古いことわざの多くは今日でも通用する。しかし、数が多いことを「海にいるたくさんの魚」と喩える英語のことわざは例外だ。
地球上の大型魚の90%はすでに絶滅しており、今後も今のような漁業傾向が世界的に続けば、2050年までに天然魚は枯渇するだろう。
水産物への世界需要は増加の一途をたどり、記録的な乱獲とそれ伴う打撃を海洋生態系に与えている。無制限かつ多額の助成を受けている商業漁業は、環境保全をかえりみない破壊的威力を持つ技術や、怠慢な漁業管理、手薄な政府取り締まりの下、この需要の伸びに応えている。
気候変動の影響も相まって、世界の水産資源はドキュメンタリーのタイトルにもあるように『The end of the line』つまり最終段階を迎えようとしている。
このドキュメンタリー映画は、我々が努力すればこの環境破壊を回避できることを明らかにしている。持続可能な漁業管理を安定的なものにする世界的な動きが起こっており、あなたにも是非その一翼を担ってもらいたい。
海の管理人
健全な天然魚群は、多様な海洋生態系や活力ある海にとって重要である。持続可能な海洋生物は食糧安全問題でもある。途上国では26億以上の人々が、動物性タンパク質の約20%を魚から摂取している。
アメリカのモントレー湾水族館のような支援団体の取り組みを補完する形で、これまで水産業には無かった国際的な持続可能性な漁業のための基準を策定するため、1997年に海洋管理協議会(MSC)が設立された。
国際的な非営利団体 であるMSCは現在5大陸で、 漁業認証とエコラベルのプログラムを運営し、消費者を含めたサプライチェーン上のすべての人々が環境に配慮した水産物を選択できるようにしている。これが可能なのは、持続可能な漁業基準を順守する水産業者を第三者機関が認証しているからだ。
2007年にMSC日本事務 所が設立されて以来、プログラムディレクターの石井幸造氏は水産業者、加工業者、卸業者、小売業者と提携し、持続可能な漁業の普及に積極的に取り組んできた。
もともと魚好きな石井氏は、日本の水産業を担う人材育成を目指す水産大学を卒業した。 可能な限り持続可能な水産物を選択している同氏は、日本の人々にも環境に配慮した水産物を買うように働きかけている。
「日本人は 非常に多くの魚を食べます」昨今のインタビューで石井氏は我々にこう述べた。「もし日本人消費者が購買動向を変えたら、これは世界の漁業に大きな影響を与えるでしょう」
意識的に消費するためには、店頭でMSCをはじめとするエコラベルを探し求める必要がある。しかし、そのようなラベルが買い物や外食の際に見つからない時は、携帯用ポケットガイド(居住地域別)を参照するか、魚屋あるいは店員 にちょっと質問をすれば、どんな種類の魚を避けるべきかを教えてくれる。
日本で拡大
「水産業界のすべての利害関係者は、持続可能な漁業の安定化に長期的関心を寄せています。特に小売業者にとって、安定した魚の調達は非常に重要です」と石井氏は言う。
そのため、より多くのスーパーマーケットチェーンがMSCと提携し、認証された魚を調達し販売している。2007-2008年には、MSC認証を利用する企業数とMSCラベル付き商品の合計は見事に倍増した。(下記グラフご参照) MSC年間報告書(PDF)によると、日本では同期間にMSCラベル付き商品が614% 増加 した。
出典: 海洋管理協議会(MSC) 2007/2008 年次報告書
十分な国際的効力を欠く中、MSCの自主的な基準は、対象となる種の持続可能性を確保するため厳しい原則の下で運営されている。また、漁業における「巻き添え被害」とも言える「混獲」により不注意に捕獲された他種の持続可能性の確保にも努めている。
「混獲された 魚種の資源数が危険にさらされるような場合は、認証を受けることができません」と石井氏は言う。このような状況は徐々に改善されつつあるものの、漁業で生計を立てている人々は経済面と環境面の両方の影響を受け、生き残りをかけている、と同氏は考えている。
「漁業者の中にはこの問題を認識していても、経済的に苦しくなるため、(持続可能ではない)漁業を続けざるを得ない人たちもいます」と石井氏は嘆く。
「MSCがやろうとしていることは、管理の行き届いた持続可能な漁業を営むための方法を提供し、世界に誇れる例となってもらうことです」
拡大する役割と責任
ユニリーバが創設者の1社であることから、MSCは食糧産業に密接に関連しているとして非難を浴びている。これまでOurWorld2.0の記事に寄せられたコメントにも見られるように、環境問題の解決に向けて、その元凶としばしば非難される企業自身が自己責任として担うべき役割を負うべきと考える人々がいる。
環境団体のグリーンピースは、 漁業認証 プログラムを一切支援していない。グリーンピースはMSCが国連食糧農業機関(FAO)のエコラベルガイドラインに準じているにもかかわらず、MSCに対して批判的である。
しかし、 海洋関連の厳しい規制がない中、エコラベルの他に、持続可能な漁業を促進する代替案あるのだろうか?エコラベルの利点は、我々消費者が最終決断をできるところにある。
捕鯨や養殖(養殖魚とは一般に、小さな囲いの中で資源集約的な餌を与えられ、管理された条件の下で育てること)のような論議を呼ぶ他の課題について尋ねられると、MSCはこのどちらも対象には含めていないと石井氏は言う。
世界自然保護基金が推し進めている、MSCをモデルにした養殖管理協議会を設立しようという計画が賛否両論を呼んでいる。そのような動向は「地元の意向を考慮せず」「環境面・社会面に被害をもたらす養殖を正当化する」と批評家たちは指摘している。
双方向の流れ
石井氏へのインタビューを始めた際、日本で彼一人だけが、利益追求産業の関係者たちを相手に、自主的に基準を受け入れるよう説得することの難しさについて語るだろう、と私たちは思っていた。
しかし、私たちの予想に反し、小売経営者から芸術家に至るまで、熱烈な魚好きの人々が自主的にMSCに近づき、意識を高めるために独自のイニシアチブを取り始めている。
魚の乱獲やそれに関するMSCの取り組みについて触れた、主に子供向けの幅広い教育的ツールもある。新しく支持者を確保するため、活動家たちは「エデュテインメント」(Educational Entertainment—教育的なエンターテイメント)というやり方を用いて、深刻な環境メッセージを賢く、面白い方法で普及させようとしている。
ある漫画家がMSCの取り組みを『築地魚河岸三代目』という漫画本に描いた、素晴らしい例もある。(上記ご参照)
この漫画は、日本の漁業に携わる人々が乱獲問題に目覚め、持続可能な方法で漁業を営み、自分たちの水産物にエコラベルを付けるようになるというストーリーだ。
魚のいない世界
魚のいない世界を想像できるだろうか?
石井氏の答えは「ノー」だ。そのため同氏は最後のメッセージで、他人が変化を起こすまで待つべきでない、と示唆している。
「これらの活動は消費者の支持なしには成功し得ません。消費者が小売業者に持続可能性やMSCラベル付き商品について尋ねてくれるように、働きかけたいと思います」
「意識して消費すること」は、今年から始まった6月8日の世界海洋デーの主要メッセージの一つでもある。この日は我々一人一人と海との繋がりを祝うものだ。
海がもたらす食とライフスタイルの恩恵を享受しながら、我々には後世の人々に健全な海を残さねばならない責任がある。
あなたの国でどの水産物がMSC認証を受けているか、そしてそれをどこで購入することができるかは、こちらをクリックしてご覧ください。
MSCについて興味のある方は、下記のビデオをご覧ください。