森林破壊のために炭素を守る?

開発途上諸国の地域社会が地元のために資源を必要とし、しかも工業諸国の欲望にさらされている状況を受け、REDDプラスのメカニズムをめぐる議論が高まっている。REDDプラスは、国際連合森林減少・劣化による温室効果ガス排出削減プログラムや、世界銀行の森林炭素パートナーシップ基金などが開発と支援を行っているメカニズムだ。

工業諸国の企業や政府は、グローバルサウスにおける森林破壊を食い止めるための「貢献」方法として、公的資金か炭素市場のいずれかを利用してREDDプラスのプロジェクトや同様の基金を後援している。しかし、森林破壊の根本的原因は放置されたままであり、問題は悪化の一途をたどっていると多くの人々が断言している。例えばこちらの新しい研究が示すように、アマゾンの陸上バイオマスの3分の2は今世紀後半までに失われる可能性がある。

これらの批判の1つである、カーボン・トレード・ウォッチによる新しい報告書では、土地と資源の囲い込みという視点からREDDを詳細に考察している。土地の囲い込みは基本的に、地域住民の慣習的な土地権の喪失を伴い、「私有化、規制緩和、自由化という政策」につながる。そうした政策は土地を資産に変え、伝統的な土地所有者が土地を(利用できたとしても)以前と同じようには利用できなくしてしまう。

この報告書は「Protecting carbon to destroy forests: Land enclosures and REDD(森林を破壊するために炭素を守る:土地囲い込みとREDD)」と題され、Transnational Institute(トランスナショナル研究所)、ベルリンに本部を置くCenter for Research and Documentation Chile-Latin America(FDCL、チリ・ラテンアメリカ研究記録センター)、適正な食料への権利に主眼を置く国際的な人権団体であるFIANが編集した。

「REDDプラスは森林破壊を食い止めない」と同報告書は主張する。REDDは森林破壊の根本的原因に取り組むのではなく、ある地域での環境破壊は他の地域で「相殺」可能だとする主張を推し進める。そのため、REDDは森林破壊の根本的な原因を強化するのだ。

REDDは企業に、行動を改めさせたり地域の取り組みを支援させたりする圧力をかけず、むしろ森林を破壊する人々に対し、その行動が環境に『優しい』あるいは『カーボンニュートラル』として正当化する手段を与えている。

報告書の指摘によれば、REDDは企業に、行動を改めさせたり地域の取り組みを支援させたりする圧力をかけず、むしろ森林を破壊する人々に対し、その行動が環境に『優しい』あるいは『カーボンニュートラル』として正当化する手段を与えている。REDDプラスは、森林地を最も強硬に守ってきた多くの地域団体の協力者としての立場からは距離を置き、土地保有制度に対する企業の圧力に絡んだ不正な現実に関する議論を沈静化させる傾向がある」

報告書はREDDにおける既得権益の一部を考察している。すなわち、単一栽培のプランテーション、大規模なアグリビジネス、産業的森林伐採、交配種子、採掘産業、金融投資銀行に関連した企業についてだ。REDDはこうした企業に対し、森林破壊の責任を逃れる「グリーンな口実」を提供する。「結果として、このような構造的特性への『解決策』はない」と報告書は主張する。「その特性はREDDプラスに先天的なものだからだ」

「REDDプラスに働きかけようとする団体は、例えば税金やその他の公的資金のように、炭素市場から独立した金融メカニズムを使えば問題を解決できると信じている。本報告書は、歴史的背景や現場での経験を提示し、REDDプラスは土地および資源の囲い込みを運用の中心に置いているため修正は不可能だという主張を促進することを目指す」

報告書はフォルカー・フランツ氏が、ヨーロッパの企業ロビー団体であるビジネスヨーロッパで上級環境アドバイザーを務めていた頃にインタープレス・サービス(IPS)に語った発言を引用している。フランツ氏は、森林クレジットのさらなる利用は「世界を救うために取るべき手段です。それによって人々が利益を得るのなら、インドネシアやブラジルの森林破壊を食い止められる限り、利益を得ればいいのです」と語った。カーボン・トレード・ウォッチは、この「明白で政治色のない『論理』は(意図的であるかどうかはともかくとして)、主に先住民族、小規模農家、伝統的コミュニティ、森林に依存した民族から資源を抽出し強奪することに依存したシステムから、利益蓄積のプロセスを切り離そうとしている」と指摘する。

現実には、REDDのプロジェクトが実施されると同時に、グローバルサウスでアグリビジネスの大規模な拡大が進んでいる。2012年、非営利団体のGRAINが発表した一連のデータには、総面積が約3500万ヘクタールとなる416件の外国投資家による土地収奪事例が記録されている。アグリビジネス企業は2008年の食料・金融危機以来、その規模を急速に拡大している。

危険なのは、REDDが森林に貯留された炭素に注目し、森林と土地へのより広範な権利から切り離して炭素を見ている点だ。

その結果、食料生産の管理は地域社会から奪われつつある。報告書でGRAINは次のように述べている。「記録された298の土地収奪者のほとんどはアグリビジネス部門だが、金融機関と政府系ファンドは契約事例の約3分の1を占める。さらに、アグリビジネス業界と金融業界が重複している事例が多い。例えばデータによると、世界最大のアグリビジネス企業の1つ、カーギル社は、傘下のヘッジファンド企業ブラックリバー・アセットマネジメント社を通じて何十万ヘクタールもの土地を取得していることが分かる」

REDDの推進者は、地域社会と先住民族が土地への権利を確保するのにREDDが役立つと主張している。しかしカーボン・トレード・ウォッチは次のような懸念を示している。「炭素クレジットは、他のタイプの土地囲い込みを定着させる大きなインセンティブとなりそうだ」。危険なのは、REDDが森林に貯留された炭素に注目し、森林と土地へのより広範な権利から切り離して炭素を見ている点だ。人工衛星や赤外線技術の発展に伴って、REDDが計測する炭素には「ダークサイド」があると、カーボン・トレード・ウォッチは主張する。

「森林バイオマス(樹木や植物)の変化を検知できる技術によって、バイオマスだけではなく森林全体の監視が確実に強化されるようになる。同時にそこに暮らす地域住民の監視も強化される。このように新たな資産が関わるようになるため、森林保護は強化されて炭素を『守る』ようになる」

この種の問題はすでに、ザ・ネイチャー・コンサーバンシーによるブラジル南東部グアラケサバでのREDDプロジェクトに現れている。同プロジェクトは地域社会の生活に深刻な影響を与えている

カーボン・トレード・ウォッチは、南半球諸国に新自由主義経済を確立させるために押しつけられた構造調整プログラムとREDDには類似点があると指摘する。REDDに付随した「調整」とは、環境、土地、森林に関する法律に関連したもので、国は炭素クレジットを確実に提供できるように法律制定を奨励される。

「このようにしてREDDプラスは、排斥と人種差別、および不正な法的枠組みに基づいた歴史的不平等を強める。その結果、森林破壊や森林劣化の差し迫った問題を、企業のコントロールの下に置かれた炭素クレジットの供給と需要に委ねるのだ」

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この記事はREDD Monitorに掲載され、クリエイティブ・コモンズのライセンス3.0を付与されたクリス・ラング氏による記事の修正版です。

翻訳:髙﨑文子

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森林破壊のために炭素を守る? by Chris Lang is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.
Based on a work at http://www.redd-monitor.org/2013/05/06/protecting-carbon-to-destroy-forests-land-enclosures-and-redd/.

著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。