ナイジェリアの原油流出問題

キャッサバの農園を延々と歩き、ついに私たちはナイジェリアの村Otuegweの近くにある原油流出現場の端に到着した。そこには沼地が広がっていた。私たちはカメラとノートを頭上にかかげ熱帯のぬるい水の中を進んでいった。沼が見えるはるか前から原油の臭いがしていた。給油所の悪臭と腐った植物のにおいが重く混ざり漂っていたのだ。

奥に行けば行くほど、吐き気が増してくる。まもなく私たちは軽質のナイジェリア原油の中を泳いでいた。この原油は世界で最高品質と言われるものだ。ニジェールデルタ地帯を縦横に走る数百本ものパイプラインは作られてから40年も経つものだが、そのうち1本が腐食し数ヶ月に渡って原油を垂れ流していたのである。

今では森も農園もすべてが虹色の油で覆われている。井戸は汚染され住民は途方に暮れるばかりだ。どのくらいの量が漏れ出したのかもわからない。

「網も小屋も魚籠も失った」とOtuegwe村長でありガイドでもあるPromise 氏が言う。「ここで私たちは漁業と農業を行っていたんだ。大事な森を失ってしまった。原油の漏れが起こって数日の内にシェル社に報告したが、何ヶ月もほったらかしだった」

原油はほかにもデルタ地帯のパイプ末端部、パイプ、給油所、原油プラットフォームなどのネットワークのあちこちから毎年流失しており、その総量は先月のメキシコ湾の原油流出事故より多い。

以上はニジェールデルタでの数年前の様子だ。ナイジェリアの学者、作家、環境団体によると石油会社は罰せられることもなく傲慢に振舞い、地域のほとんどが原油の漏れによって壊滅的な打撃を受けた。

実は、原油はほかにもデルタ地帯のパイプ末端部、パイプ、給油所、原油プラットフォームなどのネットワークのあちこちから毎年流失しており、その総量は先月メキシコ湾でBP社の原油掘削施設ディープウォーターホライズンの爆発によって原油が流失し、環境的大災害をもたらした量よりもまだ多いのである。

この大惨事では掘削作業を行っていた11人の労働者が命を落とし、世界中でトップニュースとして報じられた。それとは対照的にニジェールデルタ地帯が受けた損害についての情報はほとんど報じられなかった。しかしながら、ニジェールデルタの惨状は原油掘削のために私たちが支払わなければならない代償がどれほどのものなのかを目の当たりにさせてくれる。

繰り返す原油の漏れと流出

今年の5月1日、アクワ・イボム州でエクソンモバイルのパイプラインが破裂し、デルタ地帯に100万ガロン以上の原油を7日以上も流出させた。地元住民が会社に対し抗議活動を行ったところ、警備員たちから攻撃を受けたという。自治体の指導者らはこの事故による病気や失われた人命に対し10億ドルの損害賠償を要求している。しかしその要求が通ると考える人は少ない。そうしている間も、濃いタールの塊は海岸に流れ着く。

アクワ・イボム州Ibeno市での流出事故から数日後、シェルのトランスニジェールパイプラインが反政府集団の攻撃を受け、数千バレルもの原油が漏れ出した。その数日後バイエルサ州のAdibawa 湖とオゴニランドに巨大な油膜が浮いているのが発見された。

「私たちは錆びたパイプからの絶え間ない原油流出に直面しています。古いパイプは40年前のものなのです」 バイエルサ州議員Bonny Otavie氏は言う。

606の油田を持つニジェールデルタ地帯はアメリカが輸入する原油の4割を供給しているが、そこは石油によって世界で最も汚染されている場所でもある。

Ibeno市の指導者Williams Mkpa氏は次のように述べる。

「石油会社は私たちの生活を重要視していません。私たち全員に死ねと言っているようなものです。ここ2年間で10回もの原油流出がありました。漁師たちは家族を養っていくことができません。もう我慢の限界です」

