パキスタンの農村が目指す脱炭素社会

2013年01月04日 ナフィズ・モザデク・アーメド Institute for Policy Research & Development

世界各国政府は、世界の平均気温の上昇を2ºC未満に抑えるべきだと上辺では同意しているものの、その目標は無残にもくじかれたことは明らかだ。グローバル・カーボン・プロジェクトの最新報告は、現在の二酸化炭素排出量上昇(年平均3.1%)のまま行けば今世紀末までに地球の気温は4~6℃上昇する可能性があると述べている。これは国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC) が2007年に最悪のシナリオとして出した数値である。

この報告は、産業文明は気候による破滅の淵へと追いやられているとする数多くの警告とも合致する。ある研究はこう結論している。「現在の脱炭素化の割合を2倍にしても、今世紀末までに6℃の気温上昇を招くだけの排出量を出すだろう」つまり現在の排出レベルではより大きな気温上昇もあり得るということだ。

企業や政府のリーダーの中には、人類が気温上昇に順応すればよいだけだと主張する者もいる。例えば数カ月前、エクソンのCEO、レックス・ティラーソン氏は「結果は管理可能です……人類は順応し生き残ってきました。そうでしょう?今回も順応するでしょう。問題は工学的なものであり、それには工学的な解決策があるのです」

だがそれに反し、世界銀行の報告は4℃の気温上昇は人類が「重大な社会システムの限界値」を超えることを意味するとし、その時点では「適応のための活動を支えたであろう既存の機関はもはや機能しなくなるか崩壊する」と述べている。

確かに新たな証拠が次々と見つかる中で、人々の警戒心に全く響かない従来の気候モデルは、地球の複雑に絡み合った生態系の問題とは絶望的にかけ離れていることを示している。モデル予測に反し2015年から2016年には北極の夏には氷がなくなるだろう。グリーンランドや南極でも似たような現象が起こる。広範囲なNASAの研究によると「過去10年の間に南極の氷の損失に5割の増加が見られた」。全体的に氷床の解ける速度は科学者が予測したより早かった。別の研究は、海面上昇はIPCCのモデル予測より60%も早い速度で加速していることを示している。

別の深刻な可能性は北極圏の永久凍土が融解することによる正のフィードバック効果である。つまり、融解により二酸化炭素の25倍の温暖化効果のあるメタンガスが大気中に放出される可能性があるのだ。世界の平均気温が3℃上昇すれば(現実にそれを上回りそうだ)、北極では6℃上昇する。最近発表された国連環境計画の報告書によると、その結果、今世紀末までに地表近くの永久凍土の最大85%が失われ、135ギガトンの炭素相当量が放出されるという。すると大気中への二酸化炭素排出は2倍になり暴走温室効果を引き起こすだろう。こういった報告はここ数カ月雪崩のように流れ込んできた悪い知らせのごく一部にすぎない。

新たな道を求めて

こういった大量の警告から分かったことは、決定的な行動の欠如がいくつかの気候変動による影響を不可逆的かつ必然的に確かなものにしてしまったことだ。そしてできることがあるとすれば、もはや避けられないものに適応したり、いまだに避けられるものを早急に防いだり緩和したりすることが大事である。

この苦境が解決不能に思えるにもかかわらず、ボトムアップ型の変化を目指す草の根の努力が継続的に行われていることは、希望が絶たれたわけではないことを示している。極めて優れていながらほとんど知られていない1つの例が一見しただけでは最もありそうにないと思える場所で見られる。パキスタンの北西辺境の地、カイバル・パクトゥンクワ州である。そこには過激派の拠点があり、米国資金による主に無人偵察機による攻撃の形で反テロ作戦が進行中である。

この苦境が解決不能に思えるにもかかわらず、ボトムアップ型の変化を目指す草の根の努力が継続的に行われていることは、全ての希望が絶たれたわけではないことを示している。

1989年から活動しているSarhad Rural Support Programme(サード農村支援プログラム) (SRSP)は持続可能なポストカーボンの繁栄に向けた移行の道を示す開発モデルを黙々と開拓してきた。 このモデルは基本的に疎外された農村部の貧困層たちが計画、設計、導入、および管理維持の全ての段階に参加して開発された。草の根コミュニティが力をつけ地元の地域団体へと成長すると、それは次に世帯のニーズを把握し、多様な開発プロジェクトを実施するための研修、技術、資源を調達する「自助能力」の手段となる。

SRSPの主力プロジェクトの1つはマイクロインフラストラクチャを必要とする。これまでの影響は驚異的だ。この地域全域で4,028以上の小規模プロジェクトをコミュニティ自らが計画、実行、維持している。開発資金を自力で調達できるようマイクロ水力発電所を建設し、それによって新たな地元の雇用やサービス会社、清潔な水と衛生の計画、農場市場間の道路、小規模農業の新たな機会などを生み出している。

農業コミュニティは水力発電所からの水を使っているが、キッチンガーデニングや多毛作の畑や魚の池にも転用している。植物は雨や川の水を保水するので、モンスーンや洪水の効果的な緩和策にもなる。そのようなプロジェクトを通し、SRSPは30万8540人の男女が文字通り自らの生活を変貌させた。

例えばスワット渓谷とチトラル地区ではSRSPは最近の洪水の被害に遭ったコミュニティへ緊急時の人道支援を提供する上で主導的役割を果たしてきた。それにはテントや食料パッケージ、生活必需品などを提供することだけでなく地域の生活を再建し強化する長期的な復興プログラムも含まれる。

