戦争中の民間人保護:男性たちを忘れてはならない理由

強制労働、臓器売買、性的奴隷といった 紛争関連のリスクは戦時中のすべての民間人に対する脅威であるが、脆弱性は女性や子どもだけのものだと見なされがちだ。男性を保護しなければならないという考え方は、社会や、一部の男性自身にも受け入れがたいことが多い。男性は潜在的な被害者であるにもかかわらず、危機の際に保護活動の対象と「見られない」危険性がある。難民や移民、ホームレス、多様な性的指向、性自認、性表現(SOGIESC)、黒人やその他の人種的マイノリティグループの人々など、疎外されたコミュニティの男性は、リスクが特に高くなる可能性がある。

女性と子どもだけに焦点を当てると、脆弱性と多様性のより包括的な分析が妨げられる可能性があることが私たちの調査で分かった。すなわち、男性が直面する現代の奴隷制のリスクが蔓延していても、データ、慣行、政策、資金調達においてほとんど認識されないのである。

近年、ウクライナやハイチからパレスチナやスーダンに至るまで、さまざまな紛争環境でこの現象が見られる。そこでは、支配的なジェンダー規範や「被害者」に関する一般的な認識、そして排他的な保護措置が重なり合い、男性を人身売買業者や犯罪組織の餌食にさらしている。

ジェンダーに基づく脆弱性

ハイチとポーランドの国際的な人身売買防止政策と調査を分析したところ、男性の保護ニーズが見過ごされた事例が数多く見つかった。例えば、ヨーロッパ全域で、ウクライナから避難してきた女性や子どもが人身売買や搾取に遭う事態を特定し減らすための迅速な対策が講じられたが、避難してきた男性については、たとえウクライナの徴兵免除者でも同等の措置がすぐに取られることはなかった。

EUの一時的保護指令の下では、より緩やかな本人確認要件で銀行口座を開設できるようにすることで、主にウクライナ人女性への支援が行われた。基本的な銀行取引にアクセスする権利は、搾取や現代の奴隷制に対する重要な防衛手段となるのである。ところが、男性は16歳から60歳まで徴兵制の対象であるため、この支援策では優先されず、さらに、ウクライナから逃れてきたウクライナ国籍以外の男性は当初は支援対象に含まれていなかった。

その結果、男性は暗号通貨や規制のないオンライン取引など、従来と異なる金融慣行に頼ったためにリスクにさらされたことが、私たちの調査で明らかになった。2023年までに、ウクライナの人身売買ホットラインに問い合わせた男性、特に「外国人」が大幅に増加し、保護措置の必要性が浮き彫りになった。

深刻な環境的、社会的、政治的危機が長期化しているハイチに関する最近の報告によると、同国の青少年は強制的な犯罪的搾取に遭い、また、驚くほど高い割合で性的暴力を受けているようである。多様なSOGIESCの個人や少年がギャングのメンバーから性的暴行を受けた事例を、国連も報告している。

しかし、私たちの調査に参加してくれた主要な回答者は、人身売買防止政策が女性と女児にのみ焦点を当て、多くの男性被害者は支援を受けずに放置されていると述べていた。ハイチ社会では、人身売買の状況において女性をより傷つきやすく、暴力を受けやすいとみなす傾向があるため、男性の窮状が目立たなくなるとされた。参加者の中には、この調査が男性に焦点を当てていることに驚いた人もいたが、それは多くの場合悪意からではなく、これまで女性が優先されていたためである。

現在パレスチナでは、すべての民間人に対する反奴隷制保護対応が非常に困難であり、戦争が続く中で搾取のリスクが非常に高くなっている。戦争が勃発すると、男性が大多数を占めるパレスチナ人労働者は、もともと労働搾取が懸念されていたイスラエルと占領地の肉体労働および農業部門から追放された。そして雇用主は、海外からの労働者で欠員を埋めようと躍起になったのだ。

このような行動が労働者とその家族を困窮に陥れた。ガザが広範囲に破壊され、食料や援助の入手が困難になると、状況はさらに悪化した。多くの男性や少年たちは、たとえ負傷したり命を危険にさらしたりしても、食料や援助の獲得は自分たちの責任だと認識している。

保護のギャップを埋める

これらの例は、男性の(国内外)避難時、紛争終結時、そして国の再建時の保護対応は長期的である必要があることを示す。また、これらの例が示すのは、ジェンダーに基づく脆弱性のステレオタイプ(固定観念)に取り組んで、さまざまな形態にまたがる搾取のリスクを理解し、軽減する必要があることだ。

保護のギャップによって危機の際に男性のニーズがないがしろにされているが、幸いなことに、この問題はより深刻に受け止められ始めているようだ。今週の安全保障理事会の年次公開討論会では、武力紛争や危機的状況における民間人の保護が検討される。ジェンダーを含むアイデンティティがいかに脆弱性を形成し、人々が保護にアクセスする際に直面する障壁に影響を与えるかを検討する、より包摂的な議論が行われる兆候がある。

保護のギャップを埋めるには、現代の奴隷制や金融排除への脆弱性の議論を長年支配してきた、ジェンダーに基づくステレオタイプに対し、国際的な人道支援団体や民間セクターの当事者が異議を唱え、それを解体しなければならない。このように不安定な環境においてそうしないことには、搾取や虐待に対する脆弱性を、強化するだけでなく新たに作り出す危険性もある。政策と実践を進めるために役立つ、私たちの調査に基づくいくつかの提言を以下で概説する。

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本記事は国連大学政策研究センター(UNU-CPR)のウェブサイトに最初に掲載されたものです。元の記事(英語)はこちらからご覧ください。

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