東京電力が信頼を回復するには

「魔法使いの弟子」はゲーテの有名な詩であるが、日本ではディズニーのアニメ映画「ファンタジア」でミッキー・マウスが演じる魔法使いの弟子の方が有名かもしれない。この物語では、魔法使いが弟子に雑用を言いつけ、旅に出る。弟子は任された仕事に嫌気が差して、魔法を使い、ホウキにその仕事をさせようとする。だがすぐに、弟子は困った事態になっていることに気づく。自分がかけた魔法をコントロールできないのだ。ホウキはどんどん水を運び込み、辺りが水浸しになり始める。あわやお手上げかというところで、魔法使いが戻ってきてその魔法を止め、大惨事を防ぐ。

福島第一原発において、東京電力(東電)は今やこの愚かな弟子と驚くほど似た状況に陥っている。利益を最大化しようと考えて安易な道に走り、安全性に十分な投資を行わなかった。2011年3月11日、東電は、自らが完全にはコントロールすることのできない力を弄んだ結果を目の当たりにした。ゲーテの詩同様、東電は尽きることがないように思われる水の流れに脅かされており、しかもその大半が汚染水なのである。そして東電のみならず、私たちすべてにとって不幸なことに、この水の流れを止められる魔法使いの師はどこにもいないのである。

東電が莫大な量の水に対応し、かつ重圧のかかる状況下で作業にあたっていることを踏まえると、漏水の問題がくり返されることは驚くにあたらない。

多くの貯水タンクが急造されたものであり、日ごとに水が増え続けていることから、今後、さらに多くの問題が生じることは間違いないように思われる。現在、1,000基のタンクに44万トンの汚染水が貯蔵されており、作業員は2016年までに貯蔵容量を倍増させようとしている。これほどの貯水量を考えると、将来的にトラブルは避けがたいように思われる。

こうしたなか、福島第一原発の小野明所長が先ごろ、「(福島第一原発の一部について)恥ずかしい話。十分に管理できていない」と報道陣に認める発言を行った。これを報じたロイターの記事をジャパン・タイムズでも取り上げると、発言自体が東電に対する新たな批判を生むことになった。東電の所長が自ら東電は原発を制御できていないと認めたのか、という批判である。これでもまだ他に東電を批判する材料が必要だろうか? 福島第一原発の管理で失策を重ね、不適切かつ利己的で誤った対応を取ってきたことから、東電の日本企業界における「不名誉殿堂」入りは確実である。

小野所長の発言を再度東電批判に利用するより、前向きな一歩とみなすほうが実のところよいだろう。おかしな理屈に聞こえるかもしれないが、東電が福島第一原発を完全にはコントロールしきれていないとの発言は、単に一目瞭然の現実を確認したものに過ぎない。

まさに国民の疑惑を高めているのは、東電が繰り返してきた、すべてうまくいっているという保証の言葉と、安倍晋三首相がブエノスアイレスで行ったオリンピック委員会に対する誇張した主張である。ゲーテの描く魔法使いの弟子でさえ、状況が自分の手に負えなくなったことを認めた。明らかに現実に反するにも関わらず、福島第一原発の状況がコントロールされていると言い張り続けることは、英国のコメディ・グループ、モンティ・パイソンのコントに登場する勘違い甚だしいブラックナイト(黒騎士)のセリフ「ただのかすり傷だ!」を思い起こさせる(現状の、ただのちょっとした水漏れであり、二度と起こらないとする姿勢はこれに等しい)。

現在まで、福島第一原発で規模の大小に関わらず問題が起こるたびに、すぐさまマスコミ報道が加熱し、続いて必ず東電が謝罪し、問題解決を保証するという展開が見られている。これが繰り返されることで、多くの一般国民の不安がさらに煽られるばかりでなく、福島第一原発に存在するリスクの性質について混乱を生じさせる結果にもつながる。

現状を適切に評価するための科学知識を持たないほとんどの人にとって、福島第一原発での水漏れやトラブルはいずれも、懸念と不安を引き起こすものである。そうした反応は、東電におけるこれまでの透明性のお粗末な状況を踏まえると、まったく無理からぬことである。

東電にとってより適切なアプローチがあるとすれば、それはもっと率直かつ誠実に福島第一原発の状況を説明することであろう。そうすることが、国民の信頼をある程度回復させることのできる唯一の方法かもしれない。

こうした信頼は、さまざまなリスクを見極めるうえで不可欠なものである。東電が福島第一原発の状況説明において自らの透明性と信頼性を高められない限り、問題は「小さな」ものであるとのあらゆる主張について(仮にそれが事実である場合においてさえ)、多くの人がこれを信じようとしないのも当然であるといえる。

福島第一原発の廃炉には30年から40年かかるといわれており、行く手には多くの深刻な問題が待ち受けている。福島第一原発では今後も水漏れやトラブルが発生すると考えられる。海洋への汚染水の管理された放出も行わざるをえないだろう。そうした困難なプロセスを経るには、国民の支持と理解が必要である。

そのためには、原子力規制委員会がその独立性と、安全に対する厳格な取り組みを実証しようとしてきたのと同じ方法により、東電も国民の信頼回復に着手する必要がある。

東電が日本国民の信頼を回復することは、福島第一原発の廃炉に関する技術的難問を解決する作業に等しく困難である。信頼を取り戻しうる唯一の方法は、東電の全社員が小野所長に倣い、福島での問題に関する誠実性と透明性の向上に取り組むことである。

翻訳:日本コンベンションサービス

本記事は、 The Japan Times はじめに発表されたもので、許可を得て再掲しています。

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著者

クリストファー・ホブソン博士 Christopher Hobson は、早稲田大学政治経済学部の講師で、国連大学の客員リサーチフェロー。それ以前は、国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の「平和と安全保障」部門のリサーチ・アソシエイト。オーストラリア国立大学国際関係学部で博士号を取得し、過去にはアベリストウィス大学国際政治学部の博士研究員を務めていました。