難民、人種差別、外国人嫌悪:差別はどうすれば減らせるのか

紛争や迫害、戦争により、毎分20人が避難を強いられている。全世界で6,850万人に上る強制避難民のうち、難民の数は2,540万人である。難民が直面する数多くのリスクや脅威をさらに悪化させている反難民、反移民感情の高まりは、新たな受け入れコミュニティへ移住と定住を試みる難民が、社会福祉と医療を受ける権利に大きく影響している。

国連加盟国は、安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクトの最終案を交渉中だが、これは主要な国際人権協定にうたわれる差別禁止の公約を再確認する合意となる。グローバル・コンパクトの目的には「あらゆる形態の差別をなくし、証拠に基づく公の議論の推進を通じて、移住に対する考え方を方向づける」という内容が含まれている。

しかし、英国のEU離脱やドナルド・トランプ氏の大統領選出に至る最近の政治キャンペーンにおいて、対立をあおる国粋主義的言説(自国文化や政治の独自性、優越性を強調し主張する)が採用される中で、最も効果的に差別をなくし、公の議論を方向づけ、難民と移民の権利を守るためには、どこに「証拠に基づく」対応を集中させるべきだろうか。

一般市民が持つイメージの理解

その第一歩は、一般市民が難民に抱くイメージについて、事実に基づく議論を構築することだ。移民と難民に対する包摂的な対応を主張する革新的な政治運動は、受け入れコミュニティにおける過激な論調にうまく対処できていない。多くの国では、テレビ、また政府広報によるラジオや掲示広告によって反人種差別や偏見削減のキャンペーンが行われているが、これらの効果は、ほとんど明らかとなっていない

しかし、一般市民の移住に対する認識に大きな差があることは、ヨーロッパの事例がはっきり示している国連大学グローバリゼーション・文化・モビリティ研究所(UNU-GCM)バレリア・ベロ研究によると、「対テロ戦争」を含む国境を越えた力学は、極右の過激主義や難民に対して偏見を持つ態度、また国際的な外国人嫌悪を増長させている。

ベルリン(ドイツ)Photo: Sven-Kåre Evenseth, Creative Commons BY-NC-ND 2.0

2016年、ヨーロッパで移民・難民危機が発生する中で行われた調査では、西欧諸国よりも東欧・中欧諸国の方が移住者に対する許容度がはるかに低いと判明した。許容度が最も低いのはハンガリー、逆に最も高いのはスウェーデンだった。ヨーロッパ15カ国で行われた別の調査では、1万8,000人の有権者を対象に、一般市民の支持を受けるために重要性が高いと判断された9つの視点(教育水準、技能水準、宗教、庇護(ひご)申請理由など)から、変則的で異なる特徴を持つ18万人の庇護申請者(故郷を逃れ、庇護を求めて他国へ来た人で、庇護申請の最終的な結論を待っている人。「難民申請者」も含む。)を評価するよう要請した。

その結果、一般市民の支持が最も大きかったのは、雇用の可能性が相対的に高く、庇護申請に関する証言に整合性があり、重大な脆弱性を抱える者、それもイスラム教徒ではなくキリスト教徒だった。すなわち、経済に貢献でき、入国に際して人道的な根拠を持っている庇護申請者のほうが、支援に値するとみなされているのだ。

いかに偏っていようとも、こうした見方こそが社会的現実である。よって、事実に基づいた差別対策をするには、出発点としてこれに取り組むべきである。

最前線の担当者が持つ偏見への対策

米国の政府機関におけるイスラムに対する偏見を明らかにした最近の研究は、公共部門の最前線で働く担当者や政策立案者による偏見は差別につながりかねないとし、差別対策においては特にこのような偏見に対処すべきだと警告している。

