難民キャンプは気候危機に極めて脆弱

第二次世界大戦以来、仮設居住地が難民政策の特徴となり、母国での紛争や迫害から逃れてきた難民たちは通常、難民キャンプ(難民の滞在施設)に集められる。こうした難民キャンプは、受け入れ国の住民との分離や隔離を体現する。物理的に、キャンプは孤立した低質の土地に置かれ、しばしば移動制限が課されると同時に、多くの場合、難民たちはUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の管理下に入って受け入れ国の政策枠組みからも切り離される。難民キャンプは国民国家間の裂け目のような場所に一時的解決策として設営されるが、一時的であるがゆえに、難民キャンプが持続可能性の原理に基づいて開設されることはめったにない。

過酷な乾燥地域であるケニア北部と北東部には、世界最大の難民キャンプがいくつかある。ケニア西部では、カクマとカロベエイで約25万人の難民を受け入れる一方、東部のダダーブではハガデラ、ダガハレ、イフォの各難民キャンプで30万人近くを保護している。隣接するソマリア、エチオピア、ウガンダ、ルワンダで内戦が勃発した後の1990年代初頭以降にできた一時的シェルターが恒久化し、キャンプでは新たな世代も生まれてた。住民たちは母国での紛争からは保護されるが、過酷で変動し続ける気候という馴染みの敵が立ちはだかる。ケニア北東部の乾燥および半乾燥地域を含むアフリカの角では、長年にわたって干ばつが支配し、生命を奪い、生活を破壊してきた。

国連WFP(世界食糧計画)ケニアの依頼で最近行った評価事業の中で、私は2022年後半に干ばつがダダーブ・キャンプの難民に与えた試練と、急速に変化する状況に対応しようとする人道活動家の絶え間ない苦闘を目の当たりにした。ケニアやルワンダ、ブルンジの難民キャンプで作業した私個人の体験に端を発して、共同研究者のソーニャ・フランセンアーニャ・ウェルントゲスミハイル・シレンコティナ・コメスと共に、一連の研究に取り掛かり、気候災害と強制移住が現在から将来にわたってどの程度相互に作用して重大な開発上の課題を生み出すかを調査した。私たちは、研究成果を最終的に米国科学アカデミー紀要(PNAS)の記事として発表した。この研究では、世界最大規模の20の難民キャンプで、この仮設大都市の住民たちが遅発性および早発性の気候災害にさらされる度合いを体系的に調査した。

イフォ難民キャンプ(ケニア・ダバーブ)の家族住宅の端に設けられた店。Photo: UNU-MERIT / Alex Hunns

現時点での結論

私たちが描写的技法と解析的技法の両方を用いて行った気候データ分析によって、難民キャンプの住民が気温や降雨量といった遅発性気候災害にさらされる度合いは、受け入れ国の他の地域の住民より大きいことが示された。

ケニア、ルワンダ、エチオピア、ウガンダに暮らす難民たちは、受け入れ国に比べて大幅に高い気温にさらされ、さらには、極端な高温が続く期間が長くなっていることが観察された。同時に、これらの国々にある難民キャンプでは、降雨量が受け入れ国の平均値を下回っていた。

バングラデシュで見られるような高水準の降水量が被害をもたらす場合もある。データによれば、バングラデシュの多くの地域が極端な降雨に見舞われたものの、世界最大の難民キャンプの1つであるコックスバザールのキャンプでは、風雨からの保護が不十分なことによる特定リスクに加え、水管理設備の不足から、停滞水による健康リスクも増加する可能性も認められた。

これとは逆に、パキスタンとヨルダンの難民キャンプでは、平均を下回る気温にさらされていた。パキスタンの難民キャンプは主に山間部に集中しているため、冬には難民たちが厳しい環境にさらされ、ヨルダンのザータリキャンプは暑い夏と寒い冬を特徴とする乾燥した草原地帯に位置している。ケニア、ウガンダ、エチオピア、ルワンダのキャンプにいる難民たちは平均と比べてはるかに暑く、より乾燥した状況に置かれているため、生活や生計が困難となっている。

現在の仮設居住政策のもとでは、難民キャンプの住民は独特の空間的、社会経済的、文化的、政治的脆弱性や、不安定なインフラ、援助への依存、および風雨からの不十分な保護に直面する可能性がある。そして、これらすべてが気候災害と相互に作用して大きな危害のリスクと開発上の課題をもたらしている。

ダガハリ難民キャンプ(ケニア・ダバーブ)の食料配給所の出口に停められたボダボダ(バイクタクシー)。Photo: UNU-MERIT / Alex Hunns

次のステップ

数多くの難民を受け入れている世界の各地域では、気候変動が現在も今後も脅威となり、気候変動に最もうまく適応する方法について政策論争が続いている。こうした背景において、気候災害にさらされる度合いやその影響(エクスポージャー)を理解することが極めて重要であり、私たちは今後の活動で、この分野の研究バトンを引き継ぐ。本年発表予定の次の研究論文は体系的なスコーピングレビューであり、そこでは強制移住と気候災害への脆弱性に関しちぐはぐに行われる現在の研究の不足部分を浮き彫りにし、強制移住に特化したエクスポージャーと脆弱性のつながりに関する研究の必要性を訴える。これに続く論文では、仮設居住地で生活する難民たち固有の脆弱性を概念化し、難民に関する現在の諸政策が脆弱性をもたらす度合いを評価できるようにする。

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本記事は国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)のウェブサイトで最初に掲載されました。

本記事に関連する研究論文「Refugee Settlements are highly exposed to extreme weather conditions (難民居住地は異常気象状況に高い度合いでさらされている)」(ソーニャ・フランセン、アーニャ・ウェルントゲス、アレクサンダー・ハンズ、ミハイル・シレンコ、ティナ・コメス共著)は2023年6月6日に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されました。

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