食料安全保障や資源の欠乏、生態系の劣化への不安が高まる昨今、パーマカルチャーとして知られるデザインシステムは、持続可能な解決策を模索するにあたって重要な役割を担っている。
パーマカルチャーは、有機農法よりはるかに包括的なものである。パーマカルチャーはオーストラリアが世界にもたらした最高の知識の1つだと断言する人もいる。というのも、すでに世界中で多くの人々が、家庭や庭園、農場、コミュニティについて環境的に持続可能な戦略を策定するのに、このシステムを活用しているからだ。
では、パーマカルチャーとは一体どのようなものなのだろうか? 環境問題の専門家であるポール・ホーケン氏は、「名もなき運動」や「もう1つの大きな力」について語っている。これは環境と社会の公正を求めて、世界で数百万人もの人々を巻き込みながら、急速に広がっている精力的な運動のことだ。こういった運動は社会の片隅で行われていて気づかれないことも多いのだが、恒久的に前向きな変化を起こそうとするものだ。パーマカルチャーは、まさにそのような運動の一部なのである。
1970年代初め、オーストラリアのビル・モリソン氏とデビッド・ホルムグレン氏がパーマカルチャーの概念を構築し、パーマカルチャーデザイン認定(Permaculture Design Certificate:PDC)コースの運営を始めた。それ以来、パーマカルチャーは世界160ヵ国以上に広がり、今では多くの場所、文化、言語において学ぶことができる。
パーマカルチャーの原則を用いてデザインされた。キャロライン・スミス氏の小規模農園
パーマカルチャーの原則は、都市部の食料生産、郊外の庭園、農場、コミュニティ、より規模の大きいバイオリージョン(生物域)、さらには社会システムに至るまで、多様な場面で応用されている。
モリソン氏とホルムグレン氏が提唱した概念の偉大な点は、自然の生態系、伝統的な小規模混合農業、環境に悪影響をおよぼさない技術、コミュニティ開発、社会的公正の理解を1つに統合し、自力で持続する人間の居住地を創成するために、構成要素が互いに関連しあうデザインの原則を体系的に示したことにある。パーマカルチャーでは、複雑さをはらむ全体像に目を向けて、各要素間につながりを持たせる。複雑な全体像に取り組み、注意深く観察し、それに応じてデザインを考え抜いてこそ、生産性の高い関係を完成させられるのだ。
開発の初期においては、パーマカルチャーは農業と食料のシステムに重点を置いていたが、今日、そのデザインの原則は、都市部の食料生産、郊外の庭園、農場、コミュニティ、より規模の大きいバイオリージョン(生物域)、さらには社会システムに至るまで、多様な場面で応用されている。パーマカルチャーのシステム構築に用いられた原則は、倫理・環境・社会の公正の枠組みに基づいており、以下の3つの部分から成る。
∗ 地球に対する配慮:すべての生活系の福利に寄与する。
∗ 人々への配慮:人々が自らの福利に必要な資源を入手できるように寄与する。
∗ 余剰物の分配。これは「余剰物の還元」「余剰物の再投資」と言い換えられることもある。
すべての問題には解決策がある
パーマカルチャーは科学に根ざしたものだが、土着の「暮らしの」智恵も同じ程度に尊重しており、人々には自らの風土に合わせてパーマカルチャーを取り入れ、また直感を信じるように奨励している。
しかし、先進国に住む私たちの多くは、自分や家族、コミュニティが自活できるとはもはや思えなくなっている。大抵のものは買ってすませ、自らの手で作り出すものはほとんどない。多くのコミュニティは孤立傾向の中でもがいているが、コミュニティを構成するメンバーのニーズに応えることもできなければ、自らの問題を解決することもできていない。
技術頼みで自らの問題を解決するのが、私たちにとって当たり前になっている。それらの解決策は文化やコミュニティとは関連性がないことが多い。それでも、私たちは技術を信仰しているので、影響としてその後にしばしば残される問題にどれほどの対価を支払うことになるかなどには目を向けない傾向がある。だが実際、過去50年間、工業化された農業に依存してきた結果、土地はやせ、貯水機能と生態系は破壊された。その一方で、多くの人々は、自分たちが食べる作物を育てたり、自分たちの身を守る避難場所を作ったりするのに必要な知識を持たなくなってしまった。
写真:キャロライン・スミス
パーマカルチャーは科学に根ざしているが、土着の「暮らし」の智恵も等しく尊重しており、人々には自らの風土に合わせてパーマカルチャーを取り入れることを奨励している。