606の油田を持つニジェールデルタ地帯はアメリカが輸入する原油の4割を供給しているが、そこは石油によって世界で最も汚染されている場所でもある。辺境の地域では清潔な水を得られる場所は半分ほどしかなく、この二世代の平均寿命は40歳を少し超える程度だ。地元住民は公害の原因は原油にあると主張している。現在BP社とアメリカ政府がルイジアナ州の海岸線を公害から守るためにあらゆる対策をとっている様子との大差に驚きを隠せない。

「もし、メキシコ湾岸での事故がナイジェリアで起こっていたなら、政府も会社も目もくれなかったでしょう」とオゴニ人作家のBen Ikari氏が言う。「この程度の流出事故はデルタ地帯では日常茶飯事なんですがね」

「石油会社は目をつむるだけです。議員も気にかけてはいないし、人々は日々公害と共に生きるしかないのです。状況は30年前よりひどくなっています。何も変わりません。アメリカで現在行われている努力をみるにつけ、ダブルスタンダードの現状に深い悲しみを感じます。アメリカやヨーロッパでの対策は(こことは)全く違うのです」

「アメリカでは流出を止めるための必死な作業が続けられていますね」と「地球の友インターナショナル」ナイジェリア代表のNnimo Bassey氏。 「一方、ナイジェリアでは石油会社は流出事故などほとんど無視し、隠蔽し、人々の生活と環境を破壊し続けている現状です。メキシコ湾での事故はナイジェリアやその他アフリカ各地で日々起こっていることなのです」

「これがナイジェリアでは既に50年も続いています。飲料、農業、漁業の水は完全に地元の環境頼みです。人々はアメリカ大統領が毎日スピーチを行っていることに驚いています。ナイジェリアでは蚊の鳴くような声さえ聞こえてこないのですから」

流出量の計算とそれぞれの主張

ニジェールデルタ地帯で毎年流出している原油の量を知ることはできない。石油会社と政府が機密としているからだ。しかしながら、ここ4年の間で2件の独立調査が大々的に行われ、それによるとメキシコ湾岸で流出した量と同程度の原油が、毎年海や沼や陸地に流出しているとされる。

イギリスの世界自然保護基金、国際自然保護連合、ナイジェリア連邦政府代表団とナイジェリア保護基金が2006年にまとめた報告では、150万トンの原油―それはアラスカでの原油タンカー、エクソンバルディーズ号の座礁事故の50倍の公害にあたる―が過去50年の間に流出したと概算した。昨年はアムネスティが、原油流出量は最低でも900万バレルという数字をはじき出し、重大な人権侵害だとして石油会社各社を非難している。

150万トンの原油―それはアラスカでの原油タンカー、エクソンバルディーズ号の座礁事故の50倍の公害にあたる―が過去50年の間に流出した。

ナイジェリア連邦政府の数字によれば、1970年から2000年の間に7000回以上の流出がある。公に流出現場として認められている現場が2000カ所あり、そのうちの多くは数十年も続いている。さらに数千におよぶ小さな現場もあり、除去作業はまだ行われていない。シェル社に対してだけでも1000件の流出事故の訴訟が起こされている。
先月、シェル石油は2009年に14000トンの原油を流出したことを認めた。シェル社によると、そのうちのほとんどは2件の事故によって発生したものだという。ひとつはオディディの油田で窃盗団が坑口装置を破壊したため、もうひとつは武装集団がTrans Escravos パイプラインを爆発させたためだとしている。

シェル社は、デルタ地帯ではナイジェリア政府に協力しており原油流出の98%が武装集団による破壊、窃盗、妨害行為などによるもので、設備の老朽化が原因なのはほんのわずかである主張する。

「平均は175件ですが昨年の原油流出は132件でした。安全弁が壊され、あるパイプなど300もの違法のタップが取り付けられていました。別のものには爆発物が仕掛けられていました。地域住民は私たちが公害を除去しようとしても許可をくれないことがあります。損害賠償を受け取るほうが金になるからでしょう」とスポークスマンは語る。

「原油流出対策チームがフル稼働しています。昨年は197マイル分のパイプを新しいものと取替えましたし、微生物を含めあらゆる手段を使って公害を取り除く作業も行っています。原因が何であれ、いかなる流出に関しても私たちは出来るだけ速やかに除去作業を行っているのです」