庇護申請者や難民、移民の「道徳的価値」をどう考えるかが、これらの人々に対するサービスや政策の対応を決定づける。「道徳的価値」には、司法上における資格(権利や政策など)の形式的な主張とは異なる見方を含んでいる。道徳的価値としての見方は、資格への「アクセス」の決定において参考とされがちである。例えば、法律上または政策上、難民に医療を受ける権利があったとしても、それらを受ける道徳的価値はないと最前線の担当者が判断すれば、こうした権利は拒まれかねない。

制度上または構造上において差別が存在する場合、人種または民族によって公的サービスや医療へのアクセスを制限されかねない。

このような差別は、移住者の健康に大きな影響をあたえる恐れがある。人種差別は身体的にも精神的にも、精神障害と身体的不健康という形で現れかねない。制度上または構造上において差別が存在する場合、人種または民族によって公的サービスや医療へのアクセスを制限されかねない。住宅政策により、移民が良質な学校や病院、公共交通手段から遠い郊外の団地に集中するなどの社会的分離がその一例だ。これは、個人による差別ではなく、格差を永続させるような不公正な法律と政策の制度によって行われるのだ。

フランスの担当官を対象とする別の調査では、支援するに値するかどうかは、トラウマや暴力の医学的証拠(身体的、精神的外傷など)に左右されると明らかになった。庇護申請に診断書が用いられるケースの増加からも、難民の地位を認めるか否かを決定する際、診断書が申請者の証言の代わりになっているとわかる。そこに見られるのは信頼の欠如だ。

偏見を減らすための道のりを描く

「偏見削減」は、学校や職場、医療現場、特定集団(HIV感染者とエイズ患者など)を含め、さまざまな環境や人々に共通する関心事となってきている。偏見を減らすための対応としては、文化や集団横断的な交流やダイバーシティ研修、ピア・ラーニング(学習者同士が協力して学ぶ学習方法)などの取り組みが挙げられる。しかし、異なる環境下においても効果を上げる可能性が最も大きいのはどの対応かを理解するための証拠の収集は、まだ十分に進んでいない。

インドネシア、スラバヤの拘置所で、庇護申請の審査結果を待つ間に健康診断を受ける難民。 Photo: © International Organization for Migration/Muse Mohammed

国連大学グローバルヘルス研究所(UNU-IIGH)、ナレースワン大学(タイ)、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者たちは、人種差別・外国人嫌悪の削減策が難民や移民と接する最前線の行政担当者におよぼす影響を示す新たな組織的マップの作成により、この証拠不足を埋めようと努めている。検討対象となっている対策は、難民患者をケアする医療従事者向けの文化的感受性(文化の違いや類似を理解する)の研修、人身取引被害者発見率の向上を目指す入国管理官向け研修、対象を絞った国別の人種差別対策メディア・キャンペーン、および、移民や難民にサービスを提供する際の差別を違法とする立法措置など、多岐に及ぶ。

このマップにより、医療、教育、入国管理その他の公共部門でサービスを提供する際の態度と行動の変化という成果は、偏見削減に向けた対策による効果か否かを検討できるようになるだろう。また、差別を減らすためにグローバル・サウスで実施されてきた対策のうち、どれが効果を期待できるかも明らかになるだろう。

今後の方向性

「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト」は、行政担当者による差別をなくすため、一連の行動を求めている。具体的には、憎悪犯罪を発見し対処するとともに、人権と差別禁止を守る形で移民拘置手続きを運用できるよう、職員に研修を実施するなど。さらに、移民向けサービスの提供において、差別を禁止するための措置を講じることも挙げられる。

移民と難民の包摂を図るための総合的な政策対応の一環として、行政担当者による人種差別と偏見に取り組む必要がある。まずは、人種差別や偏見に対処するうえで「何が効果的なのか」の検討から始めてみよう。

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著者

クララ・チャン氏は、英国出身の臨床薬剤師(専門は精神衛生)。ロンドン大学衛生熱帯医学大学院で公衆衛生学修士号を取得。現在は国連大学グローバルヘルス研究所(UNU-IIGH)でリサーチ・インターンとして研修中。

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