オバマ大統領 新原子炉建設 にゴーサイン

バラク・オバマ米国大統領は今日、数十年ぶりとなる新規原子炉建設にゴーサインを出し、2基の原子炉建設を請け負う電力会社に対して83億ドルの借入保証を発表した。
メリーランド州にある職業訓練施設を訪れたオバマ大統領は、電力大手サザンカンパニー(Southern Company)に対する政府保証は、約30年ぶりとなる原発建設計画の開始と、自身のエネルギー・気候政策の推進につながるとの見解を示した。

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「私たちは30年近くの間、原発建設に着手してこなかったが、原子力エネルギーは炭素を排出しない最大の燃料源である」と大統領は述べた。「高まる エネルギー需要を満たし、気候変動がもたらす最悪の事態を回避するために、私たちは原子力エネルギーの供給を増やしていかなければならないだろう。それだ けのことだ」

米国政府は、サザン社が債務不履行に陥った際に、同社の債務返済を肩代わりする責任を負い、アトランタ東部にある同社のボーグル発電所内に建設予定の新原子炉2基の建設費、およそ88億ドルのうち約70%を保証する。

歩み寄りを模索する

ホワイトハウス関係者によると、オバマ大統領の発表は、米国の原子力エネルギー利用を拡大し海洋掘削を推進するという、先月の一般教書演説での公約を改めて強調するものであった。

オバマ大統領は、議会での予算請求において、原子力産業への政府保証を現在の3倍に引き上げ、185億ドルから540億ドルに増額することを要求した。

オバマ大統領の原子力産業に関する公約は、上院で行き詰ってしまった気候・エネルギー法案で共和党の支持を得るための戦略の一部と見られている。現在、米国の電力需要の約20%が原子力によって供給されている。原子力利用の拡大は、オバマ大統領のエネルギー・気候政策が幅広い支持を得るための数少ない切り札の一つである。

多くの共和党上院議員たちはオバマ大統領に対し、今後10年で100基の原発を建設するための資金供与を求めてきた。

共和党のリンゼイ・グラハム上院議員は現在、民主党議員たちと協力し、排出量の上限および取引に関する妥協法案を草稿している。グラハム議員は、原 子力エネルギーの推進において重要な役割を担っている。彼の選挙区であるサウスカロライナ州では、電力の半分近くが原子力で発電されている。

しかし、一部の上院議員や環境団体は、原子力産業への助成金に懸念を抱いている。バーモント州選出の無党派バーニー・サンダース議員は「資金は莫大だ。新しい原発を建設するという政策は最も高くつくのではないか」と述べている。

行き場を失う核廃棄物

オバマ政権は、ネバダ州ユッカ山への埋蔵処理計画を凍結して以来、核廃棄物の処理方法に行き詰っている。先月、政府は新たな廃棄物処理法を見出すために委員会を設置した。

オバマ大統領は、様々な議論があることを認めた上で次のように述べた。「今日の発表を歓迎する人もいれば、強く反発する人もいるだろう。これまでも 海洋掘削や炭素汚染への課金など、他のエネルギー論議についても同じことが行なわれてきた。しかし、私は強調したい。意見の相違が私たちの前進を妨げるこ とがあってはならないということを。これは米国の経済、安全保障、そして地球の未来を左右する問題であり、私たちは、環境活動家と企業家に別れて、昔なが らの似たような論争を繰り返している場合ではないのだ」

サザン社のプロジェクトは今後、議会の認可を得なければならない。

原子炉はさらに増えるのか?

ホワイトハウス関係者は、新原子炉2基の完成を2016年もしくは2017年と予想しており、その発電能力は2.2ギガワットと言われている。原発建設だけでも3,500人の雇用が見込まれており、発電所が稼動すれば約800人の雇用が新たに創出されるだろう。

オバマ大統領が発表した借入保証は、2005年に議会が承認した185億ドルの中からの初めての出資となる。

米国エネルギー庁長官であるスティーブン・チュー氏は、今回の資金供与が、新規原子炉建設に対する「少なくとも半ダース、もしくはそれ以上の」貸し 付けの第一弾であると述べた。同氏は、「米国は進行中のプロジェクトを多く抱えている」と付け加えたが、今後の発表のタイミングについては言及を避けた。

サザン社の原子炉建設には新型のウェスティングハウスAP1000型が採用される予定であり、チュー氏によれば、この新型原子炉は既存のものより安 全で経済的だという。同氏はさらに、「制御不能に陥っても炉心溶融は起こらないであろう。スリーマイル島の事故では部分的な炉心溶融が生じたが、圧力容器 は持ちこたえた」とコメントした。

チュー氏はまた、連邦議会予算事務局が原子力産業の債務不履行の可能性を50%としたことに反論し、「私たちは時間と予算をかけて、原子炉建設を増やす道を探っている」と述べた。

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この記事は2010年2月16日火曜日にguardian.co.ukに掲載されたものです。

翻訳:森泉綾美

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著者

スザンヌ・ゴールデンバーグ氏はワシントンDCに拠点を置くガーディアン紙の米国環境特派員である。中東での記者活動により数々の賞を受けており、2003年には米国のイラク侵攻をバグダッドで取材。著書にヒラリー・クリントンの歴史的な大統領選出馬を描いた「Madam President」がある。