ピークオイル:それが我々に意味するものは?

2008年07月06日 ブレンダン・バレット ロイヤルメルボルン工科大学

原油価格1バレル140ドル超はピークオイル到来のシグナルだろうか?専門家の間では原油価格高騰の原因について意見が割れているが、ある一つのメッセージについては見解が一致している。石油が簡単に手に入る時代は終わったのだと。

1995年から原油価格は上がり始めていたが、ここ数年、さらに上昇の勢いが強まっていた。1バレル100米ドルの歴史的な大台に乗ったときには、それは漠然とした懸念であったが、120米ドルになったときには不安となって広がり、さらに最近145米ドルに届いた際には深刻な恐怖となった。原油価格に一体今、何が起こっているのかについてなされている説明は様々で、複雑かつ混迷を極めている。

非難の的になっているのは、ドル安、OPECによる少量増産、あるいは供給分を溜め込んでいる国々などだ。精油能力の不足、あるいはナイジェリアのパイプラインや湾岸地域のタンカーに対する攻撃が原因として挙げられている。さらには中国やインド、そして世界の国々でますます多くの人々が石油経済からの恩恵を受けようとしているため、石油需要が増加しているという根本的事実がある。市場はこうしたシグナルを読み取り、反応しているのだ。

同時に、原油価格は意図的に、人為的に高値で保たれていて、誰かがどこかで大もうけしているのだとの指摘や示唆が後を絶たない。また、こうしたニュースのすぐ後ろに背景として浮かび上がってくるのは、石油生産はすでにピークを迎えてしまったのではないかという可能性へのより一層深刻な懸念だ。2006年9月、BBCのウェブサイトには「石油生産は遂にピークに達してしまったのであろうか?」という疑問が呈され、さらに2007年11月にはウォール・ストリート・ジャーナルが「石油生産の限界の兆し」について論じた。

その議論は、石油が今現在、枯渇しつつあるいうものではなく、現在の1日あたり8500万バレル以上に生産水準を引き上げることが、より困難かつ高価になりつつあるということである。今すぐにはパニックになる理由はないが、しかし基本的に、我々は長期的な傾向を理解する必要がある。

歴史的視点

原油価格の議論となると、分析家の多くは1970年代のオイルショックにまで遡り、長年の推移を概説したがる。その一例に、1970年から2008年までの原油価格の変遷をまとめたBP/ブルームバーグの記事がある。

crude_oil_prices_1970-2008

この分析の中で、湾岸戦争、9・11テロ、イラク戦争、レバノン内戦など原油価格に影響を与えた数多くの大きな出来事が挙げられている。中東および世界各地の闘争やテロは、原油価格高騰と相関している。しかしながら、今回の1バレル140米ドルの到来は特定の出来事と関連しているようにはみえない。

別の分析家らは、事象を的確に捉えるためには、原油価格を検討する際、インフレを考慮する必要があると指摘している。確かに原油価格は現在高値にあるが、過去の価格と比較しインフレを考慮すると、史上最高値を記録したのは1979年12月であったと主張している。
実際には、これはもはや事実ではない。2008年4月に原油価格は120米ドルの大台を超え、さらに6月末には140米ドルを突破したからである。いずれにせよ、こうした論法が、不安を鎮めるためには重要であったのである。

ピークオイル説

石油生産のピークに我々はすでに達した、または、近づきつつある、もしくはあと数年の間に接近すると考える人が増えている。インターネットには石油や天然ガスのピーク到達をテーマにしたウェブサイトが溢れている。ピークオイル・ガス研究協会はその中心だ。
ピークオイルは新しい概念ではない。この発想は、1970年代にM. キング・ハバート博士(Dr. M. King Hubbert)が米国内の石油生産のピーク到達時点であると予測したときから広まっていた。YouTubeでは、博士が驚くほど正確な予測をしている1976年の映像クリップが見られる。ピークオイル論支持派の科学者達は、同じ方法論を世界の石油供給に当てはめているのである。

この方法論、データ、結果をめぐる論争が激しくなされてきたが、意見の一致には至っていない。2007年4月、Worldoil.comは、世界の石油生産ピークの時期に関する最近の予想をまとめ、掲載した。丹念に研究された記事の中で、「2005年説から石油ピークが起こるとは到底考えられないとする説」まで、最近の予想を幅広く論じている。記事は予測を、現在から2012年まで、2012年から2022年まで、2022年以降の3つのグループに分けている。

