環境保全のための植林には注意が必要 – 問題が増える可能性も

世界のリーダーによると、私たちは気候変動によって「後戻りできない段階」に一気に近づいている。私たちはまた、第6次大量絶滅にも直面している。さらに、増え続ける食料生産需要や都市化、経済開発によって、大規模かつ広範な土地転換がもたらされ、全世界の土地劣化が危機的状況に達している。当然ながら、これらの問題はすべて相互につながっている。

世界中で、深刻な干ばつと水不足、土壌浸食と汚染、土壌有機物と養分の枯渇、酸性化と塩害、水循環とバイオリズムの混乱、そして生物種の絶滅が起きている。こうした問題によって、地球全体の限りある土地資源はかつてないほどの危機的な状況に陥っている。驚くべきことに、世界の土地の33%が中度または重度の劣化状態にあり、回復が急務となっている。

土地劣化は、地球温暖化を助長する大きな要因として世界的に認識されている。「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)」の2018年の推計によると、人為的な温室効果ガス排出量の10%は、森林破壊に起因している。

この数字さえ、過小評価であると言えるかもしれない。土壌は、森林破壊の最中およびその後も影響を受け、それまで土壌中に貯蔵されていた炭素が後に二酸化炭素として放出されることで、さらに地球温暖化が進むからだ。大気の3倍に上る炭素を貯蔵できる土壌は、気候変動の緩和に欠かせない役割を果たす。

土壌と木質バイオマスは炭素を貯蔵し、すべての生物の生存に欠かせない数多くの生態系サービスを提供できる高い潜在能力と重要性を持つ。そのため植林は、地球温暖化を2˚C未満に抑えるための費用対効果が最も高い方法として、また、土地劣化を予防、削減、逆転させるとともに、紛争や移住を回避するための緊急優先課題としても推奨されることが多い。植林に対しては、各国の政策立案者からも多くの支持が集まっている。

水の問題

土地劣化を回避する流れができつつあり、土地の価値が再び認識されているのは素晴らしいことだ。しかし、植林のやり方については慎重を期さなければはならない。タダより高いものはないからだ。

例えば、一定の気候状況や生態学的状況に置かれた土地では、生育を維持するための水の量が極めて限られている。原則的に、樹木の成長に使える水が多ければ多いほど、樹木は大きく育ち、炭素も多く貯蔵できる。水と炭素循環の間には明らかに密接な関係がある。

しかし、当然のことながら、湿潤地域でない場所では水が無限にあるわけではない。植林によって新たな森が生まれることで生態学的水需要が高まり、生態系の持続可能な供給量を上回れば、社会的な水需要を満たすことができなくなるおそれがある。これは水利用の紛争や水不足の原因となりかねない。

これは単なる仮定の話ではなく、壮大な植林プロジェクトに乗り出している世界のさまざまな場所で、この問題はすでに表面化している。

渇いた樹木

例えば中国では、国と地方自治体が1970年代後半以降、植林に巨額の投資を行ってきた。現在、中国はその森林被覆率を2020年までに23%、2035年までに26%、2050年までに42%へと広げようとしている。これは国だけの取り組みではない。電子商取引の巨大企業とモバイル決済のグローバル・リーダーである民間企業のアリババとアリペイは、2,800万米ドルを植林プロジェクトに投資することを目指している。

その結果、アジア太平洋地域の総森林面積は、造林、すなわち新たな森林の形成によって、25年間で1,700万ヘクタール以上も拡大した。こうした新たな森林のほとんどは、国をあげて植林投資を行ってきた中国国内に存在する。その対象の一つとなった黄土高原は、フランスに相当する面積を有し、森林被覆率が2001年から2016年にかけて、5万平方キロメートルから10万平方キロメートルへと倍増した。

しかし、中国が緑化する中で、淡水系の健全性は悪化している。私が同僚とともに行なった中国の植林活動に関する最近の調査では、土壌保全と炭素隔離を目的に、自然の草原をハリエンジュ(生育の速い外来種)の人工林に変えたところ、管理が伴わなかったことで、入手できる水の量だけでなく水循環全体が大きく変化してしまったというエビデンスが得られている。

中国での植林の大半を占めるハリエンジュ林は、自然の草地よりもはるかに多くの水を必要とする。バイオマス成長のために年間降雨量(雨の多い年で700ミリ)の92%を使ってしまうため、人間が利用できるのは年間降雨量のわずか8%のみとなる。その結果、地下に浸透したり、河川や湖沼に流入したりする水が足りなくなってしまう。私たちの調査では、降雨量が平年並みまたは平年を下回る年に、深部浸透(根域から地下水へと流入する水)がゼロに近くなる可能性があることがわかった。

私たちの調査結果は、植林が中国北部の河川流量と淡水の入手可能性を大きく減少させていることを示す多くのエビデンスを裏づけている。森林植林によって土壌水分が枯渇し、水消費の増大に伴い表面流失と河川流が減ることで、水不足を深刻化させるからだ。

中国第2の河川(黄河)とその支流の流量は、植林以前の時期よりも大幅に減少している。黄河の健全性と地域的な水の安定確保にとって由々しき事態だ。黄河流域に暮らす1億800万人とさらに下流域に暮らす4億人の生活や健康状態に影響が出かねない。

無害な再自然化を

水の管理と供給に関して植林が果たす役割について、科学者や土地管理者、政策立案者、一般市民の間では誤った認識が続いている。中国の植林への取り組みは、他の国が造林のあり方を考える際の教訓とすべきである。土地劣化や水不足、干ばつの問題を抱える地域で、世界レベル、国レベルの長期的な緑化への取り組みが、地方、地域レベルでの水の安定供給を損なうことがあってはならないからだ。

再自然化と植林は、土壌浸食を食い止め、土壌有機物と養分を豊かにし、生物多様性を保全するとともに、炭素貯蔵を増大させるための善意の取り組みである。しかし、水をあまり必要としない樹木を選び、森林管理を改善することで、樹木の水需要を減らし、水の安定確保を図ることが求められる。

著者

ルールー・チャン氏は、国連大学物質フラックス・資源統合管理研究所(UNU-FLORESSoil and Land-use Management Unit(土壌・土地利用管理ユニット)の博士課程研究員であり、ドイツのドレスデン工科大学で環境保護と地域計画の工学修士号を取得している。博士課程では、土壌・土地管理と気候変動が水の収支や流動ならびにさまざまな空間規模における生態系の給水サービスに与える影響の評価(統計的アプローチと水文モデルの作成および実施を含む)にとくに重点を置いた研究を行っている。