとする植物をあっという間にダメにしてしまう。その結果、害虫や雑草の発生を抑えるための散布剤がますます必要となった。農民たちは数十年ぶりに手作業で雑草を抜くこととなって人手を雇わざるを得ず、費用はますますかさんだ。そして殺虫剤の問題が起こったのである。

世界のどこでも、綿はほかのどの作物より多くの化学物質を浴びている。綿花農場は世界中の農地の2.5%に過ぎないにもかかわらず、綿栽培には世界の殺虫剤使用量の16%が使われていることが、環境司法財団が農薬行動ネットワークと協同で行った研究によってわかった。

世界のどこでも、綿はほかのどの作物より多くの化学物質を浴びている。綿花農場は世界中の農地の2.5%に過ぎないにもかかわらず、綿栽培には世界の殺虫剤使用量の16%が使われていることが、環境司法財団が農薬行動ネットワークと協同で行った研究によってわかった。これらの殺虫剤は、そもそも生物にとって有害なものだが、世界各地の河川、湖、飲料水、降雨に、その成分が検出されている。

世界の綿花農家の99%は農村地帯に住む小規模の土地所有者で、防護服が手に入らず、識字率も低いため安全についての注意書きを読むこともできない。このため綿花の殺虫剤使用を直接の原因とした死者数は毎年少なくとも2万人、入院者数は100万人にのぼる。不幸にも、このような影響をうけるほとんどが子供たちである。

インドの悲劇

殺虫剤使用や、強力な害虫に関するこういったニュースは痛ましい限りだが、インドにGE綿が導入されてしばらく後、モンサントは間違った広告がどのような現状をもたらすかを痛感することとなった。

インドの話は、いくつかの点で特殊である。まず、インド北部は綿花栽培に最適とはいえない。この国の綿花農場の面積は世界最大だが、綿の収穫量は中国、アメリカについで3番目だ。収穫高が少ないのは害虫と干ばつによるものだ。また、インドには、中国やアメリカより個人の綿花農家が多い。彼らのほとんどはわずかな土地しか持たないため、懸命に働いても国の最低賃金すら手に入らない。

モンサントは2002年に魅力的な広告でインドに進出した。彼らの遺伝子操作された種子を使えば綿の収穫高が、当時生産者たちが必死で収穫していた1エーカー当たり4キンタル(1ベール以下=約180キログラム)から、5倍の20キンタル(4.5ベール=約900キログラム)にまで増えるとうたっていた。当時、彼らは自分たちの種は値段は高いが、その分の利益はあると主張していたのだ。

2002年以降、インドの農民たちは、モンサントの罠にはまり、平均で30分に1人の割合で自殺している。そしてその多くは化学除草剤「ラウンドアップ」を飲んで命を終えているのである。

ところが、残念ながらモンサントのGE綿は宣伝されていた1エーカーあたり20キンタルには全く及ばなかった。実際は、平均収穫高は1エーカー当たり1.2キンタル(約63キログラム)にしかならなかったのだ。収穫が終わるまでに4キンタルを超えたところはインドのどこにもみあたらなかった。落胆に追いうちをかけるように、まもなくモンサントのGE綿から生産された繊維は質も低いということがわかった。通常なら1キンタルにつき86ドルだったものが、1キンタルにつき36ドルでしか売れなくなってしまったのだ。インドの数千、数万もの農家がこのような事態に陥った。多くは借金がますますかさみ、毎年毎年異なる種類の綿を植え、それでもいつかは十分な収穫が得られ、この悪循環から抜け出せるものと一縷の希望にすがることとなった。悲しいことに多くの農民は現実を抜け出す別の道を選んだ。2002年以降、インドの農民たちは、モンサントの罠にはまり、平均で30分に1人の割合で自殺している。そしてその多くは「ラウンドアップ」を飲んで命を終えているのである。

こうしたインドの状況には胸が塞がるが、とはいえ、モンサントが農民たちを殺そうという意図を持ってこの国に進出してきたわけではあるまい。農民がいなければ彼らのビジネスは成り立たない。意図的に顧客の死を企てるなど愚かなことだ。良かれと生産した商品が、うまく効果を出さなかったのである。

選択権の行使

消費者としては、このような状況に甘んじる必要はない。オーガニックコットン産業は年間60%の割合で急成長している。高価なブティックなどで陳列されているが、オーガニックコットンはもはや贅沢品などではない。2006年にはウォルマートがオーガニックコットンの世界最大の購入者となった。パタゴニアTimberlandなどといった会社も環境的に責任ある製品を提供しようと長年努力している。消費者はアマゾンなど人気のショッピングサイトで「オーガニックコットン」と検索さえすれば、どんな予算にも見合う、文字通り数千通りの選択肢がある。

今度新たに服を買うときは、その点を考えてみて欲しい。可能ならば、オーガニック製品を! この惑星にとっても、今日の人類にとっても、何世代も後の世代にもその方がよいのだから。

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モンサント社の綿花事業における失態 by エープリル・ダヴィラ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

エープリル・ダヴィラ氏は、ロサンジェルス在住のフリーのライター。彼女の活動については、http://www.AprilDavila.comで詳しく知ることができる。