難民や移民が密入国の危険を知りつつ、その危険を冒すしかない理由

ロンドン郊外にある大型トラック用の駐車場で、トレーラーの冷凍用コンテナから遺体で見つかった39人が亡くなった経緯については、まだ明らかになっていない。死亡した31人の男性と8人の女性のうち、一部はベトナム人だと考えられているが、なぜコンテナに乗ったのか、どこに向かうつもりだったのか、誰に乗せられたのか、どの程度自発的または強制的だったのかはわからない。そもそも、なぜ移民や難民、その他の密航者は、貨物のように積まれて旅をしようと決断するのか?また、その危険性について知っているのだろうか?

英国が2014年に統計を取り始めて以来、英国に入国しようとして多数の移民が命を落としている。2000年には54人の中国人がトラックのコンテナで窒息死している。国連の推計によると、2014年以降、ヨーロッパ諸国に入国しようとして約500人が死亡しており、それに加えて1万8,500人が地中海を渡ろうとして死亡したとされている。

密閉されたコンテナは気温がマイナス25度にまで下がることもある。しかしそこでの窒息死や凍死は、難民やその他の移民が安全と安心と尊厳を期待する国への旅路で遭遇する危険の1つに過ぎない。それにもかかわらず、彼らはそうした旅を、しばしばそれに伴う危険を十分認識しながら、続けるのである。

国境を越えるこうした困難な旅では、多くの場合複数の国を通り、危険な国境を越える必要があるが、私たちの調査ではそうした旅をする難民やその他の移民の意思決定に注目した。例えば、トルコからバルカン半島を経由してEU諸国に入る長く困難な旅を生き延びた、シリアとアフガニスタンからの難民と移民に聞き取り調査を行った。

トラックに隠れてバルカンルートに沿って国境を越えるというのは、よく用いられる方法であり、トルコからギリシャ、ブルガリア、アルバニア、北マケドニア、セルビア、そしてボスニア・ヘルツェゴビナを抜けて、ハンガリーやクロアチア経由でEUを目指す難民やその他の移民が利用する。トラックは国境警備隊の目をごまかせるため、当局の網をくぐり抜けるのに頻繁に利用される。

中には、トラックでの旅を自分たち自身で計画する人もいる。アフガニスタン人のある若者は、彼とその同行者がトラックのどこに隠れれば最も安全に密航できるかを知っていた。なぜなら、彼自身アフガニスタンでトラックの運転手をしていたからである。彼にとって、密入国は情報を得たうえでの決断であった。

しかし、他の人々が頼るのは密入国のあっせん業者であり、旅の一部で難民やその他の移民はトラックに乗せられる。聞き取り調査の対象者の中には、あっせん業者に強いられた旅の条件について、理解も同意もしていなかった人がいた。あるシリア人男性もその1人で、あっせん業者によって、トルコからギリシャに向かうトラックにあまりにも多くの人が乗せられたため、彼は気を失った。彼は次のように述べている。

「20人がすし詰めになるような感じの狭い空間で、息ができませんでした。警察に掴まったのは幸運でした。そうでなければ、ギリシャに着く前に死んでいたかもしれません」

密入国あっせん業者は、トラックにできるだけ多くの人を乗せようとすることが多い。結局のところ密入国はビジネスであり、旅客が多ければ多いほど儲かるのである。

危険をわかっていて、危険を受け入れる

一般的に移民や難民は、旅の道中で危険に遭遇する可能性について十分に認識している。自分たちの身に具体的に何が起こるのかはわからず、うまくいくよう願うことしかできない。2015年に密入国したあるシリア人男性が次のように語った。

「死にに行くようなものなのです。この旅のことを、誰もが死の旅と呼びます。みんなそうだとわかっていますし、トルコにいたときの私もそうでした。旅が困難なものになることも、危険なものになることも、ひょっとしたら死ぬかもしれないということもわかっていたのです。でも……。人生はあまり選択肢を与えてくれないときがあります。密入国は私がトルコにいたときにあった唯一の選択肢だったので、『なんとしてもやり遂げよう』と自分に言い聞かせました」

危険は旅のあらゆる段階に潜んでいる。難民や移民は海で溺れたり、砂漠や海上で脱水症状を起こしたり、誘拐や強奪、拷問やレイプの被害に遭ったり、犯罪者や国境警備隊に殴られ、撃たれ、殺されたりする。旅の各段階をどのように進んで行くかは、危険、偶然の出会い、そしてしばしば完全なる幸運との間で行われる取引のようなものとなる。

次の危険な国境を越える際、やめることも引き返すことも考えないのは、また別のシリア人難民が語ったように、「最初の一歩を踏み出したら、戻ることはできない」からである。多くの資金と時間とエネルギーを費やし、それまで大変な目に遭ってきた難民やその他の移民には、途中で諦めて、すべての努力を水の泡にしてしまうことなど考えられない。そのため、彼らは最も安全かつ確実だと思うルートと移動手段に挑むのだが、それは往々にして彼らがあっせん業者に払うことのできる額に左右される。

ヨーロッパに向かう選択肢は、難民やその他の移民を締め出すための厳しい国境管理によって、ますます危険なものになっている。2015年に「欧州移民危機」がピークを迎えて以来、バルカンルート沿いの国境は一変した。トルコは国境に壁を築き、防衛と監視のためのインフラを整備して、シリアとの国境を閉鎖しようとしている。2015年から2018年の間にシリアを逃れたシリア人に聞き取り調査をしたところ、彼らはトルコに入国しようとして銃撃され、撃ち殺されないために、暗闇の中越境せざるをえなかったと話した。

西バルカン諸国ではさらに高い壁とフェンスが築かれ、ハンガリーは実質的にセルビアとの国境を封鎖して、1日に2人の亡命希望者しか国境を通さない。ブルガリアとクロアチアでは、国境警備隊が非人道的な暴力を用いて、徒歩で国境を越える難民や移民を押し返している。

利用できる合法的または安全なルートがないため、移民や難民は目的地にたどり着くために他の絶望的な手段による危険を受け入れている。そしてたどり着けない場合も多い。エセックスでの39人の死は大変な悲劇であり、残念なことに、こうした危険な状況は、ヨーロッパへの危難の旅をする人々にとっては普通のことになってしまっている。彼らはその危険性を知っているが、母国やこれまでの旅の中で見つけられなかった安全で尊厳のある暮らしを手に入れるという希望に動かされるのである。

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この記事は、クリエイティブコモンズのライセンスの下、The Conversationから改めて発表されたものです。元の記事はこちら

著者

ケイティ・クシュミンダー博士は国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)・マーストリヒト大学院ガバナンス研究科研究員。現在は欧州大学院(EUI)ロベール・シューマン高等研究センター研究員として、NOWルビコン奨学金による研究の完了を控えている。EUIでのプロジェクトとして、イタリアにおけるエリトリアおよびナイジェリア移民の意思決定に関する比較分析を実施中。