害虫の大量発生迫られるGM綿の見直し

一連の実地調査によって、遺伝子操作された綿花を栽培する農場周辺で害虫が爆発的に大量発生していることが明らかになり、科学者たちはGM(遺伝子組み換え)作物の長期的なリスクを再評価すべきだと訴えている。

この予想外の害虫大発生は、GM穀物の影響をより正確に予測し、その栽培がもたらす有害な波及効果をいち早く突き止める方法が「緊急に必要であることを強調している」と研究者たちは述べている。

中国北部では何百万ヘクタールにも及ぶ農地が害虫の大発生に見舞われている。これらの農地では、アメリカの大手バイオ企業・モンサント社が開発した新種のBt綿(Bt菌の遺伝子を組み込んだ遺伝子組み換え綿)が広く栽培されている。

約200種の果物、野菜、トウモロコシ等の作物を壊滅させる可能性もあるカメムシの大量発生は、綿農家が従来の綿花から遺伝子組み換え種への切り替えを進めた過去10年間のうちに急激に悪化した、と科学者は指摘する。

10年間の調査

綿農家は従来、綿花に殺虫剤を散布することで害虫であるオオタバコガの幼虫を駆除してきた。しかし、Bt綿にはそれ自体に独自の殺虫作用があり、農家は殺虫剤使用量を減らすことでコストを削減することができる。

しかしながら、中国の6箇所の主要な綿栽培地帯を対象に実施した10年間の調査で、殺虫剤の散布を減らしたがために今度はカメムシが増殖し、綿畑や周辺の農地に寄生し始めたことがわかった。

カメムシの大発生は、調査対象の地域にある1,000万以上の小規模農家に壊滅的な被害を与える可能性があり、その範囲は2,600万ヘクタールの作物に及ぶと考えられる。

「私たちの研究結果が強調しているのは、GM作物栽培がもたらす影響をより深く理解するための生態系アセスメントと景観レベルでのモニタリングの緊急の実施だ」(ウー・コンミン博士、北京・中国農業科学院)

本調査結果は、農家が殺虫剤使用量を減らしたために生じた予期せぬ結果としての害虫大発生をまとめた初の報告書であり、コストを削減し、作物の環境負荷を軽減すると考えられていたBt綿の実態を浮き彫りにしている。研究は中国農業科学院のウー・コンミン氏の下で行われ、アメリカのサイエンス誌に掲載された。

私たちの研究結果が強調しているのは、GM作物栽培がもたらす影響をより深く理解するための生態系アセスメントと景観レベルでのモニタリングの緊急の実施だ」とウー博士はガーディアン誌で述べている。

長期的コスト

環境活動家たちは、企業が農家に植えつけたイメージとは違い、この調査結果はGM作物が環境の救世主ではないことを裏づけていると主張している。

「これは環境だけではなく、農家のコスト負担を考えても大問題である。GM作物はコストと環境負荷を軽減するはずだった。しかし、そのどちらも実現不可能に見える。なぜなら、自然とは時と共に変化するものであり、この問題は起こるべくして起こったのだ。このような予期せぬ結果によって、収穫で得られる利益も相殺されてしまうだろう」とNGOフレンズ・オブ・アース(Friends of Earth)のキルタナ・チャンドラセカラン氏は述べている。

「GM作物への依存は持続可能ではない。私たちは地域の条件に適した地元作物の栽培に立ち返り、一貫した害虫管理システムを築き上げなければならない」(キルタナ・チャンドラセカラン氏、フレンズ・オブ・アース)

チャンドラセカラン氏によれば、過去10年間のうちに、インドやその他各地の農家は、除草剤抵抗性のGM作物がさらに殺虫剤への耐性を持つことで、一層収穫による利益を減らしていることに気付いてきている。「GM作物への依存は持続可能ではない。私たちは地域の条件に適した地元作物の栽培に立ち返り、一貫した害虫管理システムを築き上げなければならない」と同氏は言う。

世界中の多くの国々がGM作物を受け入れる一方で、抗議や破壊行為、近年の作物実験の結果、多国籍企業はイギリスにGM作物を根付かせることはできなかった。イギリスでは、除草剤抵抗性のGM作物に関する大規模な実地試験が2003年に行なわれ、殺虫剤使用の変化が雑草や昆虫に影響を与え、さらには地方の野生生物にまで害を及ぼす可能性があることが明らかになった。

ウー博士の研究チームは1992年から2008年にかけて中国北部の河南省、河北省、江蘇省、安徽省、山東省、山西省の6省38の農場における殺虫剤使用を追跡した。また、これらの農場におけるカメムシの数を1997年から2008年の間記録した。

GM作物に切り替える以前は、農家は広域殺虫剤を使ってオオタバコガの幼虫やその他の害虫を駆除していた。しかし、Bt綿の栽培が広がるにつれ、殺虫剤散布が減り、カメムシを含む他の種類の害虫が増加の一途を辿った。

10年間にわたる調査の中で、綿畑はカメムシの墓場から害虫の発生源へと変貌した。害虫の数は急激に増え、近隣の農地に実る様々な穀物に被害が飛び火している。

Bt綿は、バチルス・チューリンゲンシス菌(Bt菌)と呼ばれる土壌のバクテリアが作り出す自然の殺虫効果のために遺伝子操作された。その毒素はとりわけ綿の収穫に大打撃を与えるオオタバコガを標的としている。

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この記事は2010年5月13日木曜日にguardian.co.ukに掲載されたものです。

翻訳:森泉綾美

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著者

イアン・サンプル氏は2003年よりガーディアン紙の科学担当記者。以前はニューサイエンティスト誌のジャーナリストであり、英国物理学会のジャーナル編集者としても活躍した。ロンドン大学クイーンメアリー校で生体材料分野の博士号を取得。