2011年3月11日に起きた福島県での原発事故から4年が経った今でも、日本では3,200万の人々がその影響を受けていると、新しい報告書は伝えている。
2015 Fukushima Report(2015年福島レポート)の調査では、福島での原発事故により放射線やその他のストレス要因にさらされ、今現在もその短期的および長期的影響による潜在的リスクにさらされている日本国内外の被害者に関する情報が集められている。
グリーンクロス(元ソビエト連邦大統領であり、ノーベル平和賞受賞者であるミハイル・ゴルバチョフ氏が1993年に設立した、ジュネーブを本拠地とする非政府・非営利の独立グローバル環境団体)が作成した本報告書は、「negatively affected individuals(悪影響を受けた人たち)」を慎重に定義づけしている。
本報告書では「悪影響を受けた人たち」という大きなくくりの中に存在する、さまざまなグループ(大量の放射線にさらされた人たちだけでなく、食料や水、植物が汚染された地域に暮らす人を含む低被ばく者も対象)の被ばくの程度を検証した。そして1,000万人に影響をおよぼしたチェルノブイリ原発事故と同様に、日本でもがんのリスクが上昇すると予想する。
これに加えて、避難やその後の移住によるストレス関連の影響がいかに深刻であるかも強調する。従って、「exposed(被害を受けた人たち)」の定義は、その後自宅に戻れたか、もしくは4年経った今でもまだ自宅に戻れていないかに関わらず、避難指示の結果影響を受けた人たち(避難地域内にあった自宅や地域社会、学校を離れた人たちや病院の患者)にまで拡大されている。
原発事故による避難者総数は40万人を超え、このうち16万人が福島第一原子力発電所(福島第一原発)の半径20km以内からの避難である。原発事故に起因するストレスや疲労、避難者としての暮らしの苦難を原因とした死亡者数は、およそ1,700人と推定されている。
「チェルノブイリ事故での経験があるため、科学者や医師には、このような惨事の影響を受けた人たちの生活の質(QOL)のレベルやその他の情報を記録・監視する準備が整っていた」と、報告書は指摘する。
チェルノブイリ事故も福島第一原発での事故も、国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)ではレベル7(放射性物質の重大な放出と広範囲にわたる影響があり、計画的かつ長期にわたる対策を必要とする最高レベルの評価)であった。
報告書は東京電力(TEPCO)の算定を引き合いに出して、福島原発事故で大気中に放出された放射性物質の総量(ヨウ素131、セシウム134、セシウム137および希ガス)は、チェルノブイリ事故での放出量の15%未満と推測されると伝える。
「しかし放射線の影響を受けた人の数は、チェルノブイリに比べると、3倍になっています。」と、グリーンクロス・スイスのNathalie Gysi(ナタリー・ジシ)氏は述べている。
福島第一原発から放出された放射線の大部分は、日本と太平洋上に集中している。報告書では、放出された放射線のうち80%が海に沈着し、残りの20%のほとんどが、福島県内の原子力発電所の北西半径50km以内に分散したという推測を引用している。
太平洋上に放出された放射線による人間へのがんのリスクは小さいと予想されているが、微量の放射線がすでに北米大陸、とくに米国の北西海岸部に到達している。報告書の調査結果によると、23カ国で行われた調査では、福島での原発事故の数日から数週間後の時点で、131I、134Csおよび137Csといった放射性核種の水準の上昇(一部の国では133Xeや132Teといったその他の放射性物質も探知)が確認された。ほとんどの調査が水準は非常に低く、人間への健康被害はもたらさないと報告した。
こうした低い水準にもかかわらず、報告書は、放射線にさらされた人ががんになる全体的なリスクは上昇するだろうとし、これはとくに事故当時にまだ子供だった人たちに当てはまると説明する。「福島第一原発から放出された放射線の結果、彼らの健康は全生涯にわたって危険にさらされるでしょう。」
事故当初に海に放出された放射性物質に加え、福島第一原発では事故から4年が経った今でも、漏水が問題として残る。グリーンクロスは、事故から数カ月後、そして数年後に起きた汚染水貯蔵タンクでのパイプ破損や水漏れに関する報告は、作業者や一般市民にとって心配の種であると述べている。
マグロやその他の魚の放射線量などの海産物の安全性に対する心理的なストレスや疑念の高まりといった懸念事項も依然としてある。報告書によると、こういった懸念は事実無根ではなく、日本では食品に含まれる放射性セシウムの基準値は1kgあたり100ベクレルとなっているが、福島第一原発近くで捕獲されたヒラメは、この基準値を超えるセシウム量を有していたとのことだ。
Our Worldで 以前報告した通り、政府や公開される情報に対する不信は、ストレスの多い環境の一因であり、明らかに改善されるべきである。
「チェルノブイリ事故に関する調査から、心理的な影響や非がん性の影響が事故からおよそ30年が経った今でも、多くの被害者に影響をおよぼし続けることを、私たちは知っています。福島での事故によるストレス要因の影響を受けた人たちに対する配慮は維持されるべきであり、最も被害を受けた人たちに対する支援を継続するほか、事故の完全な影響を理解するために、調査も継続されるべきです。」
「2015 Fukushima Report(2015年福島レポート)」(グリーンクロスのイニシアチブとして、南カリフォルニア大学世界保健研究所所長であるジョナサン・エム・サメット博士の指揮のもと作成)は、こちらからダウンロード可能です(英語版)。
翻訳:日本コンベンションサービス