オーストラリア、シドニーにあるニュー・サウス・ウェールズ大学法律学部のシニアリサーチフェロー。国連大学高等研究所(UNU-IAS)の上席客員研究員でもある。
人類が化石燃料から脱却したとき、新たな選択肢として海のさまざまな再生可能エネルギーが活用されることになるだろう。「マリン・エネルギー」とも呼ばれる海洋エネルギーとは、潮力や波力などの海洋の動きを発電に利用する工学技術である。
UK Renewablesが発行したWorld Offshore Renewable Energy Report 2002-2007(世界の海洋再生可能エネルギー2002-2007)によれば、波力には全世界の総電力消費量に相当する1,000-10,000ギガワットの電力を作り出す将来性がある。
しかし、海洋エネルギーの可能性は証明済みなのにもかかわらず、多くの国々はいまだに実績のない二酸化炭素と格闘する技術を追求しつづけている。中でもよく知られているのが、炭素隔離技術(CCS: 炭素回収貯留技術)だ。
初代の海洋エネルギー技術は100年以上前に開発されている。最初の波力装置の特許登録は19世紀のことだ。潮汐エネルギーにおいては、水車や外輪技術を考えればその歴史はさらに遡る。
最初の潮汐ダム(潮力を取り込むための大型ダム)は1966年にフランスで実用化され、その直後には小規模ながら中国とカナダでも運用が始まった。しかし、その構築に要する高い環境コストから、広範な運用がされることはなかった。
しかし韓国では現在、1年に石油862,000バレル相当の電力を供給できる254 MW Sihwa-ho Lake tidal plant(254メガワット・シファホ湖潮力発電所)の建設がすすめられており、年内の完成が予定されている。
1970年代のオイルショックを期に、1980年代には安価な石油が台頭し、非経済的な海洋エネルギー技術への興味は失われていった。しかしながら1990年代に入ると、石油価格の高騰や二酸化炭素排出量削減の必要性から海洋エネルギーに対する認識は一新され、ついに最初の近代的な商用プロトタイプが設置されたのだ。
環境に優しい動力の分野で海洋エネルギーが注目されつつあるので、期待されるテクノロジーをいくつか紹介しよう。
ポルトガルの沖合いAguçadouraにある世界初の商用複合波力発電施設は、スコットランドのペラミス・ウェーブ・パワー社がポルトガルの再生可能エネルギー会社エネルシスのために設計した。
ペラミス装置とは水面に浮かぶ滑節で連結された円筒型ユニットである。連結部分が波の力を受けて動くことにより油圧ポンプのような働きを促し、発電機を駆動させる仕組みだ。
ここの3基の発電装置は、それぞれが長さ140メートル、直径3.5メートルの大きさで、2.25メガワットの発電能力を備えている。しかし実際の発電量は波のコンディションに左右されるため、1年の間、公表最大出力の25-40%程度の発電量にとどまっている。
発生した電力は1本の海底ケーブルによって陸に送電される。ペラミス社によれば、この3基でおよそ1,500世帯分の電力供給が可能だ。
残念なことに、世界金融危機により、このプロジェクトの大株主であるオーストラリアのインフラ大手、バブコック・アンド・ブラウン株式会社が年初に破綻し、Aguçadoura 発電所は売りに出され、事業拡大計画は中止された。
しかし、ペラミスの発展は止められないようだ。ドイツの電力会社エーオンのために、2世代目のウミヘビ技術を使ったプロジェクトが進行中である。現在、1基のウミヘビは750キロワットの電力を発電するそうだが、2015年頃までには、1基につき20メガワット、30,000世帯への電力供給を目指している。
風力エネルギーと同様、波はいつも予測可能なわけではない。一方、潮汐エネルギーは数週間前、数年前から予測をすることができる。しかし、World Offshore Renewable Energy Report 2002-2007(世界の海洋再生可能エネルギー2002-2007)によると、潮力には世界全体で3,000ギガワットの潜在的発電力があるにもかかわらず、施設建設に適した地域の総発電量はわずか90ギガワットだと見積もられている。
「SeaGen」は陸地への送電を実現した世界初の商業規模潮流タービンである。再生可能エネルギー会社、Marine Current Turbines社によって開発されたこの装置は、「SeaFlow」など類似モデルのタービンで何年も検証した後、北アイルランド、ストランフォード湾の沖合およそ400メートルに設置された。
この施設は既存の潮流プロジェクトの4倍の発電能力を備えている。洋上風力タービンのベースに似たポールに双頭プロペラを配し、ポールは海底地中深さ9メートルに4か所で固定されている。
ポールは海面に突出しており、タービンを海上に引き上げて小舟から整備することも可能だ。ローターを1日に18‐20時間駆動すれば、およそ1,000戸分の住宅の消費電力相当を発電することができるとSeaGen社は主張する。
前述のほかにも、さまざまな技術が実用化に近い段階まで開発されている。「Wave Dragon」がその一つだ。この浮体式装置は、装置を越えていく波の力をエネルギーに変換する。背の低いこの装置は海面に浮かんでいるものの、海岸線からはほとんど確認することができない。
最初に送電を行ったプロトタイプは、2003年にデンマークのニッスム・ブレニンに設置された。ウェールズにフルスケールの商用デモンストレーション装置が建設されようとしていたが、世界金融危機が起こり、開発会社はベンチャー投資企業を探すため計画の遅延を発表している。
このプロジェクトには7メガワットの発電能力があるとWave Dragon社は言う。これは2,000-3,000世帯の年間消費電力に相当し、およそ10,000トンの二酸化炭素排出を相殺するグリーン電力であると。
これらのどの技術も環境への負担がほとんどなく、その発電能力は膨大だ。
例えば、最近イギリスのCarbon Trust社は、経済的に実行可能な海洋エネルギーが作り出す電力量を年間55テラワットアワーと予測した。これは世界需要のおよそ14%に相当する。
海洋エネルギーが(そして、全ての再生可能エネルギーが)直面している大きな課題の一つは、化石燃料産業のような、国から補助を受けている企業と競わなければならないということである。海洋エネルギー産業の発展には、開発初期段階での政府の支援が必須なのだ。
2週間前にイギリス政府は、Marine Renewables Proving Fund(海洋再生可能エネルギー実証基金)というプログラムを施行した。これは、波力および潮力エネルギー開発事業者に対し2,200万ポンド(3,500万ドル以上)の支援金を交付する入札制のプログラムである。
費用面の理由から、洋上風力発電産業が化石燃料発電と競合できるに至るまでには数十年を要した。これと同様、海洋エネルギーが経済的に実行可能となるのは2020年代初頭だと国連大学高等研究所(UNU-IAS)は予測している。
この技術に将来性を見出す投資家もいる。三井造船株式会社が最近、出光興産株式会社や日本風力開発株式会社と共に日本初の波力発電施設を太平洋に建設するプロジェクトを発表したところ、同社の株式に買いが集中するという事態が起きた。
当面、波力発電施設の開発・建設は固定価格買取制度を通して支援されるべきだろう。この制度によりヨーロッパの再生可能エネルギー事業は急速に発展したのだ。(ドイツやスペインは顕著である)
炭素回収貯留技術(CCS)など、実証されていない解決方法への投資を続けることは、この先も“旧態依然” を継続するための皮肉なやり方だと考えられないだろうか。
当然ながら、CCSのようないまだに実行不可能な技術ではなく、商業用プロトタイプに着手している産業を支援する方が、政府にとっては得策なのである。
翻訳:上杉 牧
しくみ解明:海洋エネルギーの波 by デイビッド・ リアリー and ミゲル・エステバン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.