1980年以降、過体重や肥満の人々は2倍以上に増加した。当初は約8億5000万人だったが、世界人口が70億人である現在、20億人を越えている。
世界で最も権威のある医学誌『ランセット』に先月掲載された報告書によると、ますます深刻化する肥満のまん延は、世界の成人3人に1人以上に健康上の影響を及ぼす可能性があり、2010年だけでも340万人の死につながった。
過剰な体重は、アメリカやオーストラリアやイギリスといった高所得国だけの問題ではない。実際のところ、現在その影響のほとんどは低所得および中所得の国々で見られており、中国とインドでは増加の一途をたどっている。
肥満と、それに関連した糖尿病、高血圧、心臓病、一部のガンのリスクは潜在的に、未来の医療費を世界的に増加させる主な要因である。肥満のまん延は労働者の生産性にも影響を及ぼし、効果的な対策を講じなければ未来の経済発展を妨げかねない。
肥満率の上昇と同じ時間軸に沿って、世界は急速な都市化を遂げてきた。1960年、世界人口の3分の2は農村部に暮らしていた。世界は2008年までに、半数以上の人々が都市に暮らしている時期を迎えた。人類史上初めて、「田舎の人」よりも「都会人」の方が多くなったのだ。
国連の推測では、21世紀中頃までに3分の2以上の人々が都市に暮らしている。では、都市化と、過体重や肥満、それに関連した健康問題のまん延との間には、関連があるのだろうか?
このような疑問に取り組んでいくのが、国連大学の新しい学術プログラムである。人間の健康と、特に都市化、気候変動、生物多様性の喪失といった地球的変化の間の関連性に関するプログラムだ。
クアラルンプールの国連大学グローバルヘルス研究所(UNU-IIGH)が率いる同プログラムは、マレーシアやその他の国際資金から寄せられた4000万USドルの寄付で支えられている。
過体重と肥満はエネルギーの不均衡、つまり食料エネルギーの摂取が多すぎる一方で、運動を通じたエネルギー消費が少なすぎる状態から生じることは分かっている。多くの人は現在、過去に比べてエネルギー密度の高い食品を食べている。それと同時に、多くの人は座位の姿勢でいることが非常に多くなっている。移動手段として自動車に依存し、オフィス中心の仕事が増え、娯楽としてテレビやコンピューターを利用するようになったからだ。
実際のところ、私たちが現在暮らし、学び、働き、遊んでいる都市や町を表現する言葉として、公衆衛生の研究者たちは「obesogenic environments(肥満生成環境)」という新語を創った。
数千世代もの間、私たちの祖先は狩猟採集者だった。人間が生活手段として農業を採用し始めたのは、わずか1万年ほど前のことである。
進化の見地から見ると、人間の体は、採集や狩猟によって自然から植物や動物を手に入れる狩猟採集者の生活に非常に適している。その生活は自然食と十分な運動を人間に与えてくれるからだ。
狩猟採集者の食事は、今日のスーパーマーケットで売られている、ソフトドリンクやチョコレートやポテトチップスを含む食料の多くとは全く違うものだった。
過体重と肥満のまん延を阻止するためには、私たちは「都市の」狩猟採集者を目指すべきかもしれない。それはどのような生活だろうか?
都市の狩猟採集者は日常生活の中で十分な運動を行う。例えば学校やお店や職場まで歩き、ビルでは階段を上り下りする。一気に行う激しい肉体活動(『狩猟』)は、急いで走ったり(例:バスや電車に遅れた場合)、スピードを出して自転車をこいだりする時に生じる。
都市の狩猟採集者は、地元のお店や市場、地域社会、街にある菜園から健康的な食料を集めることができる。
こうした状況は、私たちの都市の未来としては一風変わったビジョンに見えるかもしれない。しかし、活動的で健康的な都市のデザインにとって貴重な洞察を与えてくれる。
『ランセット』誌の報告書は、肥満のまん延に関する取り組みに成功した国はまだ皆無だと結論付けている。もちろん、それは努力をやめる理由にはならない。都市計画者と公衆衛生専門家が協力して、健康的な生活を可能にする都市の設計と開発への斬新なアプローチを提唱することが、前向きな第一歩になる。
過体重人口と肥満のまん延という高まる問題を理解し、創造的な方法で問題に取り組むことは急務である。世界中の学者たちと共同し、UNU-IIGHはこの重大な課題への持続可能な解決策を追求している。
翻訳:髙﨑文子