セヴェリン・カレル氏は『ガーディアン』紙のスコットランド特派員。彼は『The Scotsman』紙および同紙日曜版で国内、環境、政治関連の担当記者を務めたほか、『The Independent』紙および同紙日曜版で上級レポーターを務めた。
オークニー諸島の強い風雨が歩道に沿って吹き付ける時、緩やかな傾斜の島々はグリーンエネルギーの発電所になる。
オークニー諸島では何百基もの小型風力タービンが点在している。それらは農家や小屋、作業場、そして12基以上の巨大な商用発電装置の外に、そびえ立っている。先日の月曜日、時速45マイル(秒速20メートル)の風を受けて、風力タービンは23メガワット以上の電気を送電し、イギリス本島のスコットランドの世帯に電力を供給したうえに余剰エネルギーも生産した。
オークニー諸島はスカラ・ブレイのような新石器時代の遺跡、牛肉、漁業技術でよく知られている。しかし、人知れずではあるが非常に着実に、イギリス諸島の中で恐らく最もエネルギー自給力の高い場所になった。今では世界最先端の波力や潮力の発電装置が配備されているほどだ。火曜日、オークニー諸島で2番目に大きい町ストロムネスで、スコットランド副主席大臣のニコラ・スタージョン氏は、再生可能エネルギーに対する世界で最も高額な賞金、1000万ポンドが贈られるサルタイヤ賞の候補を発表した。
同賞に対して、海洋エネルギー企業の4社が自社の波力および潮力の発電装置を応募した。
ペラミスP2「ウミヘビ」は、サザランド沖合の波のうねりのエネルギーを利用する、長い連結型の装置だ。アクアマリン・パワー社のオイスター800は、巨大なフラップが西部島嶼部の沖合の波力を捉える。ケイスネス沖合のペントランド海峡の強力な海域におけるMeyGenの潮力エネルギー計画は、海底に設置された水中プロペラを利用する。Scottish Power Renewables(スコティッシュ・パワー・リニューアブルズ)社も同様の潮力タービンをケイスネス沖合に数多く設置する予定だ。サルタイヤ賞を受賞するためには、候補となった装置は今から2017年までの間に連続2年間、少なくとも100ギガワット時の電力を生産しなければならない。今のところ、ストロムネスのヨーロッパ海洋エネルギーセンター(Emec)で試行されている4基の潮力および波力装置だけが、継続的に電力を生産できている。それらの装置でさえ、持続時間は月単位ではなく、数日間だ。
再生可能エネルギー産業界には、サルタイヤ賞の目的に関して懐疑的な意見がある。すなわち賞に応募する費用が、賞の価値をあまりにも超えているという意見である。再生可能エネルギー産業の本当のゴールは、海洋の持つ途方もなく大きなエネルギーを利用し、推計1兆ポンド(1.3兆USドル)の価値を持つ世界市場に進出することだ。このゴールは非常に明確であるため、再生可能エネルギー産業の存在はほとんど変化しない。
アクアマリン・パワー社の最高責任者であるマーティン・マカダム氏によると、サルタイヤ賞を獲得するためには、少なくとも20基のオイスター800を製作し、それらを西部島嶼部沖に設置しなければならず、それには約6000万ポンド(9500万USドル)が必要だと言う。
しかしマカダム氏は、同賞は再生可能エネルギー産業に大きな自信を与えてくれると言う。「つまり賞の獲得のためにビジネスプランを考える人はいませんが、サルタイヤ賞によって業界に注目が集まるということです」と彼は言った。
再生可能エネルギー産業は何年もの間、実用可能な海洋エネルギー装置の発明に失敗してきた。しかし、海洋の風力発電技術に対抗でき、石炭火力発電所に替わることが可能な、実用可能な商用装置の製作に向けて、再生可能エネルギー産業は今まさに躍進を遂げそうだ。
ウェブマガジンの『reNews』は、再生可能エネルギー産業が16メガワット、すなわち昨年の4倍に相当する波力および潮力装置を2012年中に設置することを予測している。また、ロールス・ロイス社、シーメンス社、アルストム社11といった世界的なエンジニア企業やエネルギー企業が、初の実用可能な装置を作り出したパイオニア企業を買収しつつある。