このような主張は地元住民や環境監視団体から激しい非難を浴びている。彼らは、錆びたパイプや保管タンク、腐食したパイプライン、半放置状態のポンプ場、古い坑口装置、さらに様々な不備があるタンカー船やタンク清掃用船舶などがあちこちで使用されていることが最大の原因だとしている。

途方もない規模

公害の規模は途方もない。政府のnational oil spill detection and response agency (Nosdra:原油流出探知対策庁)によると1976年から1996年の間だけで240万バレルが環境を汚染したという。

「原油流出と水路への廃棄の量は相当なもので、飲料水を毒し植生を破壊します。政府に法律や規制がないため、このような事故はたびたび起こっています」とNosdraのスポークスマンが言う。

ナイジェリアでは会社も政府も法外な事故でもごく当たり前のことのような扱いをしているのです。(「地球の友インターナショナル」ナイジェリア代表のNnimo Bassey氏)

人々の怒りは広がっている。「年間に大小あわせて300以上の流出事故があります」と Bassey氏。「時期を問わずです。環境全体が壊滅状態にあります。 メキシコの件で新たにわかったことは、原油流出に対する反応にあまりに大きな違いがあるということです。ナイジェリアでは会社も政府も法外な事故でもごく当たり前のことのような扱いをしているのです」

ラゴスのStakeholder Democracy Network (利害者によるデモクラシーネットワーク)は石油会社の行動によって影響を受けた地域の人々を支える活動を行っている。ここのスポークスマンは「アメリカの流出事故対策を見て、いかにナイジェリアでの対策が世界の標準から遅れているかを思い起こさせることになりました」

法を超越?

世界は環境への影響の大きさを見過ごしているという抗議の声も挙がる。ロンドンの監視団体「プラットフォーム」の活動家Ben Amunwa氏はこう語る。「ディープウォーター・ホライズンの事故はエクソンバルディーズ号の規模を超えるものかもしれません。しかしナイジェリアの海岸沖では、ここ数年で原油流出量はエクソンバルディーズ号の規模を何倍も上回るものとなっています。ニジェールデルタ地帯での原油流出量は地球最大規模のレベルだと概算されていますが、その数値には廃水に含まれる原油や火事で燃えた原油は含まれていません。シェル社などの石油会社は独立モニタリングを避け、最重要データは機密としています」

今後大きな流出事故は増加するでしょう。石油業界はより遠洋かつ複雑な地形の場所から石油を採掘しようと躍起になっているからです。(匿名の業界関係者)

さらにひどいことが起こるかもしれない。業界内部の者が匿名を条件に話してくれた。「今後大きな流出事故は増加するでしょう。石油業界はより遠洋かつ複雑な地形の場所から石油を採掘しようと躍起になっているからです。将来の石油供給は、海岸沖のより深い、作業の難しい場所で行われることになります。ひとたび間違いが起これば、対応も難しいのです」

ジュディス・キンバーリン氏はニューヨーク市立大学で法と政策の教授であり、エクアドルの石油開発についての『Amazon Crude』(アマゾンの原油)の著者でもある。氏いわく「流出、漏れ、意図的排出が世界中の油田で起こっており、それを懸念する人はごくわずかです」

巨大な石油企業はあたかも自分たちは法を超越した存在であるかのように感じられてくる。Bassey氏によると「メキシコ湾の事故を見てわかるのは、石油会社は統制不能だということです」

「BP社がアメリカでもナイジェリアでも進歩的な法規を妨害しているのは明らかです。ナイジェリアでの彼らは法を超越した振る舞いをしており、地球を危険にさらしています。このような事故が何度も再発する可能性は高いのです。彼らは国際法廷で裁かれるべきです」

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この記事は2010年5月30日日曜日、英国標準時00:04に guardian.co.ukで 公表したものです。

翻訳:石原明子

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著者

ジョン・ヴィダル氏は英紙「ガーディアン」の環境部門の編集者である。フランス通信社(AFP)、ノースウェールズ新聞社、カンバーランド・ニュース新聞社を経て、1995年にガーディアンに入社。「マック名誉毀損:バーガー文化体験 (1998)」の著者であり、湾岸戦争、新たなヨーロッパ、開発などをテーマとする書籍に寄稿している。