木を植えるより 大切なこと

国連は2011年を国際森林年とした。その根拠は極めて明確だ。国連のポータルサイトトップページのスライド写真が示すとおり、森林は世界の陸地の31%を占めており、そのうち36%は生物的に豊かな原生林(老成林とも呼ばれる)である。

生態学的に、森林の重要さはよく知られている。陸地の生物種の80%は森林に住んでいる。さらに2009年には二酸化炭素排出量の最大18%を熱帯林が吸収してくれていることがわかり、森林保護の重要性はますます高まっている。1つの森が破壊されれば、その地域だけではなく世界的にも影響が出る。

国際森林年キャンペーンの目的は「持続可能な管理と保全や、あらゆる森林の持続可能な開発への意識を高めること」である。

そして、このキャンペーンを支える国連やその他の組織にとっての課題は、見栄えのよいウェブサイトを作ったり衝撃の統計結果を持ち出したりすることではなく、人々と森林保護を意義ある直接的な方法で結びつけることだ。国連は、森林の「持続可能な管理、保全、開発」について啓蒙することができる立場にいる。

REDDプラス

国連によると、16億人が森林に依存して生活している。そのうち3億人が実際に森の中に住んでいる。また森林は重要な収入源でもある。2004年に(国連のサイトによると最も信頼できる最新の数字では)、森林関連商品の貿易額は3270億ドルにも上ると計算されている。世界銀行によると、この数字は全世界の193ヵ国中、上位27ヵ国以外のどの国のGDPより大きい。

2011年には、森林減少・劣化による温室効果ガス排出削減(REDD)のプログラムの進展に国際的な注目が集まるだろう。Our World 2.0で以前紹介したREDDメカニズム(最近は「REDDプラス」と呼ばれる)を覚えている方もいるだろう。REDDプラスでは森林所有者が伐採を行わなければ対価を支払うという運動も行っている。国連は去年12月カンクンでのCOP16会議で合意に達したREDDプラスを前向きに推進しようと努力している。

「REDDプラス合意は、世界的に気候変動に対応する努力が進められる中、森林が果たす極めて重要な役割を認識したものです」とニュージーランド元首相、現在の国際連合開発計画(UNDP)総裁ヘレン・クラーク氏は話す。

しかし、このREDDプラスには腐敗や不正がはびこりやすいのでは、という大きな懸念もぬぐえない。特に金融業界や公害原因となるエネルギー産業の、いわゆる「carbon cowboys(カーボンカウボーイ)」たちによるものだ。

森と私たち

世界の16億人(その中にREDDプラスプログラムに参加する人々もいる)は直接的に森林に生計を依存している。残りの54億人にとっても、世界の森林を破壊しないよう守ることは重大な関心事だ。

家やオフィスを見回せば、建物や家具、そして書籍類、トイレットペーパーや割り箸など、森林で生産されたものがあふれている。

それなのに私たちは、実際に森の中で暮らしているのでない限り、ライフスタイルと森林のつながりを見失いがちだ。国連森林フォーラム(UNFF)事務局長ジャン・マックアルパイン氏の説明によると、これまで、国際的森林擁護活動は、人と森林のつながりについてではなく、森林破壊の防止と植樹に重点を置いてきた。意識改革キャンペーンはまさにこの点を変えようとしている。
「私たちはより広い視野に立ち、人と森林は深く関わっているのだということを伝えていきたいと思います」

「森林減少は、ある程度は自然のサイクルの一部ですが、バランスが取れた状態であることが大切です。その観点から、森林を利用すると同時に徹底して保護する「持続可能な森林管理」の概念が生まれたのです。国際森林年はその点を強調します。もちろん森林の生物多様性の価値も十分認識しています」

この動きの一部として、人々の理解を深めるための実用的情報提供が行われている。森林会議評議会(FSC)とは、1993年に創設された、森林から切り出された木材の流通や加工のプロセスを認証する国際機関。FSCラベルのついた商品は「適切に管理された森林に由来する製品であることが保証された」商品である。新しく家具を買うにあたって迷っている人々は、このイニシアティブを参考すべき情報源として利用するとよいだろう。そのほかに、レインフォレスト・アライアンスはコーヒーやカカオなど森林で生産される商品の認証を行っている。

肉のために森が犠牲に

人類は森から材木の他にも、きのこ、ナッツ、ハーブ、繊維、樹脂などの非材木品を得ており、森林と人類は絶妙なバランスの上に成り立っていることが分かっている。Our World 2.0で以前も紹介したが、森林は驚くべき食料の宝庫なのだ。

74%もの森林破壊は農業が原因で起こっており、そのうち32%が商業的農業、42%が小規模農業によるものだ。

ただし、森林の30%程度しか、木材や非木材の生産に利用されていないことはあまり知られていないのではないだろうか。2007年国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の報告によると、木材製品による森林破壊は、世界中で進む森林破壊のうちわずか14%に過ぎない。

では国際的な森林破壊の原因は何なのか?

「焼き畑農業」と呼ばれる農法が、最大の原因であることが多くの一致した意見だ。UNFCCCの報告が示すように、74%もの森林破壊は農業が原因で起こっており、そのうち32%が商業的農業、42%が小規模農業によるものだ。

今日、人口成長、富の増加、食システムのグローバル化、「肉食への嗜好の変化」などの要因がからみ合い、農業用土地の拡大につながっている。かつては家畜を養うには、環境への負担が少ない放牧が行われていたが、現在はトウモロコシや大豆などがエサとして与えてられており、その単一栽培も森林破壊に拍車をかけている。ハンバーガーを1つ食べるごとに、アマゾンの森を食べているということを意味すると言えるかもしれない。

ただ、現在はオンラインで簡単に情報が得られるので(例えばこのアメリカのサイト)何を買い、何を食べるべきか意識的な選択ができ、罪の意識なく肉を食べる(もちろん、ほどほどに)こともできる。

人々のために森林を称える

2010年の生物多様性年が終わりに近づくにつれ、10月に行われた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)後には特に議論もないまま時が過ぎるのではないかという懸念があった。その懸念は現在もある。生物多様性の危機は、次の問題に移るまでのほんの1年の間に対処できる問題ではないため、COP10参加者は国連総会に対し、2011-2020年を「生物多様性の10年」と認めるよう要求した。国連総会はそれを承認。生物多様性の問題が今後も国際政治の議題に残ることが望まれる。

国際森林年キャンペーンでは、国際生物多様性年の場合と違い、森林とその地球にとっての重要性について人々に理解してもらうことは比較的た易い。このキャンペーンでUNFFが使うキャッチフレーズは「Celebrating Forests for People(人々のために森林を称える)」だ。

マックアルパイン氏は次のように述べる。

「一貫して使用し、広めたい言葉は『称える』です。森林を称えるのです。否定的なことをつい話しがちですが、そうではなく森林の素晴らしさを共に称えましょう。森は驚きに満ち、息をのむほど美しく、荘厳です。これまでと違う形でこのことを伝えていかなければなりません……それに、それは語る価値のある話なのです」

2011年、国連はそういった「語る価値のある話」として、特に森林に住んでいない人々に、賢明な食料の選び方に関する情報をお伝えしたい。世界の森林を救うには、木を植えるだけでは決して十分ではないのだ。

翻訳:石原明子

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著者

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。