P2P輸送と物理的インターネット

共有経済の構築を祝うGlobal Sharing Day(世界共有の日)を記念して、今回は、ピア・トゥー・ピアの発想に基づく新たな解決法が人の移動や物品の輸送をどう変革できるのかを考察した刺激的な記事を掲載します。

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消費者は、自分が望めば、ほとんど全てのものをオンラインで購入できる。『エコノミスト』誌は最近、「レンガとモルタル造りの」書店の不確かな未来に関する記事を掲載した。『ガーディアン』紙は、イギリスのオンライン食料雑貨市場は「5年以内に2倍になる」と予測している。

こうしたあらゆる予測から判断すると、レンガとモルタル造りの店に残された唯一の価値とは、アートギャラリーと同様に、消費財を展示することだと思われる。しかしアートギャラリーでは展示物は売り物だが、店の場合、展示物はあなたが見て、触って、感触を確かめるためだけにある。つまり、店には売り物は1つもなく、あなたは後ほど自宅のパソコンかスマートフォンで買い物をするのだ。

この現象は、私が知っている多くの人々にすでに起きている。彼らは店に行って欲しい物を見つけると、その商品をオンラインで、(送料込みで)店よりも安い価格で注文する。

それは消費者商品のフェチ化だ。あなたが店頭見本を公の場で気に入っても、あなた好みの一品は街外れの暗い倉庫から自宅にこっそりと届けられる。残念ながら、実店舗の店主がこうした傾向から得るものといえば、古くなった商品と減り続ける利益だけだ。

物を配達する

困難に遭いながらも、Ocado(イギリスのオンライン食料雑貨店)は食料品の宅配市場をさらに制するために、巨大倉庫をもう一軒オープンする計画を立てている。テスコ、アズダ、セインズベリーズ、ウェイトローズなど、Ocadoには競合他社が存在する。こうした傾向がイギリスに限ったものかといえば、そうではない。世界各地の小売業者は食料品の宅配サービスを実施しており、ケンタッキーフライドチキンやマクドナルドでさえ行っている。アマゾンは注文当日のお届けサービスを計画しているほどだ。

どうやら私たちは、自動車の利用を減らすことで渋滞を軽減し、都市での可動性を高めようとすると同時に、そうやって減らした交通量を、配達の予約時間に間に合うように大急ぎで走る輸送車で満たそうとしているようだ(配達途中で死亡事故を起こす例もある)。さらに、公共交通と自転車が路上の車両台数を激減させたわけでもない。2010年、欧州連合27カ国の内陸部での旅客運送のうち、乗用車は84.1パーセントを占めていたのだ。

皮肉なことに、交通渋滞の解消策そのものが渋滞を引き起こすこともある。例えばパリのヴェリブ(パリ市が提供する自転車貸し出しシステム)は、より多くの人々に自転車の利用を促す優れた方法ではあるが、利用者全員が同じ場所に向かうとしたら、どうなるか? 全ての自転車がダウンタウンに集まってしまい、利用者が待つ空っぽの駐輪場まで自転車を戻すためのトラックが必要となる(ちなみに、最も効果的な自転車貸し出しシステムの1つはベルリンのシステムだ。駐輪場はなく、利用者は好きな場所に自転車を乗り捨てる方式だ)

物が届くのはいつ?

あちこちに走り回る配達トラックやスクーターの問題を解決するために、新たな方法が人気を集めつつある。カーゴバイク(運搬用自転車)だ。あなたも地元の街で見かけたことがあるかもしれない。しかし状況はさらに進んでおり、現在、European Cycle Logistics Federation(ヨーロッパ自転車物流連合)が結成されようとしている。

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都市の規模で考えた場合、この取り組みはクリーンで、騒音が少なく、健康で、安全な地域製品の輸送方法のように思える。特にベルリンでの「弁当箱」計画が、Center for Excellence in Logistics and Distribution (CELDi、物流と流通の卓越性を目指すセンター)が構想する物理的インターネット・プロジェクトに1歩近づいたことを考えれば、なおさらである。