SRSPのスタッフは地元コミュニティと協議を徹底して行いながら、これらのプロジェクトを開始した。そのコミュニティの住民のほとんどは60年近く電気なしで暮らしてきていた。彼らの視点、願いに基づき、世帯は地元の地域団体へと形作られ、彼らに必要なプロジェクトが決定され実行されていった。SRSPが外部の資金援助団体から資金を集め、地元コミュニティは残りを現金、労働力、地元の資源などの現物出資を組み合わせて提供した。

つい今月、スワットのミアンヤイル・ワジュール・バンダイという辺境の村でSRSPはこの村で初めての20キロワットのマイクロ水力発電所の完成までを見届けた。これは80世帯以上に電気と24時間お湯を供給できる規模だ。9月にはそれに似たもう少し大規模なプロジェクトがチトラルのカラシュ渓谷で開始された。これは200キロワットの発電所で6つの村に住む7000人以上のエネルギー需要に応えるものである。

ブンバレートの村出身でカラシュに住む学生、シャー・ナワズさんはその影響をこう話した。
「とうとう私たちは暗闇を抜け出すことができたんです。嬉しいことといったらありません。他の地域の友達はインターネットでリサーチしたり、学習ノートをダウンロードしたりしていましたが、ここではできませんでした。これからは私もインターネットを使ってオンラインリサーチをすることができます」

また村の長老であるアブドゥル·アジズ氏は、政府は渓谷地域の施設など放置してきたと話す。
「私たちは人生を闇の中で過ごしてきました。この丘陵地はとても滑りやすく、移動するには問題が数多くありました。でも今はたくさんの恩恵を受けています。子供たちは夜に勉強ができ、大人は灯りの下で家事を行うことができるんです」

興味深いことに、SRSPプログラムが活動する全ての地域ではコミュニティメンバーは一般的に過激派には関心がない。自らエネルギー、水、食料を調達できて経済的に自立し、解放されたコミュニティは過激化の影響を受けにくい

もしSRSP のプロジェクトがパキスタン北部全体に拡大されれば、パキスタン国民にとって最も深刻で根深い問題に取り組み、過激派の活動を抑えるのに役立つだろう。それは従来のアプローチより効果的なはずだ。

しかし他の恵まれないコミュニティでは同じ事はいえない。過去10年にわたり、パキスタンを経済危機、エネルギー危機、環境危機が重なって襲った。失業率は急上昇し、不平等が広がる上、停電や自然災害に対応する政府の無力が重なった。過激派は脆弱な地域に対しサービスを提供して支持基盤を拡大し、最終的には彼らの大儀に従う兵士を募集する。このような危機がエスカレートするにつれ、過激派の暴走は複数の文明危機が根深く絡み合っていることによるものだという事実が浮き彫りになる。しかし、それと同時に反射的な軍事的対応は症状に焦点を絞って事態を悪化するだけで無益であることをも示す。

だが、SRSPのような草の根のプログラムの成功は解決策が存在することを示している。もしSRSP のプロジェクトがパキスタン北部全体に拡大されれば、パキスタン国民にとって最も深刻で根深い問題に取り組み、過激派の活動を抑えるのに役立つだろう。それは従来のアプローチより効果的なはずだ。

同様に、これらのプログラムはマイクロレベルでの持続可能性に焦点を合わせた、クリーンで費用効率の高い持続可能な経済的権限の付与のモデルでもある。これらは巨大な外資系企業の一部の利益ではなく、地元の世帯特有のニーズに結びついている。

広がる評判

潜在的可能性を過小評価すべきではない。SRSPはパキスタン市民社会ネットワークであるRural Support Programme Netwok(農村支援ネットワーク)(RSPN) という大きな団体の一部である。RSPNはここ30年余りパキスタン全土で活動しており、地元地域団体を通しパキスタンの400万世帯を活性化したり、およそ300万世帯に技能訓練を提供したり、3000万人もの国民を貧困から脱却させるなど、大々的な成功を収めてきた。プログラムが行われている農村部でもその基本モデルは同じだ。つまり地元民に自らを解放する手段となるための権限を与えることである。 彼らは地元のエネルギー、経済、健康、教育のニーズを詳しく調べ、自力でプロジェクトに必要な能力を調達し、設計できるよう研修や学習の機会を提供している。

このモデルの成功が芳しかったため、途上国では広く同様の試みが行われている。1994年、国連開発計画は、RSPN創始者でありノーベル平和賞候補となったショアイブ・スルタン・カーン氏にバングラデシュ、インド、モルディブ、ネパール、スリランカでもパイロットプロジェクトを設定するよう依頼した。それらが成功したため、インドでは、カーン氏のモデルに触発された全国的なプログラムを展開し3億人の貧困層に手を差し伸べることとなった。

唯一の欠点はRSPNのモデルは従来の開発目標に対して即座に効果のあるものではないことだ。成功までの道のりは長期的なもので、中には15年というものもある。しかし最終的には効果が持続する真の草の根の持続可能性をもたらしてくれる。失業率と不平等とともにエネルギーと食料価格が上昇する中、これはより豊かな北米の社会ですら学ぶべきモデルである。

政府が高尚な国際交渉の席で決断にもたついていたとしても、南北のコミュニティや慈善家が協力し合い、共有資源を集め、このような草の根のプロジェクトを活性化させるのはまだ手遅れではない。そうすれば私たちは文明の移行に向かう苦難の道を前進することができるだけでなく、政治家たちに、ポストカーボン時代についていくためには社会の動向に目を凝らさなければいけないことを気付かせることもできるだろう。

翻訳:石原明子

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著者

ナフィズ・モザデク・アーメド

Institute for Policy Research & Development

ナフィズ・モザデク・アーメド氏はロンドンのInstitute for Policy Research & Development所長を勤めている。最新の著作は『A User’s Guide to the Crisis of Civilization: and How to Save It』である。ブログはnafeez.blogspot.comをご覧ください。