ハイチに関する新安保理制裁が現代の奴隷制との戦いを後押し

10月23日(金)、国連安全保障理事会を構成する常任理事国、非常任理事国の15カ国は、ハイチに関する制裁措置を定めた決議第2653号(2022年)を全会一致で承認した。これは大きな進展である。安保理が前回、制裁体制を敷いてから5年以上経っているだけでなく、同決議が組織犯罪やその資金源に焦点を合わせたことで、人身売買や現代の奴隷制との戦いにおける重要な転換点となり得るためだ。

数カ月前まで、このような進展は想像もできなかった。実際、「奴隷制と人身売買に対抗する金融(FAST)」イニシアチブの調査では、制裁に関する多くの専門家にインタビューしたものの、現代の奴隷制や人身売買をターゲットにした制裁措置を拡大する意欲が国連にあることを示すエビデンスは見られなかった。リビアに対して敷かれた安保理の前回の制裁では、密輸や人身売買に関与したことが分かっている個人6名を制裁対象として指定したが、これは異例のことと見なされていた。

組織的犯罪者らの追求

一方で、インタビューを受けた専門家の中には、組織犯罪や人権について、EU、米国や他の国々が自主的に実施した制裁の例が増えており、安保理においても同様の取り組みが促されるかもしれないと指摘した者も少数ながら存在した。今となっては、これら少数派の意見が正しかったように思われる。

米国とメキシコが起草し、他の理事国に提示された決議第2653号の決議文では、人身売買や現代奴隷制に直接的に関係する指定基準を定めている。同決議では下記の行為について、ハイチの平和や安全、安定を脅かす制裁対象行為であると明確に述べている。

人身売買や現代奴隷制に関係する制裁の実施において、安保理内の個々の国々が果たす役割の重要性には特筆すべきものがある。リビアに対する制裁体制では、安保理の非常任理事国であるオランダが果たした役割が特に重要であった。オランダの提案により、6名の人身売買業者が制裁対象として指定されたのである。ヨーロッパにおけるEU グローバル人権制裁制度の実施においても、オランダは指導的役割を果たしている。

現時点では、ハイチ制裁体制で制裁対象に指定された個人は多くない。実のところ、これまでに指定されたのはハイチのギャング同盟、「G9ファミリー・アンド・アライズ」のリーダー、ジミー・シェリジエ(通称、バーベキュー)だけである。決議第2653号の付属文書の記述によれば、シェリジエはハイチの平和や安全、安定を脅かす行為に従事し、深刻な人権侵害となる行為を計画、指示し、あるいは、それをはたらいたとされる。これらの行為は直接的にハイチの経済を停滞させ、人道上の危機を招くものであった。結果として、彼が直接的、間接的に保有するか管理する資金源については、とりあえず1年間、凍結されることとなった。

組織的犯罪者らに適用し得る指定基準が定められたことで、人身売買や密輸、弱者の搾取に関与する他の個人についても、制裁対象にできるようになった。これらの行為に従事する団体も、追求できる。

現在のところ、ハイチは世界中で最も脆弱な国家の一つであり、司法制度が有効に機能していない。そのような国において、対象を指定した制裁は、人身売買や現代奴隷制に関与する犯罪者や団体に対処し、崩壊させる最も有望な手段の一つであるだろう。

金融セクターの能力強化

多くの制裁について言えることだが、制裁措置の有効性は、究極的には国際金融界が適切に制裁を実施できるかに大きく左右される。経験から分かるのは、制裁体制によって特定された個人の資金について、特定、報告するとともに、制裁回避を見破れるよう、金融セクターがその能力を向上させる必要があるということだ。

しかしながら、FASTの調査で確認されたように、この点において金融セクターの能力が向上されるということは、金融機関がリスクを管理するよりむしろ、ハイチでの取引関係を一切、停止してしまうことを意味するかもしれない。そうなると、ハイチの脆弱性や同国における搾取はさらに深刻化するだけであり、その結果、人身売買や現代奴隷制、これらに関連する金融犯罪の可能性が高まることになる。

FASTブループリントでは、官民パートナーシップを通じて関連データを共有し、人身売買業者などの犯罪者に対する制裁の実施を支援することを推奨している。金融機関が過剰に反応しないよう確保することができ、より賢明なアプローチであろう。

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この記事は国連大学政策研究センター(UNU-CPR)ウェブサイトから転載されたものです。

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