もっと少なく:意識的なライフスタイルの必要性

ジュリエット・ショア氏はボストン・カレッジの社会学教授である。ボストン・カレッジで教べんをとる前は、ハーバード大学の経済学部とCommittee on Degrees in Women’s Studies(女性学研究所)で17年間、教えた。彼女はウェズリアン大学を卒業し、マサチューセッツ大学で経済学の博士号を取得した。

ショア氏はアメリカ人と仕事の関係に関して幅広く執筆しており、『働きすぎのアメリカ人―予期せぬ余暇の減少』はベストセラーとなった。最新作は『True Wealth: How and Why Millions of Americans are creating a time-rich, ecologically-light, small-scale, high-satisfaction economy(真の豊かさ:何百万人ものアメリカ人が、時間的に豊かで、生態学的負荷が軽く、小規模で、満足度の高い経済を創造している方法と理由)』(『プレニテュード――新しい〈豊かさ〉の経済学』として過去に出版された)である。この本は生態学的衰退の経済学と社会学を扱っており、消費財や価値や生活様式に関する考え方を劇的に変えることを提案している。ショア氏は現在、環境の持続可能性に関する問題や、アメリカ人のライフスタイルや経済、および意識的消費を促す運動の誕生と環境の持続可能性との関係について執筆している。彼女は持続可能性を促進する全国組織、Center for a New American Dream(センター・フォー・ア・ニュー・アメリカン・ドリーム)の共同創立者であり理事でもある。

報道によると、景気停滞にもかかわらず、クリスマスに向かう感謝祭の週末にかけて、記録的な購買レベルが見られたそうです。消費主義への批判を唱える立場から、このニュースについてどう思われますか?

こうした出来事にどれほどの意味があるのか、私には分かりません。買い物のパターンが変わったのです。2011年の同時期にはかなりの購買行動がありましたが、全体を見ると、支出額は同じです。経済が順調になり、雇用が上向き、借金が減れば、消費者は支出を増やすでしょう。それは予測できます。

不景気は支出の問題というより負債の問題でした。つまり「ああ、お金を使うのは悪いことだわ」という問題ではなかったのです。環境保護活動家はよくこの観点から物を考えるのですが、それはあまり有益な観点ではありません。休暇シーズンに関して言えば、買い物以外にも考慮すべき点があります。それは移動や食事に関わる点です。

家庭のフットプリントの一部としての商品やサービスの購入は、食料や移動ほど重要ではありません。私たちは買い物や商品購入に注目しがちです。なぜなら人々はそういった行動で過剰になり、買い物に対して道徳的批判精神を持つからです。しかし私たちの生活の中で買い物以外の非常に重要な部分は、往々にして目に見えないものです。

今回の景気後退から学ぶべき正しい教訓とは何でしょうか? 今後、どこに向かうべきでしょうか?

私たちは経済の全体的な成長率に注目するのをやめて、経済資源を何に使うのかという点に目を向け始めるべきです。成長や個人消費についてマクロ経済の視点から見境なく議論するのではなく、投資と、何に投資するのかについて注目する必要があります。クリーンなエネルギーシステムへの転換と化石燃料からの脱却を図るべきです。公衆衛生や生態学的負荷や世界の公平性といった問題において非常に重要なことです。その点が最も重要な教訓です。

エネルギーシステムの転換には、多くの公共投資と、さまざまな実行計画が関連します。高速道路から公共交通機関への転換など、さまざまな転換が必要です。例えば投資と消費のバランス、人的資源や人間、教育、福祉への投資が関連します。こうした転換によって福祉は大きく向上しますし、将来の生産性や福祉にとって、特に経済の進化を考えた場合、こうした転換が非常に重要です。私たちは複雑な世界に生きています。生態学的知識を広げる必要がありますね。

その際に環境が担う役割とは何でしょうか?

私たちの経済は自然を無料の物品として扱う経済です。私たちは自然を希少財として扱い、持続可能な方法で利用するパラダイムへの転換を図る必要があります。そのためには、農業や製造の方法を再公式化しなければなりませんし、生態学的なノウハウを深く知らなければなりません。現時点で私たちはノウハウをほとんど持っていません。そして私たちの経済システムは、それを学ぼうとするインセンティブを人々に与えないのです。

政府の動きの中で将来を楽観視させるものはありますか?

オバマ大統領がついに気候変動について語っているので、喜ばしく思っています。今こそ私たちは言葉を行動に移すべきです。

アメリカ人は便利さを犠牲にしたがらないと思いますがどうでしょう?利便性の放棄は難しくありませんか?