物理的インターネットは、オープンソース型のハブを可能にする。オープンソース型ハブには物品が貯蔵され、そこに人々がやって来て、より目的地に近い別のハブに配達する。物理的インターネットによって、都市の中で生じている自然な動きを利用して、大規模な物流を管理しやすい小規模な単位に細分できる。そして都市の中の動きは予測可能であるため、ロンドンを拠点に活動するアーティストのダンジャ・ワシーリエフ氏は、都市の人々と交通の日常的な動きを利用して「寄生性」インターネットを創作した。彼の創作は、ピア・トゥー・ピア(P2P)の発想を都市の可動性に結びつけると何が達成できるかを示す、最も分かりやすい実例である。

国際輸送

P2Pのコミュニティは、CanUBringmmMulePiggyBeといったウェブサイトで、国際輸送の方法をすでに生み出している。これらのウェブサイトを利用すれば、すでに旅行の計画のある人が、目的地の街にいる人に、物を運ぶことができる。ウェブサイトをしばらく利用してみて分かったことだが、この種のサービスがなかなか広く浸透しないのは、人から人へ物が渡される際に問題が生じるためのようだ。

私は上記すべてのサイトを利用して、ヨーロッパ各地のさまざまな都市へ物を運ぼうとした(私は旅に出ることが非常に多い)。iPhoneを売るためにモスクワへ持っていく予定だったが、出発前夜になって購入予定者が心変わりしてしまった。また、ロンドンにやって来る人にチェコのビールを頼んだが、その人はルートン空港に到着した後、北に向かったため、私はビールを受け取れなかった。私は約12人のユーザーたちに、物を運んだり買ったりする提案をしてみたが、取引が成立した試みは結果的に皆無である。そこで私は、物品を最終目的地まで配達するのを補助するP2Pサービス、すなわち「物理的インターネット」が確立されないかぎり、上記のようなサービスは、定期的に外国を行き来する人々ではなく一部の旅行者の趣味であり続けるという結論に達した。

関係者間での相互運用

P2P輸送の分野では、すでに統合の兆しが見えている。フランスでは、自動車の相乗りサービスを提供する複数の組織が共通ルールを策定し始めた。さらにイギリスでは相乗りの標準化に向けた動きがある。利用者の大きなネットワークが構築されて、誰もが進んで自分の車両や荷物の中に物を入れて運んだり、誰かに届けたりする状況を想像してみてほしい。

その状況が実現すれば、ハチミツをギリシャからベルギーの友人のところまで運ぶという大がかりな作業が、幾つかの小さな作業に細分できる。例えば次のような流れを仮定してみよう。地元の(村の)ハチミツ生産者はオンラインで商品を販売し、自転車で駅に向かう人に商品を渡す。次に、電車に乗る人が商品を預かりアテネまで運び、アテネから別の旅人と自動車を相乗りする。今度はその旅人が商品を預かり、飛行機に乗るために空港へ向かう。空港に着いた旅人は出張でアテネに来ていた人にハチミツを渡し、ブリュッセルまで運んでもらう。ちょうど仕事を終えたブリュッセル空港の従業員が、ハチミツを街の中心地まで運び、最終受取人に渡す。商品を大急ぎで手に入れたいわけではない場合、この方法はうまくいく。

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この記事はOuiShareで掲載されたものです。OuiShareは「より協働的な経済への転換の促進に努める情熱的な人々(起業家、デザイナー、製造者、研究者、公務員、市民、その他多くの人々)のオープンでグローバルなコミュニティ」です。

翻訳:髙﨑文子

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著者

ジェフリー・アンドレオーニ氏はロンドンとアテネを行き来するライターである。彼の記事は芸術から冒険型旅行まで、幅広いテーマを取り上げている。