記事では、石油ピーク以前のおよそ20年間に緩和対策を実行することが賢明なリスク最小化措置として必要であると結論づけている。さらに、簡単に安く手に入る石油など、もはや当てにならない時代にあって、生産水準を維持する唯一の方法は、世界中の石油生産施設への大規模な投資実行のみであるとしている。

ピークオイル予測の欠陥を強調するのは、米国に拠点を置くケンブリッジ・エネルギー研究所(Cambridge Energy Research Associates: CERA)だ。CERAは「学説」としてピークオイル論は誤りであるとし、政策決定やエネルギー論争をゆがめかねないと主張している。CERAの分析は、地球の石油資源総量は3兆7400億バレルであり、ピークオイル論支持者が推測する1兆2000億バレルの3倍である、と指摘する。

この査定に基づき、CERAは、ピークの後に突然、急激な減少が待っているというよりはむしろ、技術と高価格が組み合わさり、従来型および非従来型原油(例えばカナダのオイルシェールなど)の採掘がどちらも進むため、2030年ごろから起伏のある平坦域とでも言うべき非常に緩やかな減少に入るだろうと主張している。多くの人達が安堵する内容である。

しかしながら、ここには意見を異にするグループと激論を交わし、データや方法論や専門知識を共有し、予測の精度を上げて政策を導いていこうとする姿勢が、すっぽりと抜け落ちている。これは翻って、不確実性や政策決定者らによる先延ばしを助長する。我々は一体、誰を信じたらいいのだろうか?

日本への影響

日本は世界で第3位の石油輸入国である(米国、中国に次ぐ)。昨今の石油価格急騰は、ガソリン税の暫定税率延長の可否をめぐり、今年の国会に政治的緊張をもたらした。多くの政治家が税負担の軽減とガソリンスタンドでの価格引下げを支持した一方、温室効果ガス削減を強く推し進めようとしている只中で、減税によってガソリン消費を奨励してしまうことになるのではないかと懸念を表明する政治家もいた。

日本の指導者らは、直面している状況を充分に承知している。1970年台のオイルショック以来、日本が実施してきた石油問題に対する取り組みは主に、1日あたり500万バレル程度の輸入を維持するというものであった。同期間に米国の石油輸入量がほぼ3倍に増えていることを考えると、これは注目に値する功績である。このことから、日本は経済成長と石油消費を効果的に切り離してきたとコメントする者もいる。別の言い方をすれば、日本はより効率よく石油を使用すると同時に、とりわけ原子力エネルギーの増進と液化天然ガスの広範な活用によって、自国の基本的なエネルギー生産を多様化してきたのである。

とはいえ、主に輸送・工業部門を中心に、日本は依然として石油に大きく依存している。世界的に価格が上昇している中、日本はこの1日あたり500万バレルを保証するため、国際市場での支出を増やさざるを得ない。同時に、競争がますます激化する市場の中で供給を確保すべく、日本は世界の石油産出国に巨額の投資をしている。

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しかしながら、日本の状況としては、ピークオイルに関する議論は限定的である。政策決定者らの間では広く理解されているものの、メディアではあまり報道されていない。

後日また文書にまとめるが、再生可能エネルギーの発展やバイオ燃料の段階的導入など、エネルギー部門や自動車業界(新しいハイブリッド車や電気自動車や水素自動車など)において様々な進展が見られる。

理解を深める

ピークオイルについて我々が確実に知るようになるのは、それが現実に起こった後のみである。しかし今ここで大切なのは、パニックに陥らず、価格高騰の根底にある原因を自分でより深く学び、自分なりに備えることである。これには、車に乗らずに出かける、相乗りをする、公共の交通手段を利用する、自転車を買うといった非常に小さな行動から、ハイブリッド車(あるいは、発売されればプラグイン・ハイブリッド車などもよいだろう)を購入するなどの大きな行動まで、あらゆる範囲にわたる変革の努力が含まれるであろう。

ただ座って何もせずにいるのでは、よろしくない。インターネットをつないで関連トピックを読み始める。知識を広げ、周囲の人々にも語りかけ、そして自分がやるべきこと、自分の家族ができること、自分達の地域で始められること、さらには自分達の自治体はどう変わることができ、国がどう変わっていくべきなのかを考え始めるときである。

すべては情報を得て、準備を整え、賢明な決断を下していくこと次第なのだ。過ぎていく毎日の中で、何が今起きているのか我々がもっと学んでいけば、前に進む道が見つかる。答を求め解決策を探している優秀な人々が世の中にはたくさんいる。あなた自身がその一人なのだ。

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著者

ブレンダン・バレット

ロイヤルメルボルン工科大学

ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。