世界最大の波力および潮力試験所であるEmecの最高責任者、ニール・カーモード氏は、特にイギリス諸島周辺の海洋エネルギーが秘める大きな可能性が再認識されつつあると話す。『reNews』誌によると、マリン・カレント・タービンズ(現在はシーメンス社傘下)によって北アイルランドで開発された潮力装置は、すでに世界記録となる3ギガワット時の電力を生産したという。
「私たちは世界中の様々な国と協力しようとしています。なぜなら私たちは技術をどのように生かすべきか知っているからです」とカーモード氏は言った。「それは地球全体の責務だと言えます。大量のエネルギーが目の前にあり、その実用化が早ければ早いほど、脱炭素も早く実現できるからです」
海洋エネルギーの試験所としてオークニー諸島が好ましい場所だということはEmecの潮力実験場で毎日示されている。この実験場はエデイ島沖のFall of Warness(フォール・オブ・ウォーネス)と呼ばれる強い潮路にあり、そこは世界で最も強力な潮流の1つだ。潮の流れは秒速4メートルに達し、毎時5億トンの海水を押し流す。
推計では、スコットランドの島々の周辺での潮力および波力による発電量は、年間3万8500ギガワット時になると示唆されている。この数字は、北ヨークシャーにある英国最大の石炭火力発電所であるドラックス発電所の3倍の発電量に匹敵する。
マカダム氏は、2017年までに波力や潮力発電が海上風力発電と同じコストで操業できるようになると予測している。さらに、2025年までに巨大な海洋エネルギー農場が誕生し、何百メガワットもの電力を生産していると予測している。
英国での初期の潮力発電装置の多くは、オークニー諸島やペントランド海峡、その近隣のシェットランド諸島周辺を拠点とする予定である。しかしオークニー諸島の人々は、自立精神にあふれ、英国でも屈指の高額なエネルギー価格と日常的につきあってきたため、英国の他の地では珍しい、活気ある小規模な再生可能エネルギーを育んできた。
人口2万人の市民のために、すでに55メガワットの電力が主に数カ所の小規模の商用風力発電所から供給されている。さらに現在、約450基の私有の風力タービンが存在し、恐らくソーラーパネルは100アレイ、家庭や学校やオフィスに取り付けられた地熱ヒートポンプは150以上ある。
現在さらに多くの装置が設置されている中、ストロムネスに拠点を置く再生可能エネルギーのコンサルタント企業Aquatera(アクアテラ)社のガレス・デイヴィス氏は、オークニー諸島の総電力需要の85パーセントは2013年初頭までに地元で生産される再生可能エネルギーで賄えるようになると予測している。そして生産量が需要量を超える日は近い。
6つの自治体が独自の大型風力タービンを所有しており、その風力タービンが1回転するたびに7ペンスを生み出している。さらに10の自治体が風力タービン建設を検討中だ。シャピンセイ島では、自治体がミニバスを購入し、住民がカークウォールの映画館に行けるように勤務時間外の渡船業者を雇い、今は船を買おうと計画中である。議会はスコットランドで唯一の電力トラックを運用し始めた。この電力トラックはカークウォール市内やその周辺で廃棄物を収集している。
「オークニーはイギリスで初めて、再生可能エネルギーを日常生活の一部として取り入れたコミュニティであり、各世帯が再生可能エネルギーの将来に投資している場所です」とデイヴィス氏は言う。「ここはあらゆる意味でコミュニティだと言えます。それは地方議会であり、人々の集まりであり、コミュニティと共に貢献する個人なのです」
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この記事は2012年8月28日、guardian.co.ukで公表したものです。
翻訳:髙﨑文子
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