電気自動車で会社の電気を供給する日産の新システム

化石燃料からの転換を図る上で最も難しい課題の一つは、変動する再生可能エネルギー源(太陽光や風力など)の割合が大きいエネルギーシステムを安定的に機能させるために、電力の消費と生産を均衡させる経済的な方法を見いださなければならないことだ。
デンマーク工科大学(DTU )による最近の報告によると、電力生産が消費を上回る時間帯に余剰電力を貯蔵できるシステムは、より多くの再生可能エネルギーのシステムを配電網につなげる上で重要な役割を担う。

報告書は、配電網の負荷を分散させるのに役立つ様々な選択肢の中で、特にバーチャル・パワー・プラント(VPP)について言及している。VPPとは、「パワーエレクトロニクス、IT、通信システムを通じて単一ユニットとして機能すること」が可能な、小型の発電機や電力貯蔵システムの集合体である。
「電気自動車(EV)とプラグイン・ハイブリッド電気自動車(PHEV)は、配電網との相互作用の点で柔軟性が高いため、未来の電力システムに大変革を起こす可能性がある」と報告書は記している。
そして、その未来がすでに始まっている。日産は先週、新しい「Vehicle to Building」システムの初期実証実験で優れた結果を得たことを発表した。このシステムは、企業の従業員が通勤に使う日産リーフのバッテリーから電力を供給することで、企業の電気代を抑えることが可能になる仕組みだ。
厚木市にある日産先進技術開発センターで7月から運用されているこのシステムは、最大6台の日産リーフを商用施設の配電盤につなげることが可能だ。エネルギーの総需要量が最も高く、電気料金が最も高額となるピークの時間帯には、施設はリーフから電力を供給する。一方、エネルギー需要が低く、電気代が安くなる時間帯には、施設からリーフへ充電する。このシステムによって、退社時間までに確実に自動車をフル充電でき、従業員は車で帰宅できるのだ。
実証実験の期間内に、日産先進技術開発センターは「電力ピークの時間帯の電力使用量を2.5%削減し、1年当たりの電力コストを50万円近く(約4900USドル)節約できる(東京電力の現在の電気料金に基づく試算)」というかなり素晴らしい結果を達成した。
日産は今後も「Vehicle to Building」システムの実験と改良を進める予定だ。このシステムは、昨年日本で始まった「LEAF to Home」電力供給システムをさらに発展させたものである。この家庭向けの電力供給ユニット(ニチコン株式会社が開発)は、充電と給電ができるスーツケース程度の大きさの装置で、リーフをわずか4時間でフル充電できるだけではなく、リーフの大容量バッテリーから家庭の分電盤に電気を供給することができる。リーフに搭載されたリチウムイオン電池は満充電状態で24キロワット時(kWh)を貯蔵できる。日産によると、平均的な日本の家庭に丸2日間、電気を供給するのに十分な量だ。

こうした家庭向けの電力供給ユニットによって、電力需要の低い夜間に生産された電気や、ソーラーパネルから得た電気で、リーフを充電できる。さらに、需要の最も高い日中にはリーフから家庭に電気を供給することによって、エネルギー費を抑えることが可能だ。また、こうした電力供給ユニットは、停電や電力不足時のバックアップ電源としても利用可能である。

こうした優れた革新は間違いなく未来の姿の現れである。DTUの報告書は次のように記している。
「適切に組織化されれば、EVの一団は秒単位から時間単位までのタイムスケールで、巨大かつ非常に柔軟性の高い電力貯蔵装置になり得る。例えば、将来的に100万台のEVがそれぞれ10キロワットで配電網につながれば、EVの一団とデンマークの配電網の間を10ギガワットの電力が行ったり来たりすることになる。10ギガワットという数字は、人口およそ550万人のデンマークのピーク時の電力需要が約6.5ギガワットであることと比較してみると分かりやすい」

翻訳:髙﨑文子

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電気自動車で会社の電気を供給する日産の新システム by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.
Based on a work at http://dailyfusion.net/2013/12/nissan-leaf-battery-to-power-office-buildings-25378/.

著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。