「Permaculture Pioneers: Stories from the New Frontier (パーマカルチャーの先駆者たち:ニューフロンティアの物語)」は、オーストラリアのパーマカルチャー実践者25人の体験記である。性別も年齢もさまざまだが、いずれもパーマカルチャーに目覚め、より持続可能な世界を築くことに尽くしている人々だ。
人は普通、生態系で先駆者になる種を「雑草」や「害虫」だと考える。それらは耐性のある植物や動物で、独自の特質を発揮して、劣化した生態系においても生存を続け、他の種が後に続くよう、生態系を整備するのに貢献する。本書の寄稿者たちもまた先駆者であり、背景は多様ながら、いずれもパーマカルチャーの実践を通して持続可能な将来に向けて取り組むことを選択した素晴らしい人々だ。多くの人々と同じように、彼らもまた、大量消費から、社会的公正と環境の持続可能性に基づくものへ、文化および個人の価値観を根本的に変革することが必要だと認識している。
体験記では、実生活で達成できたこと、多くの失敗、ぶつかった困難などが綴られている。パーマカルチャー実践者だけでなく、私たちは誰でも、そこから何かを学ぶことができる。パーマカルチャーがこれほど支持されるようになった理由の1つは、考え方やアプローチが常識的なことにある(もっとも、この常識は、一部の人が語っているように最近では「常識破り」で、むしろ革新的に見えることすらある。)
例えば、庭にカタツムリが大量発生したら、問題はカタツムリが大量発生したことではなく、それらを食べるアヒルが十分にいないことなのだ。ビル・モリソン氏が言うように、庭にアヒルを放せば、その効用は、バランスを取り戻して、カタツムリの数を再び減らせるだけではない。食肉、卵、羽毛、肥料が得られる、地面に落ちた果実はきれいになくなる、草や雑草、昆虫などの害虫が減るといったメリットもあるのだ。
庭にカタツムリが大量発生したら、問題はカタツムリが大量発生したことではなく、それらを食べるアヒルが十分にいないことなのだ。
カタツムリの大量発生に対して、たとえば駆除剤を使うことは、エネルギーを必要とする持続不可能な対策だ。一方、パーマカルチャーのアプローチでは、カタツムリの数が多すぎるのは、システムのバランスが崩れているからだと考える。つまり、より生産性を高めるために、デザインを考え直す機会になる。モリソン氏は「問題が解決策を示してくれるのです」と述べている。
「Permaculture Pioneers (パーマカルチャーの先駆者たち)」の寄稿者には、共同提唱者であるデビッド・ホルムグレン氏も含めて長年パーマカルチャーを実践してきた人々から、元気あふれる若者世代までが名を連ねる。その声からわかるのは、パーマカルチャーにはさまざまなやり方があるということだ。彼らは皆、ごく普通の人々で、食料安全保障、ピークオイル、気候変動、生態系の崩壊といったことに対する懸念が渦巻く世界をなんとかしようと奮闘している。彼らは、どのようにパーマカルチャーを実践すれば、誰でも心配するのをやめて積極的に行動できるかを説明し、また、解決策を実行するにあたっての戦略的かつ実践的なスキルを読者に伝授している。
本書の主要なメッセージの1つは、普通の人でも専門家や政府の誘導を待つ必要はないということだ。パーマカルチャーの先駆者たちの経験からわかるのは、私たちは誰でも勇敢に、驚くほど創造的になれるということだ。逃げられない流れに身を任す他に方策がないのではない。自らに力を与えるツールは、私たち全員が手にしている。
偉大なる環境神学者のトーマス・ベリー氏いわく、私たちは人間を取り巻く状況が「ひたすら良くなる」ことを目指して西洋史を築いてきたはずだったが、私たちがたどり着いたのは素晴らしき世界どころか不毛の世界だった。目を大きく見開いて取り組もう。パーマカルチャーは素晴らしき世界を創成するきっかけになるはずだ。
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ケリー・ドーボーン氏およびキャロライン・スミス氏が編集を手掛けた「Permaculture Pioneers – Stories from the New Frontier(パーマカルチャーの先駆者たち:ニューフロンティアの物語)」は ここからオンラインで購入が可能です。本書の印税は寄稿者および編集者からパーマカルチャー・パイオニアズ・ファンドに全額寄付され、オーストラリア国内外で適切なパーマカルチャー・プロジェクトを支援するために用いられます。
翻訳:ユニカルインターナショナル