犠牲の問題ではありません。私が著書を『プレニテュード』(十分にあること)と命名したのも、私たちは最も大事な物事において豊かになれるし、それは犠牲などではないという点を明らかにしたかったからです。私は、地球を劣化させるものは人間の幸せをも劣化させると考えます。ですから、生態学的観点から見て持続不可能な旧態依然の経済は、人間にとっても持続不可能なのです。システムを変えれば、地球を修復でき、人間もより幸せになれます。

私は犠牲という考え方や、仕事や物資や環境を相殺できるという考え方にも反対です。それは正しくありません。非常に狭い意味においては正しいでしょう。つまり、あなた自身が変化を起こすことを許さない場合や、非常に機能不全的で独占的で不公平なシステム、例えば現在のシステムのようなものから脱却できない場合です。気候問題を解決するには私たち全員が犠牲を払わなくてはならないという発想は、結局のところ、道徳的批評なのです。

さまざまな経済団体は、こうした課題を等しく共有しているでしょうか?

化石燃料を使って地球を焼き尽くすことで巨大な利益を得る人々は、ほんの一部です。彼らはグローバルエリートです。とんでもなく大きなフットプリントを伴う配分の頂点にいる人々です。しかしほとんどの人々にとってフットプリントを減らすためにできることは、破壊的で不健康で産業化された経済から、有機的で地域的で健康な経済への変革を伴います。それによって人々の暮らしの質は向上するでしょう。

2050年の私たちを想定してください。あらゆる正しい変化がすでに実現しているとします。それはどんな変化でしょうか? その結果とはどのようなものでしょうか?

私の思い描く2050年の世界では、人々は定職に就き、公式経済で平均16~20時間働き、一定の給与を得ています。彼らはさまざまな方法で需要を満たします。例えばハイテクで生態学的な知識に沿った方法(少ない労働力で高い生産性を得る技術)で食料を栽培・生育するなど、ある程度の自給的な活動をしています。人々は小規模生産の物品を作るためにプログラム可能な3Dプリンターを持っています。家庭が小さな工場なのです。人々はさまざまなピアプロダクション活動(peer-production activities)に携わっています。それは、例えばウィキペディアのように、ウェブ上の情報ソフトウェアや文化の世界ですでに実現されている共同作業です。利益を目的としたものではなく、協同的で、高品質で、それぞれの経済モデルに応じた作業です。

多くの活動や文化で実現可能な、協力者の間での交換活動もあるでしょう。私は宿泊場所や滞在場所のピアプロダクションを考えています。Couchsurfing(カウチサーフィン)やAirBnB(エア・ビー・アンド・ビー)のように、協力者が自宅を無料か低料金で人に提供するというものです。交通手段や食料のピアプロダクションはすでに実現しています。

私の想定する未来では、人々は物の生産に関わる時間をもっと持てるようになっています。つまり、労働時間が20時間しかなければ、洋服を作ったりオーブン料理を作ったり、近所の人とサービスを交換したりすることが可能です。それは共有の経済であり、人間同士の共同作業の経済です。この経済は、負荷の重いライフスタイルや長い労働時間から人々を解放します。なぜなら、こうした活動のほとんどは地域的で創造的だからです。そもそも、人は時間の過ごし方の選択肢が広いことを好みます。家庭での生産という新しい経済学です。

あなたは「働きすぎの」アメリカ人と環境の関係について執筆されています。そのことについてお話しください。

私の最新作においても、私の研究全般にとっても、それは大きなテーマです。20年前、私は長い労働時間について本を書きました。経済と文化という文脈の中で、過剰な労働時間がコミュニティと家庭生活に及ぼす影響を批評したのです。最近では、炭素と気候と労働時間を関連付ける考察をしています。労働時間が短い国は炭素排出量が少なく、エコロジカル・フットプリントが低いのです。この点は今後、非常に重要になってくるでしょう。では、私たちは景気停滞から何を学んだでしょうか?

1つの大きな教訓は、私たちは労働をもっと公平に配分すべきだということです。もし私たちが現行の長い労働時間の文化に固執するなら、国内の労働者全員を雇用するだけの十分な仕事を創造するのは難しいでしょう。労働時間を短くする必要がありますが、みんなで公平に労働を共有できるなら、それは悪いことではありません。

私のアイデアは、フルタイムの労働者を短い労働スケジュールに転換させるという方法です。炭素排出量を低減するためには、これがとても重要になってくるでしょう。私の統計調査が示しています。つまり労働時間の短縮は、炭素排出の削減への道のりにおいて鍵となる要素なのです。

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この記事はSolutionsに掲載されたものです。

翻訳:髙﨑文子

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著者

クリスティーナ・アスキス氏は受賞歴のあるジャーナリストで、『ニューヨーク・タイムズ』、『エコノミスト』、『クリスチャンサイエンス・モニター』、『ガーディアン』に寄稿している。また過去には『フィラデルフィア・インクワイアラー』の専属記者だった。著書の『Sisters in War: Love, Survival and Family in the New Iraq(戦時下の姉妹たち:新しいイラクにおける愛、生存、家族)』は、イラクのバグダッドに暮らしながら報道に携わった18カ月の体験に基づいている。