2012年の人気記事と今年の展望

人は新年の初めに内省的になることが多い。新たな1年の目標を見据えると同時に、昨年の目標や進歩、学んだ教訓を振り返るのだ。4年半前のOur World 2.0開始以来、私たちが注目してきた諸問題には、いまだに旺盛な関心が寄せられている。国連大学が総合的に目指しているように、Our World 2.0のチームも人々に本当の意味でインパクトを与えようと努めている。その実現のために、私たちは読者の皆さんにとって何が重要であるのか、また皆さんの要望や関心、期待に応えているのかどうかを知る方法を絶えず模索している。

今回、そうしたプロセスをご理解いただく機会として、私たちは2012年の掲載記事を振り返り、期待と共に2013年を展望する。また、読者の皆さんには引き続き、コメント欄やFacebookTwitterを通じて、ご意見をお寄せいただければ幸いだ。

人気のあった記事

2012年、Our World 2.0は、2つの主要なソーシャル・メディアの両方でフォロワー数を40パーセント増加させた(現在、Facebookの「いいね!」数は5094、Twitterのフォロワー数は5926だ)。私たちは読者との交流や、読者のソーシャル・ネットワークとの交流を今後も続けていく。

しかし、ソーシャル・メディアでの交流(コメント、Facebookでの「いいね!」、Twitterのリツイート)ではなく、記事別の訪問者数だけを見ると、2012年に発表された記事のトップ10が明らかになる。2012年より前に発表された記事は除外されているが、その中には今でも非常に人気があり、2012年の人気記事と同じくらいよく読まれている記事もある。英語版と日本語版の結果についても後ほど比較する。

12月24日掲載の(バイオサイエンス・リソース・プロジェクトの事務局長である)ジョナサン・レイサム氏による記事が滑り込みでトップ10入りを果たしたことは、最もうれしい驚きだ。同記事は、インド、エチオピア、マリ、ネパールなどの小規模農家がSystem of Rice Intensification(稲集約栽培法)を用いて収穫高を劇的に伸ばし、成功を収めていることを伝えた。農家が作物、土壌、水、養分の管理方法を変えただけで、生産性が向上した事例だ。

読者が選んだトップ10には、国連大学高等研究所(UNU-IAS)のロバート・ブラジアック氏による2本の記事がランクインした。ロバートは、アラン・セイボリー氏との説得力のあるインタビューを記事にしている(セイボリー氏は「ホリスティック・マネジメント」の枠組みを考案した人物である。ホリスティック・マネジメントとは、持続可能性や、従事者にとってのクオリティー・オブ・ライフを高めながら、生物多様性と生産性を向上させる資源管理のシステム思考的アプローチだ)。彼の記事は、野生の草食動物の群れをまねて家畜を活用する方法によって、アフリカの砂漠化を食い止め、牧草地を回復できるかもしれないことを明らかにした。

ロバートのもう1本の記事 は、都市化がもたらした持続可能な開発の課題について考察している。人々が都市から農村部へ向かう新たな動きと、それが人類や生物多様性や資源のレジリエンスを向上させる可能性について掘り下げた。Our World 2.0編集チームとして、ロバートの貢献に感謝したい。読者の皆さんも彼の記事を大いに楽しんでいるようだ。

最も読まれた記事ランキングには、UNU-IASの研究者によるさらに2本の記事が含まれている。いずれも、伝統的知識と気候科学の関係を研究する伝統的知識イニシアチブの一環から生まれた。1つは 、土地利用と気候変動と先住民族の相互作用を取り上げた、カースティー・ギャロウェイ・マクリーン氏による記事だ。彼女は「気候変動が先住民族のランドスケープに与える影響はますます大きくなっているが、コミュニティは独自の方法で対応し、適応している」 と記している。

もう1本は、「REDDが成果を挙げるには?」と問いかけたグレブ・レイゴロデッツキー氏の記事だ。REDDとは、市場と経済的インセンティブを利用して、大気中の炭素を吸収し貯蔵する能力に基づいて森林に金銭的価値を割り当て、温室効果ガスの排出量を削減することを目指すプロジェクトである。REDDプロジェクトの多くは、特に地元のコミュニティとの関わりについて、過去に批判を受けてきた。この記事と、UNUのキット・ウィリアムズ氏が制作したビデオは、ナショナル ジオグラフィックに取り上げられた。

次に紹介するのは、2人の元UNU研究員による、都市の持続可能性における大学の役割に関する大変興味深い記事だ。グレゴリー・トレンチャー氏はUNUの元インターンで、現在は東京大学の博士課程に在学中である。共著者の鎗目雅氏は東京大学の准教授で、UNUの元PhDフェローだ。彼らがUNUの活動に今でも貢献してくれていることは素晴らしい。

ジョイ・マーウィン・モンテイロ氏もインド理科大学院の博士課程に在籍中であり、「道徳的宇宙を広げよう」を執筆した。この記事は国連大学「地球環境変化の人間・社会的側面に関する国際研究計画」 が開催した論文コンテストの優勝作品であるため、2012年のOur World 2.0人気記事トップ10に入ったのも容易に理解できる。

近年、私たちの最も緊密な提携パートナーの1つがドイチェ・ヴェレの「Global Ideas(グローバル・アイディアズ)」 チームだ。差し迫る世界的問題への積極的な解決策を提示する必要性に関して、私たちは同様のビジョンを共有している。そのため、「グローバル・アイディアズ」から配給された記事の1本がトップ10にランクインしたのは喜ばしいことだ。「再認識されるココナッツの素晴らしさ」と題された記事は、エネルギーから建設、医療まで、ココナッツのさまざまな用途を明らかにした。

そして最後になるが、うれしいことにOur World 2.0編集チームによる2本の記事がトップ10入りした。「日本の食料の未来」と「すべての人のための持続可能エネルギー」だ。世界中の読者の方たちがOur World 2.0を閲覧し、フォローしてくれたことに感謝申し上げたい。

日本語版のランキングは?

