淡水を渇望する人間に対する塩辛い脅威

1960年代に中東を中心とする数カ所で建設された淡水化プラント(海水を処理して淡水(真水)を作り出す設備)は、現在177カ国の約1万6,000カ所に設置され、毎日9,500万立方メートルと、ナイアガラの滝の流量の約半分に相当する淡水を生産している。

淡水化の経済的コストの低下と、逆浸透(水以外の不純物は透過市内性質をもつろ過膜)をはじめとする膜技術の発展によって、淡水化はコスト競争力を高め、全世界で魅力ある淡水源となってきた。

淡水化拡大の原動力となっているのは、人口増加、1人当たり水消費量の増大や経済成長に関連する水需要の増加に、気候変動と汚染による水供給の減少が加わって生じた水不足の深刻化だ。

全世界で約5億人が、年間を通じて水不足に見舞われている。また、1年のいずれかの時期に、需要を満たせる水資源の供給を受けられない人々が15億人から20億人に上る。淡水化技術は質の高い水を無限、かつ気候とは無関係に着実に供給できるが、これを利用しているのはほとんどが都市と産業部門だ。

特に中東や、再生可能な水資源の欠如を特徴とする小島嶼国では、淡水化が欠かせないテクノロジーとなっている。農家の淡水需要増大を満たす必要から、淡水化プラントの数は今後数十年間でさらに増加すると予測される。

しかし、こうした淡水化プラントの急増は、化学薬品を大量に含む廃塩水をどう処理するのかという、難しいジレンマを生む。

現時点で、全世界の淡水化プラントは、毎日1億4,200万立方メートルに上る廃塩水を排出している。これは、たった1年でフロリダ州全体を1フィート(30.5cm)の塩水に浸せる量(518億立方メートル)に匹敵する。

我々は最新の、これまでで最も完成度が高いデータセットを分析し、世界の淡水化プラントに関する極めて時代遅れの統計資料の改定を試みた。最も驚いたのは、全世界で生産される超高濃度塩水の量が、それまでの予測を約50%も上回っているという事実だった。

現時点で、全世界の淡水化プラントは、毎日1億4,200万立方メートルに上る廃塩水を排出しているが、これはたった1年で、フロリダ州全体を1フィート(30.5cm)の塩水に浸せる量(518億立方メートル)に匹敵する。

別の方向から見ると、このデータは、淡水化プラントが淡水を1単位産出するごとに、塩水1.5単位を作り出していると示している(但し、原料水の塩分濃度や使用する淡水化技術、現地の状況に応じて、この値は大幅に変化する)。

淡水化プラントの約3分の2は高所得国にあり、生産能力は中東と北アフリカに集中している。また、サウジアラビア(22%)、アラブ首長国連邦(20.2%)、クウェート(6.6%)、カタール(5.8%)の4カ国だけで、廃塩水の半分以上(55%)を占める。

中東のプラントは、ほとんどが海水と過熱脱塩法を用いているため、米国のように河川の水膜処理を中心とするプラントに比べ、淡水1立方メートル当たりの塩水排出量が4倍に上るという特徴を有する。

一方、塩水処理法は地理的条件によって大きく左右されるが、従来の方法としては海洋や地表水または下水への直接放出、深井戸注入、塩水蒸発池があげられる。

海に近い淡水化プラント(廃塩水のほぼ80%は沿岸から10km以内の場所で生産される)は、未処理の廃塩水をそのまま海洋環境に出している場合が多い。

廃塩水の放出で、周辺の海水の塩分濃度は上昇するほか、廃塩水が底流を形成することで、海洋環境の生命維持に必要な溶存酸素は枯渇する。こうして塩分濃度が上がり、溶存酸素が減少すれば、海洋生態系と海洋生物、特に海底に生息する生物に深刻な影響が及び、これが食物連鎖全体で目に見える生態影響を引き起こしかねない。

しかも海洋は、脱塩法でスケール防止剤や防汚剤として用いられる有毒化学薬品によって汚染されている(銅と塩素は大きな不安材料)。

我々はこの環境問題を経済的機会へと転換できる。塩水の潜在的用途は多く、商業、社会、環境面で利益をもたらすからだ。

この迫り来る課題に取り組むためには、塩水管理戦略を改善する必要があることは明らかだ。サウジアラビアやアラブ首長国連邦、クウェート、カタールなど、大量の塩水を作り出しながら、淡水化効率が低い国々にとって、この改善は特に重要となる。

事実、我々はこの環境問題を経済的機会へと転換できる。塩水の潜在的用途は多く、商業、社会、環境面で利益をもたらすからだ。

例えば、廃塩水を養殖に利用することで、魚類量の300%増大が達成されている。廃塩水はまた、耐塩性生物種向けの灌漑や栄養補助剤スピルリナの栽培、発電、飼用樹木・作物向けの灌漑にも活用され、成功を収めている(但し、この最後の用途は段階的な塩害の原因となりかねない)。

テクノロジーが向上すれば、淡水化プラントの廃水に含まれる多くの金属や塩その他の鉱物を取り出せる可能性もある。

具体的にはナトリウムやマグネシウム、カルシウム、カリウム、臭素、ホウ素、ストロンチウム、リチウム、ルビジウム、ウランなどが挙げられるが、これらはいずれも工業や製品、農業で用いられている。

しかし、必要なテクノロジーはまだ未成熟だ。こうした資源の回収は現時点で、経済的競争力を欠いている。

国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)は、多種多様な非従来型水源に関連する調査とアイディアを追求しているが、世界各地で迫っている水不足のさらなる悪化に対処するためには、こうした水源すべての規模を緊急に拡大する必要がある。

我々は特に、淡水化技術のコストを下げ、これを低所得国や低位中所得国に普及させる必要がある。

有難いことに、膜技術の継続的向上やエネルギー回収システム、淡水化プラントと再生可能エネルギーの組み合わせによって、実際にコストは下がってきている。

我々は同時に、廃塩水や化学薬品による環境汚染が海洋環境と健康にもたらす害悪という、淡水化の潜在的に不都合な問題にも取り組まねばならない。

近年、取り組みが活発化していることはよいニュースだ。テクノロジーが高度化を続け、かつ安価となりつつある中で、将来的な見通しは明るくなってきたと言えるだろう。

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この記事は、最初にInter Press Service Newsに掲載されました。

著者

エドワード・ジョーンズ

ヴァーヘニンゲン大学研究員

エドワード・ジョーンズ氏は、オランダのヴァーヘニンゲン大学研究員。