国連大学は日本に本部を置く唯一の国連機関として、日本の人々の多大なる支援に応えるべく努めている。喜ばしいことに、日本のコミュニティにはOur World 2.0の熱心な読者層が存在する。私たちはすべてのコンテンツ(すべての記事とビデオ)を日本語に翻訳してお届けするために力を尽くす所存だ。2012年、Our World 2.0の訪問者のうち、約41パーセントは日本国内の読者だった。

興味深いことに、日本語版と英語版のトップ10には多くの共通点がある一方で、幾つかの驚きもある。まずは類似点から見てみよう。下記は、どちらの言語でもトップ10にランクインした記事だ。

残る6本の記事は、英語版とは全く異なる。国連大学からは2本の記事がランクインした。ブレンダン・バレット氏は、ジョージ・モンビオ氏がガーディアン紙に発表した暗澹たる予測への反論として、残存するすべての石油を掘削した場合、いかに地球を破壊してしまうかについて記した。もう1本の記事は、鹿熊信一郎氏と上村真仁氏によるもので、沖縄のサンゴ礁生態系の伝統的里海保全活動に関するUNU-IASの研究プロジェクトの一環だ。

その他の記事はさまざまな寄稿者によるものだ。エレン・カンタロウ氏の「破壊されるアメリカの田園地帯」、レスター・ブラウン氏の「予想以上に差し迫る世界食料危機」、そしてフィオナ・ハーヴェイ氏の「自然資源の争奪戦はこれから」だ。

これら3本の記事は、いずれも読んでいて恐ろしくなる内容であり、前年に三重の災害に見舞われた2012年の日本の雰囲気を映し出すものかもしれない。実際、「3.11後の『日本のプランB』」という石井吉徳氏の素晴らしい記事もトップ10入りしたのは、それが理由かもしれない。

以上がトップ10に選ばれた日本語版の記事だ。2012年、日本は2011年の衝撃から復興しようと引き続き奮闘していた。一方で日本の読者は、世界情勢、すなわち食料危機、資源枯渇、エネルギーなどについても大きな関心を抱いていた。

2013年は何をもたらすか?

今年開催される大きなイベントの1つとして、気候変動科学の最新情報を伝える気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書が9月に発表される。気候変動に関する次の交渉会議は11月11~22日、ワルシャワで開催される予定だ。

食料安全保障に関しては、主要8カ国首脳会議(G8)が6月13~14日、イギリスでこのテーマを取り上げる予定であり、9月には国連総会で食料安全保障に関する特別イベントが開催される。

エネルギー関連では、すべての人のための持続可能エネルギーの10年が2013年から始まる。

また、4月22日のアースデイと、5月22日の国際生物多様性の日を忘れてはいけない。今年は水と生物多様性に注目したい。

上記は今年の注目イベントのほんの一部だ。しかし、私たちはOur World 2.0をさらに向上するにはどうすべきか、熟考を重ねてきた。今までのところ、私たちは4つのテーマ、すなわち気候変動、ピークオイル、食料安全保障、生物多様性のみに焦点を絞ってきた。これらの課題と解決法の間の複雑な相互作用を示すためである。

今後、私たちはこのウェブマガジンのテーマを広げて、国連大学の研究分野と合致させたいと考えている。国連大学の研究分野は以下のとおりである。

このような幅広いテーマを取り入れれば、国連大学の活動をより広く伝え、刺激的な新分野の話題をお届けする素晴らしい機会を提供できるようになるだろう。もちろん、私たちはOur World 2.0の核となるテーマに関する記事も引き続き発表し、ラディカルで前向きな姿勢を崩さないつもりだ。なぜなら、従来どおりの方法は選択肢ではないと信じているからだ。

しかし、Our World 2.0が担う重要な役割は、開かれた議論の場として機能し、意見を受け入れることだ。私たちは世界各地のパートナーたちと記事を共有し、彼らの記事を再掲載する(それが可能となるのは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスによるところが大きい)。こうした活動を引き続き行うと共に、特に科学研究機関や他の国連機関、主要なメディア機関など、提携機関の数を増やしたいと考えている。

私たちは、こうした連携こそ重要だと信じている。私たちのゴールは国連大学憲章と一致している。すなわち「人類の存続、開発、福祉に関わる緊急性の高い、地球規模の諸問題」に注目し、「世界に広がる教育研究のコミュニティにおける活発な相互交流を促進する」 ことだ。

読者の皆さんと寄稿者の方々が「活発な相互交流」の一端を担い続けてくださることを、私たちは心から願っている。

翻訳:髙﨑文子

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著者

ブレンダン・バレット

ロイヤルメルボルン工科大学

ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。

ダニエル・パウエルは国連大学メディアセンターのエディター兼ライターであり、Our World 2.0担当エディターに名を連ねている。東京の国連大学に加わる前は8年間、東南アジアを拠点に過ごし、農業、生物多様性、水、市民社会、移住など、幅広いトピックを網羅する開発・研究プロジェクトに携わっていた。最近では、USAID(米国国際開発庁)がカンボジア、ラオス、ベトナムの田園地帯で行った水と衛生に関するプログラムにおいて、コミュニケーション・マネジャーを務めた。アジアで活動する前は、米国林野局に生物学者として勤務、森林の菌類学および地衣学の研究を行っていた。